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8:たった二人の決死作戦

「……おい、フジワラ。作戦の連携だが、貴様のいた世界の『すまーとふぉん』とやらは作れんのか? 遠く離れていても声が届くという、あの至高の異界兵器だ」

「作れるわけないだろ、俺はただの一般人だぞ! っていうか、お前こそ王子様なんだから、なんかこう……『遠話の魔導書』とか『通信の魔石』みたいな魔法アイテム持ってないの!? 異世界っつうなら、そのくらいの便利魔法くらいあんだろ!」

「あるわけがなかろう! 貴様は私を何だと思っているのだ。魔法など、宮廷魔術師が戦場で火を噴くか、精々あかりを灯すくらいが限界だ。そんなお伽話のような便利道具、この世界のどこを探しても存在せんわ!」

「マジかよ……異世界のファンタジー基準、思ったより世知辛いな……」


 作戦前夜の、物置小屋での噛み合わない会話が脳裏をよぎる。

 魔法の通信すら使えないとなると、作戦の連動は秒単位の『仕込み』に頼るしかない。見つかれば一瞬で首と胴体が泣き別れになる自殺志願だ。

 現在、決戦の夜。俺は収容所の外壁から少し離れた暗闇の中で、生きた心地のしない「交渉」の真っ最中だった。


「ガルルルル……ッ」


 闇に二つの赤い眼光。この森の生態系の頂点に近い魔獣――『マウンテン・ウルフ』のボスが、涎を垂らしながら俺を睨みつけている。一噛みで俺の頭なんてスイカみたいに叩き割られる。肩の上の小竜が恐怖でガタガタと震えていた。

「待って、取引をしに来たんだ!」

 俺は両手を上げ、必死に【魔獣テイム】の能力で「言葉」を脳内に直接送り込んだ。精神支配じゃない。嫌われたら、その瞬間に俺の人生はここで終了だ。


---

 

「くっ……、なぜ私が、このような地面を這うなどという不調法な真似を……。服が、泥で、また汚れる……!」


 同じ時刻。私は収容所の裏手の木柵の隙間から、信じられないほどのスローモーションで敷地内を這いずり回っていた。

 何しろ私は運動神経が皆無なのだ。心臓が口から飛び出そうなほどの緊張感の中、自分の足が木の根っこに引っかかるたびに「ひっ」と小さな悲鳴を上げ、その場に硬直する。見回りの松明の光が、すぐ近くを通り過ぎていった。

 生きた心地がしない。だが、あの日、槍の先に掲げられた両親の姿を思えば、この程度の恐怖で足を止めるわけにはいかないのだ。


 どうにかこうにか、エルフたちが押し込められている巨大な木檻の影に滑り込んだ。激しく上下する胸を押さえながら、檻の天井を見上げる。

 いた。横木の隙間に、夜行性の『ツキカゲバト』が、じっと目を閉じて止まっている。

 私は震える手で懐から干し肉を取り出し、そっと鳥の嘴の先へと差し出した。

「頼む……。鳴いてくれ……!」


---


『……ふん。我らに嘘をつけば、次は貴様の孤児院を襲うぞ』

 脳内に響く、冷酷で圧倒的な捕食者の声。全身の毛穴から冷や汗が噴き出す。

「嘘じゃない! 収容所を襲撃すれば、中の馬や干し肉は全部お前たちのものだ! 約束する!」

 必死のギブ&テイク。なんとかボスのウルフが牙を収めたが、本当に作戦通りに動いてくれるか確証なんてどこにもない。

 時計のない世界、信じられるのは耳を澄ます自分の感覚だけだ。オーエ、頼むから早く合図をくれ。そうじゃなきゃ俺が恐怖でショック死かねない。


 その時だった。

 静まり返った夜の森に、澄んだ鳥の鳴き声が、一回、二回と響き渡った。


『ホォ――――、ホォ――――ッ』


「――今だ!!」

 俺は叫んでいた。それと同時に、俺の背後の闇から、地響きのような遠吠えが一斉に炸裂した。

「グルオオオオオオオオッ!!!」

 マウンテン・ウルフの群れが、圧倒的な獣の暴力となって、収容所の正面木柵へと突撃を開始する。

「な、何事だ!」「魔獣の夜襲だ! 敵襲ッ!」

 正面広場が一瞬にして怒号と悲鳴の地獄絵図へと変わる。兵士たちの意識が、完全に外へと釘付けになった。よし、俺の役目は果たしたぞ、あとは頼んだ、オーエ!


---


 「グルオオオオオオオオッ!!!」

 正面広場から、凄まじい獣の咆哮と、帝国兵どものマヌケな悲鳴が聞こえてきた。

 やった。あの無能そうな異界人は、その地味な能力で本当に最高のお膳立てをしてみせたのだ。


「ふっ……。ならば、私が遅れをとるわけにはいかんな」


 私はその喧騒を背に、すっくと立ち上がった。

 泥まみれのボロ布を脱ぎ捨て、暗闇の中で輝くような白銀の髪を露わにする。恐怖は、すでに歓喜へと塗りつぶされていた。

 私は檻の前に進み出た。中には、突然の騒ぎに怯え、しかし完全に光の消えた目で私を見上げる、哀れなエルフたちがいる。


 私は、この美しい声を、収容所の底へと響かせた――。


感想いただけると狂喜乱舞しますので感想くださいください

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