グラナド辺境伯領 4、
「『また、呼び出される』と、おっしゃったということは。アバスカル侯爵令嬢は、我がグラナド辺境伯家が王都へ行く予定であったことを、ご存じということでしょうか?」
「はい。とても、とても楽しみにしておりましたので」
言っているうち、その楽しみが、後にとんでもない事態へ転じたものだと、ため息を吐きそうになる。
「それでは。失礼ながら。陛下が呼び出しを取り消した、その理由もご存じでしょうか?他に、何か手立てが見つかった、ですとか」
気になっていたのだろう。
トリスタンが、話せたらで構わない、と問うのに対し、カシルダは迷いなく頷いた。
「はい。最初のお話では、対魔獣に関する資料などの情報交換を第三騎士団とグラナド辺境伯家とで行うため、グラナド辺境伯家が王都へいらっしゃるということでしたが、直前になって、セグロラ侯爵家へ変更となったことを存じ上げております」
それは多くの貴族が知っていることとカシルダが話せば、トリスタンが小さく息を吐いた。
「そうでしたか。王都近郊でも魔獣が頻回に渡って目撃されているというので、種別に対処法など携えて行くつもりでいたのですが。セグロラ侯爵家へ、変更になっていたのですね」
「はい」
短く答え、あのメンヘ子爵子息の不愉快な態度を思い出したカシルダは、知らず眉間にしわを寄せる。
「それならそれで、構わないのですが。妙なことに、その情報がこちらへ流れないよう意図されている節がありまして。こちらは特に、セグロラ侯爵家に思うところもありませんので、理由を分かりかねます」
「情報を意図的に遮断するなんて、後ろ暗いところがあります、と言っているようなものですものね」
自分でさえそう思ったのだから、より経験値の高いグラナド辺境伯側が思い至るのも当然と、カシルダは、トリスタンの黒い瞳を見上げた。
「そういうことです。それでなのですが。カシルダ侯爵令嬢。もし、差し支えなければ、何故グラナド辺境伯家からセグロラ侯爵家へ変更になったのか、概要だけでも教えてはくれませんか?」
「ああ。それは」
グラナド辺境伯家から、セグロラ侯爵家へ変更になった理由。
それは、明け透けに言ってしまえば、国王とセグロラ侯爵家が取引をしたからなのだが、そこに自分も大きく関与しているカシルダは、どう言葉にすべきか戸惑い、視線を彷徨わせる。
「申し訳ない。秘事であれば、深くは聞きません」
「いえ。既に解決したことですし、巻き込んでおいて、そちらに何の説明も無いというのは、酷いと思いますので。ただ、ここではなんですので、あちらに行ってくださいますか?」
流石に人通りでは、と、カシルダは路地へとトリスタンを誘った。
「・・・こちらで、よろしいですか?」
「はい。それで、少ししゃがんでください」
カシルダの望み通り、路地裏で膝を浅く折ったトリスタンの耳に、カシルダはそっと囁いた。
「事の起こりとしまして。陛下は、セグロラ侯爵から、ご嫡男の縁組がなかなか決まらない、とご相談をお受けになったようです。相談という名の、斡旋要請ですわね。その対価として陛下がお求めになったのは、セグロラ領にある、とある山。それを手打ちとし、陛下ご自身で婚約者を推挙すると、お約束なさった。そのうえで、セグロラ侯爵家を情報交換の対象として王都に呼んだものの、その記録を持参した方が問題を起こしたことで、陛下は、セグロラ侯爵家に山の開発料も持たせることで、縁組はそのまま生かそうとなさった、というお話に繋がります」
「それで。魔獣の件は、解決したのでしょうか」
グラナド辺境伯家から、セグロラ侯爵家へと変更になった。
その理由のあまりの内容に、トリスタンは言葉を失う。
「オスワルド様・・第三騎士団団長をはじめとして、騎士団が頑張っていますので、今のところは軽微な被害で済んでいるようですが。セグロラ侯爵家の記録が、どこまで実用できるかにかかっているかと」
「それで、我が家に再び呼び出しがあるやもしれぬと、おっしゃったのですね」
納得と頷いて、トリスタンは、カシルダをじっと見た。
「もしかして。セグロラ侯爵家に陛下がご紹介なさったご令嬢というのが?」
「はい、わたくしです。ご明察ですわ」
深刻な顔で尋ねるトリスタンに、カシルダは、にっこり笑って答えた。
ありがとうございます。




