6:凱旋、あるいは突きつけられた「直訴状」
「ふはははは! 少し遅くなったが見よフジワラ、バリスタ! 我らコープの覇道をさらに加速させる、偉大なる海の友人との盟約を果たし帰還したぞ!」
西海岸での大戦果を引っ提げ、私は意気揚々と隠れ洞窟の最奥へと足を踏み入れた。
旅の途中で偶然発見した『水盆通信』の技術、そして海路の確保。これさえあれば我が組織は無敵――そう確信していた私の耳に、酷く冷ややかな声が突き刺さった。
「ずいぶんとご機嫌だな、ポンコツ王子」
薄暗い岩陰から姿を現したのは、村長の息子、ヒューだった。
その後ろには、松明を掲げた人間の農民たちが、まるで壁のように固まって毅然と立ち並んでいる。その目は一様に、私や、セクレタを「異物」として激しく拒絶していた。
「ぬ、ヒューか。相変わらず歓迎の念が足りん男だな」
「これを見ろ」
ヒューが私の言葉を冷酷に遮り、一通の分厚い羊皮紙を私の胸元へと叩きつけてきた。
受け取って広げてみれば、そこには見覚えのある、この洞窟に暮らす人間たちの不器用な署名が、びっしりと狂わんばかりに書き連ねられている。
「……直訴状、だと?」
「そうだ」
ヒューは一歩も引かず、私の目を真っ直ぐに見据えた。
「内容ならそこにいるフジワラにもう伝えてある。俺たち人間の要求は二つ。一つ、これ以上の亜人の受け入れを即座に全面凍結すること。二つ、全権をあんたから、俺たち人間の自治組織へと移譲することだ」
「何だと……!?」
私の背後で、セクレタが鋭く息を呑むのが分かった。
「ヒュー、お前、何を血迷ったことを言っている! 今まさに世界を制覇するインフラが整ったというのに、組織を内部から引き裂くつもりか!」
「引き裂いているのはあんたの方だ、オーエ!」
ヒューが初めて感情を爆発させ、洞窟の壁が震えるほどの怒号を上げた。
「あんたが理想ばかり追って組織を肥大化させたせいで、麓の街道は帝国の正規軍によって完全に包囲された! 陸路は全滅だ! これ以上あんたの道に付き合っていたら、俺たち純人は、家族もろとも反逆者として一人残らず首を吊るされる!」
「帝国軍の包囲網……」
私は絶句した。西の海から戻る道中、確かに不穏な気配は感じていたが、まさかそこまで包囲が完成しつつあるとは。
「俺たちはな、あんたみたいに高貴な王族じゃないんだ。泥をすすってでも、ただ家族と明日を生きたいだけの、しがない農民なんだよ」
ヒューの言葉には、確固たる、そして悲痛なまでの「仲間を守る正義」が宿っていた。
「あんたを降ろし、亜人を排除し、純人だけで帝国に這いつくばって許しを乞う。それが、俺たちが生き残る唯一の現実解だ。……さあ、選べ。大人しく全権を渡すか、ここで俺たち純人全員を敵に回すかだ」
人間の防衛本能が、完全に私を、そしてコープのこれまでの歩みを真っ向から否定しにかかっていた。
力で彼らをねじ伏せることは容易い。だが、もしそんな恐怖政治を行えば、それは私が最も嫌悪する「第二のイル・ソンガ帝国」になるだけだ。
洞窟内は「ヒュー派の人間」と「エルフ・ドワーフ」で真っ二つに分かれ、互いに武器の柄に手をかける、一触即発の冷戦状態へと陥っていった。
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