グラナド辺境伯領 2、
「まあ、良く似合うわ!アバスカル侯爵令嬢。サイズもぴったりね」
グラナド辺境伯夫人は、支度の出来たカシルダを見て瞳を輝かせる。
「グラナド辺境伯夫人。素敵なお衣装をお貸しくださいまして、ありがとうございます」
貴族令嬢の礼を取って、カシルダは、心の底からそう言った。
グラナド辺境伯夫人が貸してくれたドレスは、胸元の開きがあまりない、全体的にゆったり、ふんわりとしたデザインで、手首や裾、胸元などに花の刺繍がされており、淡い緑と桃色の組み合わせも相まって、この季節にとても相応しい一着だった。
「わたくしのお古でごめんなさいね。来年は、新しいものを誂えましょうね」
「畏れ入ります」
・・・・ん?
来年?
グラナド辺境伯夫人に合わせるように答えてから、カシルダは、心の中で首を傾げる。
「折角、お知り合いになれたのですもの。来年も、いえ、来年と言わず夏でもすぐでも、またいらしてほしいわ」
「ありがとうございます。嬉しいです」
すると、説明するようにグラナド辺境伯夫人より言われ、カシルダは、そういうことだったかと納得した。
「それでね。わたくしのことは、名前で。グラシアナと呼んでほしいのだけれど」
「では、わたくしのことは、カシルダとお呼びください」
そう、にこりと微笑み合ったところで、扉が小さく叩かれ、グラシアナは待っていましたとばかり、入室の許可を出す。
入って来たのは、トリスタン含む三人の男性。
「これは。可憐だな。出会った頃のグラシアナを思い出す」
「それって、王都へ行った父上に、ひと目惚れしたころの母上、ということですか?」
「そういえば、母上も元は王都のご令嬢だったな・・いや、アバスカル侯爵令嬢、挨拶もせずに失礼した。こちらは、父と弟だ」
年長の男性が言った言葉に若い男性が答え、トリスタンが続いたところで、はっとしたようにカシルダに紹介してくれた。
「トリスタンの父、クレメンテ・グラナドだ。始祖より代々、辺境伯の地位を賜っている。アバスカル侯爵令嬢。此度は、本当に世話になった。ヒスペルト伯爵夫人にもしものことがあれば、領同士の問題になるところであった」
「グラナド辺境伯家次男、セベリアノです。アバスカル侯爵令嬢、ようこそグラナド辺境伯領へ。歓迎します」
「アバスカル侯爵家が次女、カシルダです。お招きくださいまして、ありがとうございます」
屈強な辺境の騎士という威厳を漂わせるグラナド辺境伯と、騎士の家系に相応しい風貌の次男セベリアノに挨拶をして、カシルダは、やはり本物は見目から違うと、手合わせしてみたい思いに駆られる。
やはり、辺境の皆さまは体幹が素晴らしいわ。
それに、目力の強さと言ったら。
私なんて、威圧で負けそう。
「ではでは。お互い自己紹介も済んだところで。カシルダ嬢、街歩きがしたいのだったわよね?」
「はい。グラシアナ様」
「それなら、トリスタンと一緒に行ったらいいわ。街案内はもちろん、荷物持ちにもなるし、護衛にも最適よ?」
互いに礼をして、和やかな空気が流れたところで、グラシアナが、にこにことそう提案した。
「ですが。ご迷惑では、ありませんか?」
今は花まつり。
襲撃犯に対応していた先の行動を見るにも、忙しいのではと、カシルダはトリスタンを見た。
「問題ありません。ですが、アバスカル侯爵令嬢が、自分と歩くことに懸念があるのなら、別の者を付けます」
「いえ。グラナド辺境伯子息が問題ないのであれば、お願いしたいです」
本物の辺境伯家の子息と、街歩きが出来るなど幸運。
滅多に経験の出来ない、最高の騎士の街での姿勢が直接見られると、カシルダは、意欲満々に微笑んだ。
ありがとうございます。




