第十五話 共犯者
正門をくぐり大通りに向かいながら、私は隣の少年に言葉を返した。
「つまり、私とあんたで次の体力テストに出たい、と」
「あぁ。ルーネルは実力主義の国だ。ある程度の実力を見せられれば、文句を言う輩は減る。どうだ?」
私は横目で少年――ロドリウスというらしい。覚えにくいのでロドと呼ぶ――を見た。
「あんたと組まなきゃならない理由は?」
「別にないが、実力がある同士が組んだほうが、優勝はより近くなる。言っとくが、一人で突破できるほど甘くはないらしいぜ?あと俺はパートナーがいない」
実力の高そうなパートナーを獲得できることに、特に不満はない。
さっきの追いかけてきた時のスピードといい、私の渾身の一撃を喰らってもケロリとしているところといい、その実力は疑うまでもない。
しかし。
「実力だけで、黙ると思う?」
実力だけで黙るんなら、私は今、苦労してない。
出る杭は打たれる。飛び抜ければ飛び抜けるほど、その芽は摘まれる。
ロドは目を細めた。ゆっくりと口の端を曲げ、笑う。
「さぁな。だが、流れは変わるぜ」
「どんな風に?」
「俺達は、今抑圧されている生徒たちの代表みたいなもんだ」
私は眉間にしわを寄せつつも、先を促す。
「かたや家柄も何もない農民上がり。かたやぽっと出の非国民。どっちもお貴族達にとっちゃ気に入らない存在で、今や不満のはけ口だ。しかしお前はその流れを最初動かしていた。下級貴族を巻き込んで、盛大に見世物に仕立て上げてたからな。俺だって俺のやり方で、割と下級貴族の方を味方につけてる。ここで俺達が上級貴族を負かすことは、下級貴族に希望を与えることにつながる。一度土手っ腹を蹴っ飛ばしてやれば、しばらくは揺らぐぜ。そこでうまく黙らせられれば俺らの勝ち」
「黙らせられなかったら、自分たちに恥をかかせた相手として全力でつぶしに来るよね」
「そしたらまぁ何とかするしかねぇなぁ」
カラカラと笑う、能天気な男に呆れた。私が白い目を向けていると、ロドが一瞬笑みを消す。
「この国は実力制になるべきなのに、未だいたるところで階級の壁が残ってる。この学園もそれだ。俺はそれをブチ破るためにここに来たんだよ」
一瞬宿った強い光に、ゾクリとした。
彼は本気だ。時代を変える、変えられる人間だ。
「……分かった、協力する」
「いいのか?こっちから言い出しといてなんだが、結構茨の道だぜ?」
逃げ道を作ってくれたロドに感謝しつつも、「いい」と切り捨てる。
反感を買うことを知っていても、私は『出る杭』であり続けなければならない。この国の人間の心に、記憶に残り続けなければならない。
もう二度と、私のような犠牲者が現れないように。
「一緒に優勝目指そう。よろしく、ロド」
「おう。これからよろしくな、アカネ」
私の当初の目的は制服を買うことだったので、その後ロドとは一旦別れ、私は正門に向かった。
昨日のうちに連絡を入れてあったので、既に正門にはレティの姿があった。彼女は私を見るとパッと笑みを浮かべ、それから慌てて慇懃に礼をする。
「お久しぶりでございます、アカネ様」
「お久しぶり、レティ。アカネ様じゃなくてアカネって呼んでよ。前みたいに」
「いいえ。そのようなことをすれば、アカネ様が見くびられますわ。仮にも公爵家の方が、使用人に呼び捨てられるなど。……公私の区別は付けさせてくださいませ」
人目のあるところでは敬語を崩さない。それが彼女の引いた一線のようだった。私は彼女の意思を理解して頷く。
「それで、今日はどのような用件で?」
「うん、制服を新調したいんだけど、どっか良い仕立て屋ってないかな」
私がそう訊くと、彼女はあらかさまに眉をひそめた。
「……どうして、この短期間で制服を仕立てる必要性が出てくるんです?」
「……えぇっと、この前料理をこぼして大きな染みができちゃったんだ?」
てへっ、とごまかすと、「だから学園になど行くべきではないと言ったんです」と彼女はため息をついた。
「仕立て屋は公爵家が贔屓にしているものがいくつかありますが……急ぎであれば、ここ最近人気の仕立て屋が良いと思いますよ。腕が確かでスピードが速い、と。確か下級貴族相手にここの制服も作っていたはずです」
「へぇ、なんて店?」
レティは胸元のネックレスを軽く弄びながら、くすりと笑った。
「『針ねずみ』、という店だそうですよ」




