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美しきこの世界で  作者: 猫柳
第二章  歩き出したら
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第十三話  これを幸せというのでしょう

教壇で朗々と連絡事項を述べる教師の声を聞き流しながら、私は手帳を眺めていた。


犯人の目星はまだついてはいないが、私の部屋に忍び込むことができるという線から、少しは絞り込めるだろう。

いつの間にか、鉛を飲み込んでしまったようだった。心が重く沈んで、その奥の奥で、怒りが燻っている。


「アカネアカネ、おーい生きとるか?」

「……うん?」


気がつくと、机を挟んで向こう側からセレンが私を覗き込んでいた。傍にはウォルトと委員長の姿もある。


「どした?なんかあった?」

「いや、アカネがなんかぼーっとしてたからさ。というか、ちゃんと話聞いてたんでしょうね」

「あー、ちゃんと聞いてた聞いてた。2ヶ月後に体力テストがあるってのとー、定期テストが近いです的な話だよねー」


へらへらと笑って答えると、「でさぁ、」とウォルトが言葉を繋げた。


「アカネは誰とペア組むん?体力テスト」

「…………うん?」




ペア、だと?









「聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない」

「おい、アカネが壊れたぞ」

「あぁ大丈夫ですよ委員長。元々壊れてますから」


セレンの発言に突っ込む暇もない。


二ヶ月後にあるという、体力テスト。その名のとおり生徒の体力を図るものなのだが、それは現代の体力テストのような楽ちんなものではないという。

……簡単に説明すれば、二泊三日障害物競走である。

学園の裏に、普段は立ち入り禁止になっている裏山ある。なぜ立ち入り禁止かと聞かれればもちろん、裏山がトラップハウスだからである。

瞬発力、判断力、持久力、筋力、その他もろもろがなければ突破するのは困難な、多くの罠が巡らされたその裏山を、三日間ひたすら駆けずり回る、それが体力テストの中身らしい。誰だそんなの考えたのは。ここ貴族の学校だろうが。


「まぁ、参加しないって手もあるけどさ。武術コースを取る人は避けて通れない道なんだけど、女子はあんま進まないから、体力に自信のある人だけ出るんだよねー。アカネは体力自信ありそうだから、出るのかなって思ったんだけど」

「あー、それは避けて通れないなぁ。私武術コース取りたいし」


私の言葉に、委員長が一瞬ぎょっとしたように一歩引き、すぐに諦めたようにため息をついた。


「……お前は、常識を持って接してはいけない人物なんだな」

「失礼だねぇ委員長。そして驚かないね残りのお二人さん」

「「もう慣れた」」


それもまた失礼な話である。私は腕を組んで、ふむ、と呟いた。


「参加者かぁ。大体、学年でどれぐらい参加するの?」

「大抵は六、七割だな。お前の実力なら、結構上位に食い込めるんじゃないか?」


学年の人数は、たしか二百人程度。参加者がその65%だとすると、百二十人程。さらにそれがペアになるのだから、約六十組。なら、狙う順位は決まってる。


「首位になりたいなぁ。せめても三位以内」


しばらくの沈黙。


「これは突っ込むところかねぇ、アカネ嬢」

「突っ込むもよし、お前バカじゃねえのと呆れるもよし。反応がないのが一番寂しいんだよね」

「んじゃ呆れとこ。まじパネェなお前。賭博仕組んでくるから絶対優勝しろよ。大損したらお前のせいだからな」

「賭けるんかいッ!」


賭け事は禁止だッ、とセレンがウォルトの頭を叩く。聞くところによるとウォルトはよく、賭けで金を使い果たしてはセレンのところに集りに来るらしい。ダメ人間になる将来が手に取るように見える。


「で、三人は出るの?」


委員長は肩をすくめた。


「俺は今のところ出るつもりはないな。俺は文官狙いだから」

「俺は出るぞー。賭け仲間と一緒になー」


にへへ、と笑うウォルトと反対に、セレンは渋い顔で「私はパス。もう参加しないってことで、裏方に回っちゃった」と言った。


「裏方って、運営も生徒がやんの?」

「教師だけじゃ手が足りないでしょ。雑用係よ雑用係。参加しない三割は雑用に回るの」


くるくると髪を弄びながら、セレンが言う。


「と、いうことでー。アカネどうすんの?当てがいなかったりする?」

「いないなぁ……まぁ、テキトーに探してみるよ」


のんびりと答えて、ふと、心が軽くなっていることに苦笑する。




ありきたりな日常ほど、幸せなものはないって、この世界に来て初めて知った。

出すつもりだった男が出てこなかった。

おかしいな……

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