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ひょんなことから、憧れの辺境伯家とご縁が出来ました。  作者: 夏笆


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8/20

ひょんなこと 8、



「やりましたね、お嬢様」

 カシルダの隣で、スレマが嬉しそうに笑う。

 何でもないように笑っている彼女だが、自身も、直前までカシルダの侍女として後ろに控えていたにも係わらず、話が決着するや否や荷馬車の御者台に乗っていた。

 普通の侍女なら、出来ない早業である。

「さあ、行きましょう!グラナド辺境伯領の、花まつりへ!」

「楽しみですね、お嬢様!」

 楽し気な声をあげ、時に歌いながら、ふたりは来た道の更に先、グラナド辺境伯領へと向かう。

「マリオは、どのくらいで追いつくかしら?一緒に花まつり、周れるわよね?」

 自分達とは反対の方向である来た道、王都へと向かっている護衛マリオとは、グラナド辺境伯領都で再会の約束をしている関係から、カシルダは指折って数えてみた。

「そうですね。開催期間は二十日もあると聞いていますから、大丈夫だと思います。セグロラ領では馬を変えられませんが、アラニス伯爵領に入れば、可能ですから。あの男なら、五日もあれば追い付くでしょう」

 馬を変えることも出来ないセグロラ侯爵領とは違い、すぐ隣の領だというのに、アラニス伯爵領は随分と便が良かったと言うスレマに、カシルダも頷いた。

「面白いわよね。アラニス伯爵領とグラナド辺境伯領は栄えているのに、その間のセグロラ侯爵領だけ、宿屋もなければ馬を変えることも出来ない村しかないなんて」

「本当ですよねえ・・って、お嬢様。あれ、もしかして」

 スレマの言葉に頷くと同時、カシルダは幌馬車の速度を限界まであげた。

「ええ。馬車が襲われているわ。助けが必要かもしれない。スレマ、私の剣を!」

「はいっ、お嬢様!」



「加勢いたしますか!?」

「頼む!」

 幌馬車を飛び降り、応戦している騎士のひとりにカシルダが聞けば、すぐさま切羽詰まった声が返った。

「へえ!自ら上等な獲物が飛び込んで来たぜ!いいぜ、俺が可愛がって・・・ぐぇっ」

 それと同時、下卑た声も聞こえたが、スレマが即座に蹴り潰す。

「下郎が!そうやって終生、地べたを這いずり回っているといいわ!」

「・・・うわあ、痛そう。私には、生涯分からない痛みだけれど」

 本当に蹴り潰されてしまったのではと思うほど、股間を押さえたまま、脂汗を浮かべてのたうつ男をちらりと見て、カシルダは次々と迫る敵と応対していく。

「数が多いわね」

 馬車の元からの護衛も良く闘っているが、如何せん相手の数が多い。

 致命傷は与えずに、戦闘不能にする方向で動いているが、このままではと思っていると、女性のたまぎるような悲鳴が轟いた。

「っ」

 はっとして見れば、カシルダも護衛も馬車から離されており、その扉をひとりの襲撃者がこじ開けている。

「させませんっ!」

 すぐさま駆け寄ったカシルダは、男を馬車から引きずり落とすと、馬車の中に向かって叫んだ。

「通りすがりの者ですが、加勢いたします!」

 それだけ言うと、カシルダは馬車の扉を閉め、その前で再び戦い出す。

 馬車の中に居たのは、女性がふたり。

 主従と見える彼女たちは、抱き合って震えていた。


 そうよね。

 怖いわよね。


 こんな下卑た男たちに囲まれて、さぞかし恐怖を感じているだろうと思うカシルダだが、相手の数がなかなか減らない。

 これは、当て身ではなく、切り捨てるしかないかと思い始めたとき、数騎と思われる蹄の音が地鳴りのように近づいて来た。


 まさか。

 まだ、増えるの?

 しかも騎馬って。

 ・・・え、待って。

 あの、紋章旗は。


 一瞬の絶望の後、カシルダの胸に湧き上がった希望。

 彼女に目に映ったのは、グラナド辺境伯家の紋章旗。


「まずい!グラナドの黒い鷹だ!」

「いいや、かまわねえ!この際だから、やっちまえ!」

「うおおおおお!」

 襲撃者たちが、新たな獲物とばかりに騎馬へと向かうも簡単に蹴散らされ、先頭の騎士が、剣を二度、三度、振るったところで自ら投降した。


 け、結末、あっけない。

 あれが、本物の辺境伯家の力。

 やっぱり、凄い!


 重い甲冑を身に着けていながら、素早く剣を振るうその姿に、カシルダは惚れ惚れと見とれてしまう。


 あの方は、あの時の。


「ああ。ドレスの騎士様。本当に、ありがとうございました」

 その時、可憐な女性の声がして、カシルダは思わずスレマを見た。

「侍女の方も、ありがとうございます」

 すると、可憐な声の女性は、きちんとスレマにも挨拶をする。

「いえ。わたくしは、お嬢様の指示に従ったまでにございます」

 カシルダの一歩後ろでそう答えるスレマは、もう既にいつもの侍女に戻っていて、カシルダは、思わず手にある剣を見つめた。

 スレマの使う暗器と違って、剣は簡単には仕舞えない。

「ヒスペルト伯爵夫人。お怪我はありませんでしたか?」

 そこへ、バシネットを外して素顔を晒した騎士が声を掛けて来る。

「グラナド辺境伯子息。こちらの、ドレスの騎士様たちのお助けありまして、無事でございますわ」

 夫人が言えば、その後ろに控える護衛騎士達も、揃ってカシルダとスレマに向かい頭を下げた。

「勇敢なる戦いぶり、拝見しました。自分は、グラナド辺境伯家のトリスタンと申します。駆けつけるのが遅くなり、申し訳ありません」

「いえ。ちょうど、通りすがっただけですので。お役に立てて、何よりです」

 そう言って礼をとろうとしたカシルダは、瞬時考える。


 ん?

 今の私は、どちらの礼を取るべき?


 剣を持ったままのドレス姿ということで、騎士の礼をすべきか貴族令嬢の礼をすべきか一瞬迷ったカシルダは、ドレスなのだからと、令嬢の礼を選ぶ。

 ドレスの裾を鮮やかにさばき、剣を後ろへすっと引いた姿勢は美しく、その場の全員の目を引いた。

「丁寧な挨拶、痛み入ります。ご令嬢。お名前を、伺ってもよろしいでしょうか」

「はい。アバスカル侯爵家が次女、カシルダと申します」

 黒い髪、黒い瞳の精悍なトリスタンに問われ、カシルダはもう一度、腰を深く折った。





ありがとうございます。

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