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エピローグ:世界で最も「自由な」共同体

作戦成功から数日後。

麓の街道を血気盛んに封鎖していたイル・ソンガ帝国の陸軍は、呆然としながら撤退を開始していた。いくら道を塞いで「干殺しにした」と思っていても、彼らの網の外側(市場)には、なぜかコープ製の高品質な紙が何食わぬ顔で大量に流通し、飛ぶように売れ続けていたからだ。


自分たちの包囲網が頭上と足元から完璧に攻略されていたと気づいた時の、帝国軍の指揮官の歪んだ間抜け面は、ハルピュイアの偵察部隊によってしっかりと洞窟へ報告され、皆の大爆笑を誘った。


「――よし、これで今回の出荷分の利益分配は終了だ。みんな、本当によくやってくれた!」


中央広場で俺が声をかけると、集まった全種族から地鳴りのような歓声が上がった。

人間の農民も、エルフも、ドワーフも、ハルピュイアも、みんな一等賞の笑顔で肩を組み合っている。配られたのは、ただの硬貨じゃない。自分たちが対等な一票を持ち、自分たちで決めたルールに基づいて、正当に勝ち取った「自由の果実」だ。


「なぁ、フジワラ」


背後から声をかけてきたのは、市民議会の初代議長、ヒューだった。その手には次の議会で話し合う予定の、新しいインフラ整備の草案が握られている。


「ヒュー。調子はどうだ?」


「悪くない。人間と亜人が同じ席で議論するなんて、最初は狂気の沙汰だと思ってたがね。……みんながルールを監視し合っている安心感があるから、むしろ今までよりずっと、家族の明日を信じられる。オーエの言っていた『三権分立』ってやつ、どうやら本物の魔法だったらしい」


「魔法じゃないよ。誰もが理不尽に怯えずに生きるための、一番まっとうな『システム』さ」


俺たちは固く握手を交わした。内なる分断をシステムで飼い慣らし、強固な結束に変えたこの組織には、もうどんな包囲網も通用しない。



---


「ふはははは! 見よセクレタ、これが我が新生コープの、世界で最も進んだ美しい姿だ!」


地底湖のほとりで、私は華やかにマントを翻し、大満足の得意気な顔を決めていた。

私の隣では、セクレタが手元の書類から視線を上げ、ふっと悪戯っぽく微笑んでいた。


「ええ。一時は直訴状を突きつけられてクビになりかけましたが……結果としては、誰もが主権を持つ、帝国すら手出しできない無敵の共同体が誕生しましたね。相変わらず、力技ではなくシステムの欠陥を突くような、とんでもない内政打倒でした」


「当然だ! カリスマ一人の独裁など、長続きせん。だが、この『三権分立』という最高議会システムによって統合された絆は永久不滅だ!」


私の足元の水盆では、西海岸の爽やかな潮風に吹かれるセイレーンの長たちが、嬉しそうに尾ひれを跳ねさせている。そして天井の岩棚からは、お腹いっぱい干し肉を食べてツヤツヤになったハルピュイアたちが、相変わらず「(……オーエ様……本当に……ありがとうございました……)」と、集落総出の超極小のささやき声で、そっと感謝の祝福を降らせていた。


空の超特急(ハルピュイア)、海の密輸ルート(セイレーン)、そして地続きの水を繋ぐ『水盆通信(アクア・リンク)』。

私たちは、世界の流通と通信の前提を根底から書き換えてみせたのだ。


「さあ、フジワラ! 祝杯の時間はここまでだ!」

私は洞窟の奥から歩いてきた相棒に向かって、高らかに右手を突き上げた。

「内憂外患をすべて排除し、我らの自由な経済圏はさらに拡大する! 次なるターゲットは、帝国の喉元たる大商業都市だ! 準備はいいか、我が相棒よ!」


「ああ、いつでもいけるよ、オーエ。……世界の常識を、もっと派手に書き換えてやろう」


フジワラが不敵に笑い、私の手に拳を合わせた。

革新的な政治システムと、空・海・通信のインフラを手に入れたコープ。帝国との次なる高次元の戦略戦に向けて、我らの歩みは止まらない。


(亡国の王子とチート転移者は〈民主主義〉で圧政に反逆します 第三話・完)

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