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ひょんなことから、憧れの辺境伯家とご縁が出来ました。  作者: 夏笆


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15/20

グラナド辺境伯領 7、



「アニキを返せ」

「解放しろ」

「言う通りにしねえと、そっちのお嬢さんに痛い目みてもらうことになるぜ」

 脅迫するよう、ぎらりとナイフを光らせる彼らを見たカシルダは、トリスタンにそっと囁く。

「トリスタン様。荷物・・ベンチから、なるべく離れて応戦しましょう」

「それは賛成だが。その前に。オレに護られるという選択肢は?」

 当然のように参戦する気でいるカシルダに、トリスタンは、一応と尋ねる。

「相手、八人なので。流石に、ふたりの方が早いかと。生憎、剣は手元にありませんが、相手から奪えばいいだけですし。決して、お邪魔はしませんから」

「邪魔になるとは、思っていない」

「では、にも・・ベンチには近づけない方向で、よろしくお願いします」

「分かった。投げ飛ばす方向も考慮するから、安心してくれ」

 荷物を護る。

 それを重視したいと全身で訴えているのに、貴族令嬢であるからか、余りあからさまな言葉にしないよう注意しながらも、ところどころ漏れ出してしまっているカシルダを可愛いと見つめ、しっかりと頷いたトリスタンは、己の剣をカシルダに渡した。

 その事実に、カシルダは目を見開く。

「トリスタン様!騎士にとって、剣は命とお聞きします」

「だからこそだ。カシルダ嬢には、これを使ってほしい」

 言うなり、騎士の大事な剣をと慄(おのの)くカシルダに、押し付けるように己の剣を渡したトリスタンは、何やら喚き続けながら、少しずつ接近して来ていた男のひとりを蹴り上げて、そのナイフを奪う。

「わああ。流石。きれいな動き。ナイフさばきも素晴らしいのね・・・ちょっと。邪魔、しないでくださいませ。そこに立たれたら、トリスタン様が見えなくなるではないですか」

 蹴りという、野蛮とも取れる攻撃なのに美しいと見とれるカシルダに、別の男が切りかかるも、あっさりと剣でいなしたカシルダは、トリスタンの背に、自分の背を合わせた。

 そして互いに、それぞれ、剣とナイフを、一振り、二振り。

「なんだ、こいつら」

「すげえ、つええ」

「背中合わせに、立ったまま」

「アニキが捕まるわけだ」

 その後には、武器を弾き飛ばされ、ころんと転がされて、観念したように力なく座り込んだ男たち。

 そして、この捕り物を見ていた多くの領民たち。


 瞳を輝かせ、カシルダとトリスタンを見ていた領民たちが、伝説の再来だと興奮した様子で言い合い、その話があっというまに広がっていったことなど、荷物の無事を確かめるのに夢中のカシルダが、気づくことはなかった。




「・・・すみません、若君。ふたりきりにしてさしあげようと、気を遣ったのが裏目に出ました」

「申し訳ありません。せめて、お荷物はこちらでお預かりいたします」

「間違いなく、お邸に届けますので。どうぞ、散策を楽しまれてください」

「助かる。ああ、海鮮焼きは、置いて行ってくれ」

 騎士らしからぬ丁寧さで荷物を持ち上げるガビノ達三人に、トリスタンが声をかける。

 内心『あっ、海鮮焼きは!』と思っていたカシルダは、ほっとした気持ちで、トリスタンの手に渡った海鮮焼きを見た。

「なら俺、エールかワインを買ってきましょうか!?」

「一緒に食べるのが、断然お薦めです!」

 すると、ガビノと共に居るふたりの若者が、弾む声で問うて来る。

「まあ、そうなのですね。是非、そうしたいです」

「どちらがいい?」

 海鮮焼きとエールやワイン。

 絶対に美味しそうだと思うカシルダは、トリスタンを期待の目で見上げた。

「私は、どちらでも大丈夫です。トリスタン様は、どちらがいいとかありますか?」

「どちらも好きだな。なら、両方買ってみよう」

 先ほどまで、破落戸が貴族に絡む事件があったとは思えないほど、和やかな空気のなか、ガビノ達がトリスタンとカシルダの荷物を運び、他の騎士達が襲撃犯を連行して行く。

「トリスタン様。先ほどの襲撃者の件で、差し出口をひとつ、よろしいでしょうか?」

「その件なら、カシルダ嬢は当事者なのだから、構わない。聞くだけ、になってしまうやもしれないが」

 他領の人間が口を挟むなと、頭ごなしに言うことなく、トリスタンはカシルダをベンチに座らせながら、そう答えた。

「ありがとうございます。彼らは、とても強い団結力があると見えました。そこを生かして、すぐさま極刑にするのではなく、何か領の役に立つ形で償わせるのはいかがかと、思いまして」

「それは、オレも思った。ただ、すりや窃盗だけならともかく、奴らはカシルダ嬢を襲っているから、そう容易(たやす)くはいかないのだが。外ならぬ本人の意見ということで、考慮することにする・・・ありがとう、カシルダ嬢」

 流れ者と言っていた、恐らく平民、そしてもしかすると異国出身かも知れない彼らだが、安易に極刑というのは、自分も避けたいのだと、トリスタンはカシルダに礼を言った。

「使えるものは、有効に使うのがいいと思います。それに、私に関わったばかりに極刑なんて、寝覚めが悪すぎます」

「分かった。それじゃあ、食べようか」

「はい!」

 ふたりの間に置いた海鮮焼き、それからエールとワイン。

 カシルダは、自分とトリスタの膝にハンカチをかけ、エールに口を付ける。

「おいしい」

「オレも。いつもより、ずっと美味しく感じる」

「動きましたものね」

 にこにこと答えるカシルダを見つめ、トリスタンは、膝のハンカチに視線を移す。

「いや。動いていなくとも、きっといつもより美味しく感じる。君となら・・っ」

「ふふ。賑やかですね。楽しそうです」

 ぽつりと落とした言葉は、遠くで響く喧噪に溶けて消えた。




ありがとうございます。

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