9:宣戦布告、あるいは反撃のタイムライン
三権分立の導入宣言から数時間。洞窟内の一触即発の空気は、まるで嘘のように霧散していた。
「――よし、そこはドワーフの搬送チームと、人間の若手で共同のラインを組んでくれ。生産効率が15%上がるはずだ」
「分かった、フジワラ! おい、お前ら! ぐずぐずするな、早速組み立てに入るぞ!」
中央広場では、初代議長となったヒューが、人間の農民たちをテキパキと差配し、エルフやドワーフの職人たちと肩を並べて物資の増産計画に没頭していた。
「ルール作り」という主権を保障されたことで、人間たちは「自分たちもこの組織の主役なのだ」という当事者意識に目覚めたのだ。内なる分断が消えた組織の爆発力は、俺の想像を遙かに超えていた。
「すごいですね……。システム一つで、ここまで人間が変わるなんて」
俺の隣で、行政の事務作業を進めるセクレタが感嘆の声を漏らす。
「ああ。力でねじ伏せたら反発が残るけど、役割を与えてシステムに巻き込めば、正義はそのまま『推進力』になるんだ。……さて、内側が片付いたなら、次はいよいよ外側だな」
俺は洞窟の入り口へと視線を向けた。
街道を完璧に封鎖し、「奴らは干上がって終わりだ」と高みの見物を決め込んでいるイル・ソンガ帝国の包囲網。だが、彼らはまだ気づいていない。俺たちがすでに、陸路を必要としない「空と海の三次元物流計画」を完成させていることに。
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「ドワーフども、紙の梱包はハルピュイアが掴みやすいよう、特製の縄紐で頑丈に縛れ! セイレーンたちも、西海岸の潮溜まりで『水盆通信』の同期を維持し続けろ! 一瞬たりとも連絡網を途切れさせるな!」
洞窟の最奥、地底湖のほとりで、私は水盆の向こうのセイレーン、そして天井のハルピュイアたちへ矢継ぎ早に指示を飛ばしていた。
そこへ、作業着の袖をまくったヒューが歩み寄ってきた。その手には、全種族が徹夜の議論で合意した、最初の『コープ基本法』の羊皮紙が握られている。
「おい、ポンコツ王子。行政のトップ。議会が決めた物資の配分と、防衛ラインのルールだ。これに従って、あんたの行政権とやらを執行してもらうぞ」
「ククク、よかろう、議長殿」
私はヒューから羊皮紙を受け取り、不敵に笑った。
「完璧なルールだ。これならば、誰一人として不満を抱くことなく、全力を尽くせる。……ヒュー、お前たちの『生きたい』という願い、この私が行政の総力を挙げて叶えてみせよう」
ヒューは少し気恥ずかしそうに鼻を鳴らすと、フッと笑みを浮かべた。
「頼んだぞ。……帝国軍のバカどもに、俺たちの改革とやらを見せてやれ」
「当然だ!」
私はマントを激しく翻し、作戦の決行を宣言した。
「計画通り、これより作戦を開始する! ハルピュイア、第一陣、離陸せよ!」
「(……了解……いたしました……。空の運搬路、開通します……)」
天井の闇からハルピュイアの伝令がささやくと同時に、東の山頂で待機していた有翼種の群れが、紙の束をその鋭い爪で掴み、夜風を捉えて一斉に大空へと舞い上がった。陸の包囲網を完全に「頭上」から飛び越える、空輸作戦の始まりだ。
同時に、私の足元の水盆が激しく波打つ。
『オーエ、こちら西海岸! 帝国の正規海軍が動きを察知し、警戒を強めています! 私たちセイレーンも、岩礁地帯の誘導ラインへと展開します!』
「よし! 敵の包囲網が我らの行動に気づいたぞ! フジワラ、バリスタ、ヒュー、行くぞ!」
ついに反撃の火蓋は切って落とされた。
「次はいよいよ、帝国軍の度肝を抜き網をズタズタに無力化する「完全なる出し抜き」の決着フェイズへと突入する!」
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