グラナド辺境伯領 8、
「海老も貝も、本当に美味しいです。焼いただけで、こんなに美味しいなんて、大発見した気持ちです」
「その笑顔が、オレも嬉しい。気に入ったなら、邸でも出そう」
瞳を輝かせ、ほう、と美味しさのため息を吐くカシルダに、トリスタンも笑顔で答える。
「それは楽しみです。お邸ではお邸の、また別の味付けがあるのでしょうね・・・あ。すみません、また。食い気の勝った発言を」
「謝ることはない。確かに邸の料理は、こういったものとはまた別だから、楽しみにしていてくれ。と言っても、オレが作るわけじゃないが」
自分の言葉に自分で注釈を入れたふたりは、互いに笑い合い、木のカップを掲げて、幾度目になるか分からない乾杯をした。
「トリスタン様。先ほどは、剣を貸していただき、ありがとうございました」
「こちらこそ、助かった。それに、ハンカチも。ありがとう。これは、洗って返す」
「え?いえ、それはそのまま」
海鮮焼きに舌鼓を打ち、エールとワインも美味しく飲みほしたふたりは、使ったカップなどをきちんとまとめ始めたのだが、その際、トリスタンが当然のように、自分が貸したハンカチを懐へ仕舞うのを見たカシルダが止めようとするも、トリスタンの次なる動きに気を取られた。
「なるほど。カップなどは、まとめてそちらへ返却なのですね」
「ああ。複数の飲食店が、協力し合っているんだ」
祭り限定の野外飲食だなと笑って、トリスタンが動くの合わせて、カシルダも動く。
食べ終えた物の殻や包みを、始末すべき場所へトリスタンと共に運び、カップを指定のテーブルへ戻した後に、ドレスの裾を直す。
カシルダのそんな動きは、着ているドレスも相まって、既に辺境に馴染んでいるように見えるのが、トリスタンには、とても嬉しく感じられた。
そして、立てかけておいた剣を手にしたトリスタンは、大切にこの剣を捧げ持ち、返却してきた先のカシルダを思い出し、くすぐったく、温かい気持ちで再び剣を佩く。
そんなトリスタンの所作を、カシルダは、うっとりと見惚れる。
「やはり、トリスタン様がお持ちになるのが、一番しっくりきますね。けれど、貴重な体験をさせていただきました。トリスタン様の剣を、この手にすることが出来るなんて。夢のようでした」
「オレもだ。ご令嬢に背中を任せて戦えるなど、希少だからな」
互いに言って微笑み合い、ふたりは並んで歩き出した。
「今度は、どのような場所に行くのですか?」
「花そのものや、花を使った装飾品を扱う店の並びへ行こうと思う。花まつりの時だけにしか、造られない品もあるからな。とはいえ、カシルダ嬢が興味を引かれるかは、分からないが」
自信なさげなトリスタンの言葉に、しかし、カシルダの瞳がきらりと光る。
「花まつりの時だけにしか造られない、花を使ったお品。それはもしかして、花かんざしですか?」
「ああ、そうだ。よく知っているな」
「もちろん、存じております!初代グラナド辺境伯と、その夫人となられた方の物語は、幾度も読みましたから!・・あ。ごめんなさい」
思わず両手を胸の前で組み、弾む声で告げたカシルダは、周りの視線を集めたことに気づいて、己が両手で、己の口を塞いだ。
そして、更に気づく。
あ。
これも、人前でしては、駄目な所作。
ありがとうございます。




