グラナド辺境伯領 10、
「お嬢様!うちの花かんざしも見てください!」
「俺のところも見てくれ!」
「こっちにも来てください!」
花かんざしを当ててみせたカシルダの姿に、通りの露店から次々に声がかかる。
「ああ・・あたしんとこが一番端だからねえ。そりゃ、あっちの方の奴らも見てほしいんだろうと思うよ」
「見て回る、つもりではいるのですが」
通りの先まで続いている露店を眺め、カシルダは、そこで一つずつ花かんざしを買うとどのくらいの数になるのか考え、両手でも持ちきれないと途方に暮れ、どうしたものかとトリスタンを見上げた。
そのトリスタンもまた、自分が誰なのか知っていると理解した今、ひとつの店舗だけで買い求めるのは良くないのではと思案する。
「そう、だな。ひとつの店舗につき一輪ずつ購入する・・と、カシルダ嬢の髪が花まみれになるか」
「いや、それも可愛いんじゃないかい!?でも、挿すのが大変かねえ」
花まみれでも可愛いだろうという店主に周りも頷くが、挿すのが大変というのも同意らしく、皆一様に頭を抱えてしまった。
「あ!それなら、私に考えがありますので、大丈夫です。一輪ずつ、買い求めましょう。店主さん、このお花の一輪のものをくださいますか?」
カシルダが、トリスタンの選んだ花かんざしに付いていた花を指せば、店主がにこりと笑って、その花を一輪、丁寧に差し出す。
「いいよ、いいよ。これは、あたしからのプレゼントだ」
「え?でも」
「ほら、見てごらんよ。みんな嬉しそうに、お嬢さんに渡す花を用意し始めているだろ?だから、遠慮しないで受け取っておくれ。あたしたちが、直接お祝い出来るなんてないから。願いを込めた前祝いってことでさ」
「え?お祝い?願いを込めた前祝い?」
一体、何の前祝いかと戸惑うカシルダに、店主は柔らかな紅の花を持たせると、トリスタンが、その前にずいと出る。
「カシルダ嬢。たくさんの花を貰っても考えがあると言っていたが、それは、どういう?」
「あ、はい。花を編んで、カチューシャにすればいいと思いまして」
「それはいいね!みんな、聞いたかい!?お嬢さんが編みやすい花を選んでやっとくれ!りぼんやレースもいいかもしんないね!」
そして、何故か前のめりに聞いてきたトリスタンに答え、その答えに店主が喜び叫んだことで、カシルダの思考は、すっかりと切り替えられた。
「・・・ほう。器用なものだな」
「たくさんのお花やレース、それにりぼん!嬉しいです!」
花を組み合わせ、レースやりぼんと共にカチューシャを編んでいくカシルダは本当に嬉しそうで、トリスタンの目も、益々優しくなっていく。
「まあ、見て。若君ってば、あんなに嬉しそうに笑って」
「おうよ。あんな幸せそうな若様は、初めて見るな」
「いつも優しいけど、あんな甘い瞳は、しないものねえ」
「そりゃ、あのお嬢さんといるからだろ」
「だよね。ほら、見てご覧よ。お嬢さん、本当に嬉しそうに花を編んで」
「そんでもって、若様と背中を合わせて戦えるんだろ?伝説のふたりの再来じゃねえか」
「あのお嬢さんが、お嫁に来てくれたら、いいねえ」
「ほんと、それだよ」
「女神様に、よおおおおく、お願いだね」
そして、何を話しているかは分からないまでも、周りの温かい視線は感じながら、カシルダは、完成したカチューシャを頭に着けた。
「どうですか?」
「ああ・・とても似合う」
耳元で、ひらりと風に舞うりぼんがまた似合うと、トリスタンは、そっとカシルダの前髪に触れようとして、はっとしたように手を引く。
「すまない。つい」
「いいえ。構いません。お花、きれいですものね」
ふふ、と笑い、カシルダは、今度は来た時と逆方向に進んで、完成したカチューシャを見せて歩いた。
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