第十二話 模倣犯
《前話のあらすじ》
学校に入ってから嫌がらせの被害に遭っている茜。彼女は外だけではなく、教室内でも、謎の人物による不快を催すような置き土産の被害に遭っていた。
しかし、精神の図太い彼女よりも、その被害に遭っているのは、なんとほかのクラスメイト達。
かくして、クラスメイト達は茜との敵対を一時解除し、彼女への不快な置き土産を残す謎の人物を「迷惑人物」と名称し、「第三回迷惑人物対策委員会」を開会したのであった。
第三回迷惑人物対策委員会が開会されてから、一週間。
「こっちで来たか……」
やられた、と私は小さくため息をついた。
学園の生徒は、一人一つの個室を与えられる。貴族たちのとっては物足りないであろうが、そこそこの広さのある部屋だ。
その、私の部屋は、現在嵐でも起きたかのようなひどい状態になっていた。
私はため息をついて、一つ一つの被害を確認していく。
「教科書はギリギリだけど……うわぁ、ノートずたずた……」
窓ガラスには大きな穴が空き、破られた布団から出た羽毛が風に舞い上がる。机の引き出しは全て床に散乱し、所々破損しているのが分かった。
「ごめん、もう少し異音に早く気づけば、ここまでならなくて済んだんだろうけど……」
そう言って肩を落としたのは、私の隣の部屋で暮らす同級生だ。彼女に罪はない、私は「気にしないで」と笑った。
「私に、出来ることある?片付け手伝おうか?」
「ううん。ここは私一人でやらせて。ただ、しばらく一人になりたいから、野次馬が来たら追い払っておいてくれると嬉しいかなぁ」
優しい少女は、私の言葉に深く頷いた。悪いけど、外のことは彼女に任せて、私は部屋に入り後ろ手に扉を閉める。
「……さて」
部屋の中央に、何かの塗料で書き込まれた文字を凝視する。
『非国民に神罰が下る』
「非国民、ね……確かに私、この国の人じゃないし」
ぐいっと口の端を曲げる。冷ややかな目でそれを観察し、次いで、部屋全体を見回す。
「……汚い」
それは、ぐちゃぐちゃに汚されているから、というわけではない。そこに、美学がないのだ。
犯罪者などの中には、時に人には理解されにくい美学を持つ者がいる。彼らには彼ら特有のルールがあり、こだわりがあり、それに則って行動する。
しかし、この部屋に、少なくとも美学があるようには見えなかった。手当たり次第に剣か何かで切りつけたのであろう、ボロボロになった家具。切り裂かれた布団から舞い上がった羽毛があちらこちらに落ちている。引き出しの中身は床に散乱し、踏みつけられたのかわずかにひしゃげていた。
レティに買ってもらった本の、表紙であったものを手に取り、ぎりりと歯を食いしばる。
「……地獄見せてやる」
一つ一つ、丁寧に拾い上げながら、私は呻くように小さく呟いた。
「五回目は、まさか自室とはな……こちらの監視が強まったせいで、犯行現場を変えたのか?」
翌日。私の話を聞きながら、委員長が呻いた。
第三回迷惑人物対策委員会が開かれてから、クラスメイト達でできる限り早朝から教室に人目を置くようになった。魔術の得意な生徒が集まって制作した、映像記録機も設置されており、犯人が何かした場合その記録が残るようになっている。
けれど、私は首を振って自分の意見を述べた。
「あれは別人だと思うよ。いわゆる模倣犯。もっとも、全く似てなさすぎて模倣と呼んでもいいのか考えちゃうけど」
「違う?」
首をかしげるセレンとウォルトに、私は頷いた。
「今まで、クラスに出没した迷惑人物は、私の持ち物に手を出したことはなかった。椅子を一個ダメにしたけど、それ以外壊したこともないし、そもそも力任せに片っ端から破壊するようなことはしてない。もし同じ犯人だったら、もっと丁寧に、もっとインパクトのある行動を残すよ」
クラスメイト達は揃って、訳分からん、というような表情を顔に浮かべた。
「……ともかく、別口だと?」
「そゆこと。委員長、ひじょーに身勝手なんだけど、クラスの方の犯人はしばらくそっちに任せといていい?」
「いいが、お前はどうするんだ?」
そろり、と私の顔を覗き込んだウォルトが、「アカネ嬢や」と呟いた。
「もしかして、ブチ切れてね?」
「私、持ち物には愛着がある方なんだよね。ブチ切れないとでも?」
後にセレンが言うところの、「悪魔も素足で逃げ出す笑顔」を顔に浮かべて、私は静かに言う。
「今回の犯人、絶対ぶちのめす」
ちょっと短めです。ごめんなさい。




