6:深夜の大戦略会議
議事堂の地下、執務室は深夜だというのに異様な熱気に包まれていた。
机の上には、コープ特製の紙束と、俺――フジワラが持ち込んだ現代知識のメモが乱雑に散らばっている。
「……セクレタ、条文の確認を。これで『行政』と『立法』の癒着は遮断できるか?」
オーエが投げかける鋭い問いに、セクレタが頷く。彼女の指先には、インクで汚れた羽根ペンが握られていた。
「条文そのものは完璧です。三権を分立させ、相互に監視する構造は紙の密造、搬出の過程で既に完成しています。しかし、市民オーエ……懸念は残ります。この国の民にとって、貴方は『英雄』なのです。どれほどシステムで権力を縛ろうとも、民衆は熱狂の中で貴方を『王』として仰ぎ、その言葉を法よりも上位に置こうとする。……それは、システムを内側から食い破る致命的な毒になり得る」
セクレタの指摘は正論だった。
どれほど優れた憲法を作っても、人間という生き物は「カリスマ」という名の特権を欲しがる。民衆がオーエという「王」を信じ続ける限り、コープはいつか独裁の再来を招く。
「……そうだな」
オーエは深く息を吐くと、自らペンを手に取った。迷いのない手つきで、紙の余白に一文を刻み込む。それは、これまでの彼が背負ってきたすべてを否定するような、残酷なまでの宣言だった。
「第四条――ナァノ王家の支配権力、および王位継承権の恒久的放棄。……これでいいか?」
部屋に重苦しい沈黙が降りた。
王家を再興するために、血の滲むような逃亡を繰り返してきた王子が、自らのルーツを断つと決めた瞬間だった。
「……お前、本当にいいのか? それを宣言すれば、もう二度と元には戻れないぞ」
「愚問だ、フジワラ」
オーエは冷ややかな、しかし確かな決意を宿した瞳で俺を見た。
「私が欲しかったのは、ナァノの玉座などではない。誰もが自分の意志で立ち、誰の支配も受けぬ、真の『市民』の国だ。そのためならば、私という王家の亡霊など、真っ先に抹消すべき血脈に過ぎん」
彼は笑った。
自らの存在意義さえもシステムの一要素として処理しようとする、その徹底した合理主義に、俺は鳥肌が立つ思いがした。
「……ああ、最高だよ。お前らしいな」
俺がそう答えると、セクレタもまた、諦念を含んだ穏やかな笑みを浮かべた。
「歴史書にはこう記されるでしょうね。『自らの王冠を自ら砕いた、最初の市民』と。……秘書として、これほど支え甲斐のある人物はいません」
深夜の灯火が揺れる。
俺たちはただの憲法を作っているのではない。この閉鎖的で不条理な世界を根底から書き換えるための、最強の「論理」を組み上げていた。
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