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8:運命の「全種族市民総会」

翌朝。隠れ洞窟の中央広場には、これまでにない異様な熱気と緊張感が満ちていた。


中央の境界線を挟んで、右側にはヒュー率いる人間の農民たち数十人。彼らは鍬や即席の棍棒を握りしめ、悲壮な決意を顔に浮かべている。

対する左側には、バリスタらドワーフの職人集団とエルフの職人たち。さらにその背後には、西海岸と繋がる「水盆」から顔を覗かせるセイレーンの一団と、天井の岩棚に音もなく身を潜めるハルピュイアの伝令たちが控えていた。


「おい、時間だぞ、ポンコツ王子。直訴状の答えを聞かせてもらおうか」


ヒューが群衆の先頭に立ち、厳しい声を響かせた。人間の農民たちが一歩、前へ踏み出す。亜人たちもそれに呼応して身構え、洞窟内はまさに、いつ血が流れてもおかしくない臨界点に達していた。


その中心へ、オーエがいつものように豪奢に見えるマントを翻し、堂々と歩み出た。


「ヒュー、そして我がコープの同胞たちよ! まずはっきりと言っておく。……お前たちの突きつけてきた直訴状、その要求は二つとも――却下だ!」


「なんだと……!? だったら力ずくで奪い取るまでだ!」

ヒューが激昂し、後ろの農民たちが一斉に武器を掲げた。だが、オーエは全く動じることなく、むしろ全開のカリスマの波動を放ちながら、その声をさらに一段と響かせた。


「勘違いするな、ヒュー! 却下と言ったのは、お前たちの正義を否定したからではない! お前たちの出した要求が、あまりにも『生ぬるく、不完全』だからだ!」


「……生ぬるい、だと?」

ヒューの手がピタリと止まる。


「そうだ! お前は全権を私から人間の自治組織へ移せと言ったな? では、全権を握ったお前が、もし明日にでも帝国への恐怖に負け、あるいは権力の魔力に狂ったらどうする!? 結局、第二のイル・ソンガ帝国が生まれるだけではないか! だからこそ――私は本日、この組織の『権力そのものをバラバラに解体』することを宣言する!」



---



全種族の視線が私に突き刺さる。恐怖、困惑、そして一縷の期待。

私は、フジワラと夜通し練り上げた、この世界を根底から揺るがす「組織構造の改造」――近代政治システムの概念を叩きつけた。


「一人の人間にすべての権力が集中するから組織は腐敗し、誰もが明日を恐れるのだ。ならば、権力を三つに引き裂き、互いに監視させればいい! これを、超高度組織統治システム――『三権分立』と呼ぶ!」


「(さんけん……ぶんりつ……?)」

水盆の向こうのセイレーンも、天井のハルピュイアも、そして目の前のヒューも、見たことも聞いたこともない単語に呆然と呟いた。


「まず一つ! ルール(法律)を作る権限たる【立法権】! これは、お前たち種族の代表が集まる『市民議会』に一任する! ヒュー、お前をその初代議長に任命しよう!」


「なっ……俺を、議長に……!?」

ヒューが目を見開いた。


「そうだ! お前たちが『人間を守りたい』という正義を持つならば、それをそのまま、この組織のルール作りへと昇華させろ! 人間もエルフもドワーフも、ハルピュイアもセイレーンも、これからは全員が対等な一票を持ち、全員が納得するルールを話し合って決めるのだ! 私はもう、勝手にルールを作らん!」


ざわっ、と洞窟全体が激しく揺れた。

自分たちを排除すると思っていた王族から、まさかの「対等な主権」と「ルールを作る最高権限」を提示されたのだ。人間の農民たちの武器を持つ手が、目に見えて緩んでいく。


「そして二つ! 議会が決めたルールに従って組織を運営し、実務を動かす【行政権】! これは私とフジワラ、そして実務のエキスパートであるセクレタたちが引き受ける! 私たちは君たちの作ったルールの『執行人』となり、全力でこの紙のビジネスを回し、富を分配する!」


私は不敵に微笑み、最後にバリスタとセクレタを指差した。


「最後に三つ! 組織のルールが守られているか、誰かが不正を働いていないかを厳密に取り締まる中立の権限――【司法権】! これは、厳格なエルフの法理と、ドワーフの頑固な規律を合わせた『裁判所』へと委ねる! もし私が執行人として暴走すれば、この裁判所が私を即座に引きずり下ろすだろう!」


オーエは、直訴状を叩きつけてきたヒューの前に歩み寄り、その肩をガシッと掴んだ。


「どうだ、ヒュー。これでもまだ、私は独裁者のポンコツ王子か? お前が守りたい人間の命、そして彼らの未来。私を降ろすなどという生ぬるい方法ではなく、この『三権分立』という最強の盾を使って、お前自身の責任で守ってみせよ!」


ヒューは、掴まれた己の肩と、オーエの揺るぎない瞳を交互に見つめ、やがて――カタ、と手に持っていた棍棒を地面へと落とした。


力による制圧ではない。

「三権分立」という誰も見たことのない究極の改造によって、組織を真っ二つに引き裂くはずだった内なる分断が、奇跡的な強固さで一枚岩へと超統合された瞬間であった。


感想いただけると狂喜乱舞しますので感想くださいください

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