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美しきこの世界で  作者: 猫柳
第二章  歩き出したら
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第十話  遊び方は人それぞれ

澄み渡る空に、わずかばかりちぎったような雲の浮かんだ空。本日は晴天なり。


ぼんやりとそんなことを考えながら、私は校舎へと向かう道を歩いていた。


学園に入学してから、はや一ヶ月。下ろし立てであった制服もだんだん体に馴染み始めた頃合である。


「――来たわよ」


本当にかすかな囁き声とともに、私はカバンを抱えて横に飛ぶ。一拍を置いて、私が立っていた場所に降り注ぐ水。


馴染んできたのは制服だけではなく、反射神経ものようだ。

もはや王道過ぎて感動ものである。漫画の中のようなシーンを、まさか自分が体験することになるとは。


こっそり感動しつつ、顔だけは無表情を保ったまま上を見上げる。耳を打つ舌打ちの音。校舎の二階の窓のところに、女子生徒が二人、バケツを持ってこちらを睨んでいた。


「……ごめんあそばせ。まさか下に人がいるとは思いませんでしたわ。ゴミと見間違えてしまいまして」

「いえいえ、いいんですよ?貴方の使い物にならない目には期待しておりませんので、お気遣い無く」


洋風の、格式高そうな学校。そして広がる泥沼展開!


これをレティが見たら恐らく号泣する。号泣した後に、私のけろりとした態度を見て「まるで私がバカみたいじゃないですか!!」と怒るな、うん。


『私も、本当は、本当はついて行きたいのですわ。アカネ様お一人では一体どんな仕打ちに合うことか……。何かありましたら、必ず戻ってきてくださいませ。約束ですわよ』

屋敷を出るときに泣き出しそうな顔をしていたレティを思い出して、苦笑する。


まともな学園生活を諦めれば、意外とそこそこ楽しめるものだ、ということを私は三日で理解した。


ニッコリと笑って水滴を払うと、私は再びカバンを持って歩き出した。




学園の生徒の、私に対する反応は三種類である。


黒髪に著しい敵愾心を抱く者。特に無反応の者。事情を知って同情してくれる者。

入学してすぐの頃は何人か喋りかけてくれる友人もいたのだが、一ヶ月経った今では、どちらかというと私が彼らを遠ざけるようになっていた。理由は簡単、巻き込みたくないからだ。


黒髪に著しい敵愾心を抱く者達は、主に上流貴族に多い。そして、事情を知って同情してくれる者達は、下級貴族に多い。


それは多分、上流貴族ほど人を見下す教育をなされているからなのだと思うのだが、これはあまり良い関係とは言えなかった。学園内では基本的に身分は平等と定められている。しかし、定められているからといって実際に平等なわけではない。上流貴族にひどく逆らうことによって、彼らがこの先生きにくくなってしまうことだけは避けたかった。


とはいえ、彼らは本当にいい人ばかりで、ちまちまと私の支援をしてくれる。

無理に協力しなくても、と言った時は、「ふんぞり返ってばかりのあいつらには良い気味です!むしろもっとやって下さい!」と爽やかな笑顔で言ってくれた。

頼もしい後方支援隊である。


それに、私の味方はけして支援隊だけではない。



校舎までの道のりは、まさに罠の道トラップ・ロード。柄の悪い上級生が建物の裏に連れ込んでやろうと待ち構えていたり、ゴミ箱やバケツを構えた人々が窓から身を乗り出していたり、バナナの皮が大量に並べてあったり、毎度毎度それをかわしていく私の曲芸目当ての観客がたむろしていたりする。この学園も大概いい性格をしている。


「今日こそは!目標タイム十秒切りますッ!」

高らかに宣言すれば、観客たちが色めき立つ。

「おっ、言ったな!俺切れない方に銅貨一枚」

「んじゃ俺も切れない方に石貨十五枚」

「大口狙いで切れる方に銅一枚!」

「大口狙うならもっと賭けろよ」

というか賭けをするなよ。罠を仕掛けている生徒たちが、あらかさまに渋い顔をする。


いつも使っている渡り廊下をスタート地点として、私は軽く柔軟をこなす。


「さて、行っきまーす!!」



私は常に前を向き続ける。下なんて、絶対に向いてやらない。






「のんきな奴」


校舎の屋上、誰もいない特等席から、一人、下を見下ろしている一年生がいた。


燃えるような赤い髪に、釣り上がった金の瞳。その瞳が捉えるのは、敵をものともせず、自分のペースに引き込みさらりとかわしていく、黒髪の少女の姿。


体を動かすことが得意なのだろう。少女は蜂蜜色の手足を大きく動かし、派手なパフォーマンスとともに次々と罠をかわしていく。敷き詰められたバナナの皮に、「どうせなら中身が欲しいなぁ」などと呟く余裕っぷりだ。


「……いい動きだな、あいつ」


あまり持久力はないようで、駆け抜けた後は大げさなまでに肩を揺らしている。が、その俊敏さは学年でも、いや、学園内でも一、二を争える程度のものだろう。


蜂蜜色の肌、濡れ羽色の髪に、黒曜石の瞳。この学園で今や知らぬ者はいない、話題の少女。


「アカネ・コレット、か……欲しいな」




にやりと少年は笑う。気に入ったおもちゃを見つけた子供のような笑みで。


お金の単位


石貨 →二十五円程度 

銅貨 →五百円程度

銀貨 →一万円程度

金貨 →二十万程度

聖金貨→四百万円程度


二十枚で上位硬貨と交換できます。

石貨は「せっか」と読み、文字通り特殊な石でできた硬貨です。

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