7:裏のログ、あるいはこの世界の情報
執務室の壁一面が、巨大な蜘蛛の巣のような相関図に占拠されていた。
俺――フジワラは、何十枚もの殴り書きを壁に貼り付け、そこに街中の至る所から集めた「接触情報」を赤インクで繋いでいた。
ネズミたちが耳で拾った会話、鳥たちが目撃した不審な人影。それら断片的な情報を、時間軸と場所という二つの軸でマッピングしていく。
「……ここだ。この路地のこの時間帯、三日連続で『フードの男』の足取りが途切れてる」
俺が地図を指差すと、背後から「きゅいっ!」と元気のいい鳴き声がした。
肩に乗っていたミニマム・ドラゴンが、パタパタと小さな羽を動かして俺の鼻先に飛び移ってくる。コイツは俺の目の前で器用に空中で停止すると、地図のその地点を小さく、可愛らしい前足でチョンチョンと叩いた。
「ん、そこか? お前もそう思うのか」
俺が問いかけると、ミニマム・ドラゴンは「きゅいっ!」と力強く頷き、そのまま俺の頭の上に乗っかって、興味津々に壁の相関図を覗き込んだ。普段は俺の肩で居眠りをしたり、配給の干し肉を強奪しようとしたりしている食いしん坊だが、こういう時の集中力だけは一人前だ。
『ふんふん……!』
小さな鼻をヒクつかせ、何かの匂いを嗅ぎ取っているらしい。
コイツは俺が執務室に籠もり切りで壁と格闘している間も、ずっと近くにいた。俺が煮詰まってペンを投げ出せば、そのペンを拾いに行こうとして転び、俺がネズミの情報を解析していれば、俺の髪の毛に隠れて一緒に眺めていた。この殺伐とした状況下で、コイツの存在だけが唯一の癒やしだった。
「そのフードの男……何か匂いとか、残ってたか?」
俺が聞くと、ミニマム・ドラゴンはふにゃりと首を傾げた後、「きゅるるっ」と何かを思い出したように鳴いた。
尻尾で地図の端を指し、そこからある方向へ向かって、小さく火花を散らす。
「なるほど、そっちか。足跡を消すためにわざと遠回りしてたのか」
ミニマム・ドラゴンが「えへん」と胸を張る。その表情があまりに得意げなので、俺は思わず苦笑してその小さな頭を指で撫でた。柔らかい鱗の感触が指に心地いい。
「ありがとな。お前がいなきゃ、この複雑な関係の繋がりなんて読み解けなかったよ」
ミニマム・ドラゴンはくすぐったそうに身をよじり、そのまま俺の髪の中に潜り込んで「きゅっ」と短く鳴いた。どうやら、少しだけお昼寝タイムのようだ。
俺は執務室のドアを開け、深夜の街へと踏み出した。
壁一面に貼られた相関図は、街の狂気を冷徹に切り取る「情報の塊」として、薄暗い部屋で呼吸を続けている。
別の部屋では、ギルバートがドワーフの技術者が組み上げたばかりの活版印刷機に向かい、金属活字を一つずつ丁寧に配置していた。新聞という「武器」の完成と、俺たちの情報解析の答え合わせが、もうすぐ重なろうとしていた。
感想いただけると狂喜乱舞しますので感想くださいください




