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10:天空を舞う紙、深海を征くルート

「……おい、報告だ! 東の山頂から飛び立ったハルピュイアの第一陣、帝国の陸上包囲網を完全に飛び越えたぞ!」


洞窟の監視所にいたドワーフが叫び声を上げた。広場に歓声が沸き起こる。

山脈の全街道をガチガチに固めていたイル・ソンガ帝国の陸軍は、まさか自分たちの頭上を、大量の「紙の束」がもの凄いスピードで通り抜けていくなどとは夢にも思っていないだろう。上空を見上げた時には、すでにハルピュイアたちは矢のような速度で西の海へと向かっていた。


「ヒュー、次の物資の準備は!」

「こっちはいつでもいける! 若手ども、ハルピュイアの第二陣が戻ってきたら、すぐに次の梱包を渡せるよう、ラインに並べ!」


初代議長となったヒューが、現場を完璧にコントロールしていた。人間、エルフ、ドワーフが三権分立というシステムの元で対等な仲間となった今、物流の現場は恐ろしいほど機能的で、一分の無駄もない。


「フジワラ、足元を見ろ! 海側も始まったぞ!」


バリスタが指差した巨大な木桶――『水盆通信』の水面が、激しく波打っていた。そこには、西海岸の複雑な岩礁地帯の映像が、リアルタイムで鮮明に映し出されている。



---


『オーエ、フジワラ! ハルピュイアの第一陣が、たった今、西海岸の指定座標へ紙の束を投下しました! 運搬チーム、すべて回収完了です!』


水盆の向こうから、波に揺られるセイレーンの長が凛とした声で叫んだ。


『帝国の大型戦艦がこちらの動きを察知し、入り江に向かって大砲を構えましたが――無駄です! 彼らの巨体では、この鋭い浅瀬の岩礁地帯には絶対に侵入できません!』


「ふはははは! 見事だ、海の支配者たちよ!」

私は水盆に向かって、洞窟が震えるほどの爆音で吠えた。

「浅瀬をスイスイと泳げるお前たちと、ドワーフの作った頑丈な耐水樽! これらを組み合わせれば、帝国の誇る無敵艦隊などただの『動けない巨大な木の塊』に過ぎん! そのまま外海の密輸船まで、我がコープの紙を送り届けるのだ!!」


帝国の陸軍が街道を塞ぎ、海軍が沖合を封鎖してドヤ顔をしている間に、ハルピュイアが空から包囲網を飛び越え、山頂から紙を西海岸へ空輸。それを待ち受けたセイレーンが、軍艦の近づけない浅瀬を器用に泳いで突破し、世界の市場へと流通させる。


陸と海の二次元の網を、空と深海の三次元で完全無力化する――これこそが、我がコープの放った、包囲網への「完全な出し抜き」であった。


数時間後。水盆の向こうから、セイレーンの長の、ひときわ弾んだ声が響き渡った。


『――作戦、完全成功です! 予定していたすべての紙の束を、帝国の包囲網を一切擦ることなく、外海の商船へと引き渡しました!』


「よっしゃああああああ!!」

洞窟内が、割れんばかりの歓声と怒号のようなハイタッチの嵐に包まれた。

ドワーフがエルフの肩を抱き、人間の農民たちがハルピュイアの伝令たちと抱き合って飛び跳ねている。ヒューもまた、深く安堵した表情で私を見て、力強く頷いた。


物理的な包囲網という圧倒的な脅威を、武力ではなく、新インフラの連携と「三権分立」による組織の結束で鮮やかに凌駕してみせたのだ。

イル・ソンガ帝国軍が、自分たちの包囲網が「中身スカスカのザル」であったことに気づき、絶望に顔を歪ませる結末は、もう目の前だった。

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