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ひょんなことから、憧れの辺境伯家とご縁が出来ました。  作者: 夏笆


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11/20

グラナド辺境伯領 3、



「まあ。あれは。もしかして、地面にお花で絵を描いているのですか?素敵ですね」

「ありがとうございます。なかなかのものでしょう?領都の皆で協力して図案を考え、どんな花を植えるかを考えて、それに沿って花を植えているのです。地区を東西南北に分けて、競ってもいます」

「そうなのですね。本当に見事です。グラナド辺境伯子息が、まずは時計台にとおっしゃった意味が、よく分かりましたわ」

 この花まつりのメインイベントにもなっているという、区画ごとのメンバーで、花で絵を描く競い。

「それぞれ、初物のワインや小麦など、順位に応じて賞品があるので、皆、本気で競うのです」

「やる気の源ですね」

 くすくすと笑い合い、四方向の絵を存分に楽しんでから、カシルダとトリスタンは時計台を下りた。

 上(のぼ)るときとは反対の方向へ降りれば、その階段の途中から、鼻腔をくすぐる匂いがし始める。

「何だか、とても美味しそうな匂いがします」

「この辺りは、食べ物屋が並んでいるのです。何か召し上がりますか?・・と言っても屋台なので、カトラリー無しで、そのまま食べる形になりますが」

 侯爵令嬢に薦めるには気が引けるのか、少し困ったように目じりを下げるトリスタンに、カシルダは笑顔を向ける。

「屋台、覗いてみたいです。カトラリーが無くても、大丈夫ですので。花より食い気で、お恥ずかしいですが」

 セグロラ領に入ってからは、食堂なども無かったことから、携帯食しか食べていないことを思い出し、カシルダは、急激に空腹を感じた。

「襲撃者とも相対したのですから、当然のことです。では、見て回ってみましょう。何か気になるものがあったら、おっしゃってください」

「はい。あの、何か名物があったら、教えてください」

「そうですね。食べる物で名物というと、この匂いの源のひとつでもある・・・あ。その」

「その?なんでしょう?とても、変わったものなのですか?」

 揚々と言いかけたものの、何かに気づいた様子でそのまま言葉を止めたトリスタンを、カシルダは期待を込めて見上げる。

「その、驚かれるかもしれませんが。この辺りの名物といえば、野生の動物や、魔獣の串焼き、なのです。こちらでは人気の屋台ですが、王都では召し上がらないでしょう?それに、洗練された料理でもなく串焼きですから、ご令嬢には向かないかな、と。言いかけておいて、申し訳ありません」

 言い淀むということは、王都では見かけないような、とても珍しいものなのだろうと、カシルダが目で訴えれば、果たしてトリスタンが、迷うように続きを言葉にした。

「食べてみたいです!」

「え?」

 トリスタンとしては、カシルダが『それはちょっと』と言うのを予想していたのだろう。

 瞳をきらきらさせて言ったカシルダに、目を見張って驚いた。

「だって、この匂いの源のひとつで、辺境の皆さまは、召し上がるのでしょう?でしたら、わたくしも食べてみたいです!」

「アバスカル侯爵令嬢は。辺境を、忌避しないのですね」

「する理由がありません!むしろ、憧れています。王都では、周知されているほどです」

 本気で騎士を目指すと言えば反対されてしまったが、鍛錬をするだけならと許され、それからも温かく見守ってくれている家族を、カシルダは感謝と共に思い出す。

 しかし、それで面倒な縁談を押し付けられることにもなったのだったと、カシルダは遠い目になった。

 やや、ほぼ、辺境の地、セグロラ侯爵家との縁談。

あれは正に、人生最大の黒歴史となった。

しかしこうして本物の辺境の騎士と街歩きが出来ているのだから、よいきっかけになったと思おうと、カシルダは気持ちを切り替える。

「辺境に、憧れ、ですか」

「はい。やや、や、ほぼ、の付かない本物の辺境に、憧れております」

 人々が、笑いさざめきながら、屋台を練り歩く。

 その人波にゆったりと身を任せながら、カシルダは楽しい気持ちで周りを見渡した。

「アバスカル侯爵令嬢。失礼ながら。王都から、馬車で十日以上もかかる辺境の、何にそれほど憧れるのですか?」

「一番は、騎士様です。実はわたくし、三年ほど前に、王都近郊で、グラナド辺境伯子息が、魔獣を捕らえる場面を拝見したことがありまして。その時から、辺境の騎士様の動きに憧れております」

 実は一方的に知っていたのだと、カシルダは、悪戯を見つかった子供のように笑う。

「王都近郊で魔獣を捕らえた・・・。ああ、ありましたね。あの頃から、時折魔獣が王都付近でも見られるようになり、最近では数も増えてきていると、陛下から書簡が届いていました。こちらでは、直接確認できていないのですが。王都に、異変はありませんか?」

 王都を心配するトリスタンの様子から、国王は、グラナド辺境伯へ王都周辺に出没するようになった魔獣の件を伝え、そのうえで第三騎士団との情報交換を要請しておきながら、特に説明もなく、その会合を反故にしたのだと知れた。

「もしかしたら、また、呼び出されるかもしれません」

 国王は、セグロラ侯爵家であれば、グラナド辺境伯家の代役を務められると考えたようだが、記録はともかく、あのメンヘ子爵子息では、たとえ騒ぎを起こさずとも碌な話が出来なかっただろうと、カシルダは、現場で一番苦労しているだろうオスワルドに、心のなかで声援を送った。




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