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美しきこの世界で  作者: 猫柳
第二章  歩き出したら
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第十一話 なんて平和な日常

数行血なまぐさい描写が入ります。

次話に簡単なあらすじを載せる予定なので、苦手な方は回避してください。

「おおおおお……」


教室にて。ここ数日見かけていなかった久しぶりの芸術作品が机と椅子の上に鎮座しているのを見て、思わず私は感嘆した。


まず、机の上にひっくり返して乗せられた椅子。その上にででんと山積みになったゴミ。虫の死体。頂点には、じろりとこちらを睨む光を失った瞳を持つ、鳥の頭。

椅子が机の上にある、ということはつまり、このゴミを片付けないと席に座れないということだ。もちろん片付けてからも座りたくないのだが。鳥の死体から流れる血が染みを作っている。


流石にこれは、周りの生徒もドン引いている。近くのクラスメイトを捕まえて話を聞くと、早朝には既にこれが完成していたらしい。


「まったく、その根性を褒め称えるよ。特に朝っぱらからこれだけやるんだからな」

「そろそろ本気で先生に訴えるべきだと思うな、私は」


となりから声をかけてくれたのは、私と比較的仲の良い男女のクラスメイトだ。男子の方はウォルト、女子の方はセレン。ウォルトは感心したような表情をしているが、セレンは青い顔をして机から視線を背けている。


「私も褒め称える方かなー。どうよこの嫌がらせ精神。厨房からかっぱらってきたのかほかのところから持ってきたのか知らないけど、嫌がらせのためなら手間を惜しまないこの精神は賞賛に値する」

「俺から言わせてもらうと、鳥の頭だけってのはちょっとインパクトに欠けるな。もうちょい下の方を……そう、このトッピング程度の虫をゴミの代わりに山積みにする」

「んで鳥の頭乗っけてー」

「ナイフをグサッと!」

「本気でやめなさい。……吐く」

「「ごめんなさい」」


流石に友人を吐かせる訳にはいかないので、私たちは慌ててゴミ山の処理にかかった。


この時クラス内にほとんど女子がいなかったのは、大体がトイレに直行したせいだということを聞いて、私はクラスメイト達に頭を下げて回ることになった。


元凶は嫌がらせをしてきた相手なのだが。別の意味で、私に精神的疲労を与えることに成功したようだ。


改めて、椅子を新調しゴミを処理してきた私たちは、チャイムが鳴るギリギリに教室に滑り込み、どうにかこうにか授業をこなした。


陰湿ないじめといえば授業の間でも、というのが通例だが、うちのクラスにその心配はない。


教師が黒板の方に向いている隙を見て、後ろの席から机に丸められた紙片が飛んできた。


こっそりと開くと、書いた主の怒りが伝わる荒々しい字で、要点が簡潔にまとめられている。


『昼休み、第三回迷惑人物対策委員会を開会。教室に待機するように。

 読んだら前に回すこと。最前列は処分』


少々陰湿という枠を外れてしまった迷惑人物さんは、だいぶ前から一クラス丸々敵に回していたのだった。





「これより、第三回迷惑人物対策委員会を開会する。司会進行は俺、ラディウスが行う」


そう言ってクラスの壇上に立ったのは、うちのクラスの委員長ラディウスだった。撫で付けられた金の髪といい、切れ長の瞳の手前にかかる銀縁眼鏡といい、神経質で几帳面な優等生を絵に書いたような少年だ。


「今回で、このような『悪質』かつ『広被害』な嫌がらせが行われたのは四回目である。被害者アカネ・コレット、何か一言」

「鳥の体もついていればみんなで調理して食べられるのに、気が利かないよねぇ……」

「……、……。えー、現在分かっている手がかりを一つ一つ確認していこう」


委員長はツッコミを諦めた。


「一つ、犯人は毎度のことながら、嫌がらせに使う材料を手に入れるための広いツテを持っている。二つ、犯人はかなり早朝から活動する癖のあるものである。三つ」


そこで一旦委員長は言葉を切り、数段低い声で言う。


「犯人は、とにかく空気を読めない大馬鹿野郎だ」


クラス全員が静かに首を縦に降る。この団結力はもはや黒髪差別などを超越する、異常なまでの結束であった。

いつの間にか変なことになったもんだ、と私は苦笑する。こういうのは、いじめを受ける本人が奮闘するべきだろうに。本人は端っこでニヤニヤしてて、クラスの方が熱意を入れて撃退策を講じ始めるというのは、あまりない光景だ。いじめっこは墓穴を掘りすぎた。


途中まで会話を仕切っていた委員長は、議論が白熱し始めた頃を見計らってそれなりにまとめるのが得意な生徒に後を任せ、輪から離脱してこちらへとやって来る。


「お前も参加しないのか?」

「私はねー。みんなほど熱意がないからいいや」

「被害者のくせに淡白な……」


呆れたような口調で、彼は静かに教室中を見回していた。


「委員長こそ、私のこと嫌いなのに、よくそこまでやるね」


その横顔ににやりと笑いかけてやると、委員長は困ったような顔をする。


彼の家は、黒髪を厭う代表的な家の一つだ。だからこそ、入学当時彼からの視線は厳しいものだった。あの頃のことを考えると、教室の端で普通に話しているのが不思議でならない。


「……別に、嫌いではない」

「え、それって私が好きって事?きゃーどうしよう、私困っちゃーう」

「な、違っ……、……、お前人をからかって楽しいか?」

「ものすごく楽しい」


お前も大概空気読まないよな、と委員長のため息が討論の声に溶けた。

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