↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
70/82

エピローグ:思想という名の猛毒

帝国の首都、その深奥にある玉座の間は、かつてないほどの冷気に包まれていた。

帝王イル・ソンガは、指先に残る象牙の駒の感触を確かめるように、ゆっくりとそれを卓上に置く。かつては完璧なチェス盤であったはずの盤面は、今や見る影もなく乱れ、黒い駒たちは無残に倒れていた。


「……武器を持たぬ国が、地形と魔獣で我が軍を壊滅させた、だと?」


イルの呟きは、誰に向けられたものでもなかった。

跪く生存者の将軍は、震える声で答えることすらできず、ただ額を石床に擦り付けている。惨敗。それも、帝国の軍事力に対する真っ向からの否定。物理的な暴力が通じない、理解不能の敗北。


「物理的な暴力では、あの国は潰せない……。ああ、そうだ。あれは暴力ではない。ただの『考え方』の暴力だ」


イル・ソンガは立ち上がり、巨大な窓越しに帝国の街並みを眺めた。

力による支配、秩序による統治。それこそが正義だと信じて築き上げたこの帝国に、コープという名の「思想の毒」が、音もなく浸透しつつある。もし、国民が「自分が主人だ」と気づいてしまったら。もし、理屈を捏ねる彼らが、この絶対秩序に疑問を持ち始めたら。


その時、この帝国を支える強固なシステムは、内部から脆くも崩れ去るだろう。


一方、遠く離れたコープの街。

かつての静かな印刷所は、今や昼夜を問わず輪転機が回転する音と、インクの匂いに満ちていた。

フジワラは窓辺に立ち、何羽もの渡り鳥たちを空へと解き放っていた。鳥たちの足には、小さな筒がくくりつけられている。その中身は、先ほど採択されたばかりの、世界を変えるための「平和憲法」の小冊子だ。


「さあ、攻め込むぞ。武器はいらない、概念をくれてやる」


フジワラの言葉に応えるように、肩の上のミニマム・ドラゴンが小さな咆哮を上げる。

空を覆うほどの鳥の群れが、帝国の方向へと一直線に飛び去っていく。

それは、目に見えぬ防衛線を超え、敵の心臓部へと突き刺さる、平和という名の矢。


コープの戦いは、ここから新たなフェーズへと移る。

軍隊対軍隊の戦争ではなく、思想対思想の、終わりのない闘争へ。


夜明けの光が、地平線の向こうから力強く差し込んできた。

それは新しい国家の誕生を祝う朝日か、それとも帝国という古い秩序を焼き尽くすための、業火の始まりか。

フジワラは静かに微笑み、また一つ、新しいノートのページを捲った。


(亡国の王子とチート転移者は〈民主主義〉で圧政に反逆します 第六話・完)

感想いただけると狂喜乱舞しますので感想くださいください

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。