3:『市民』たちの作戦会議
「――それで、その『帝国の兵器工場』って、ここからどれくらい離れてるんだ?」
俺は洞窟の地面に即席の地図を広げ、炭のペンを握りながらセクレタリアに尋ねた。
ドワーフとの連帯という方針が決まった以上、次はいよいよ具体的な潜入、あるいは強襲のプランを立てなければならない。
セクレタリアは地図の一点を細い指先で指し示し、表情を引き締めた。
「この洞窟からさらに山脈の深部へ進んだ、切り立った渓谷の底です。歩いて半日ほどですが、周囲は完全に帝国の監視下にあります。工場の外壁はドワーフたちが作らされた極厚の鉄板で覆われており、正面から突破するのは不可能です」
「やっぱり警備はガチガチか。中にいるドワーフの数や、彼らを統率しているリーダーの情報なんかはあるか?」
「はい。監禁されているドワーフの職人はおよそ五十名。彼らを率いているのは、頑固一徹で知られる名工『バリスタ』という老人です。帝国は人質を取ることで、他のドワーフたちを無理やり従わせています」
「人質ね……。ベタだけど一番厄介なやり方だ」
俺が腕を組んで唸っていると、隣でじっと話を聞いていたオーエが、ふっと鼻で笑った。
「クク、人質か。実に帝国らしい、個人の情に付け込んだ前時代的な支配構造だな。だがフジワラ、これはむしろ好都合だぞ」
「好都合? どこがだよ。人質を盾にされてる以上、バリスタって爺さんは下手に動けないだろ」
「逆だ。支配の楔が『たった一人の人質』に依存しているということは、その一人を外せば、帝国の管理システムは一瞬で瓦解するということだ。全体の統制が取れているわけではない。恐怖で縛っているだけの組織など、綻びを一つ作れば勝手に崩壊する」
オーエは青い瞳を爛々と輝かせ、地図の上の渓谷を指でなぞった。
「人質が囚われている監獄の配置、あるいは工場内部の換気排熱用の坑道をセクレタリア、貴様らの隠密能力で洗い出せ。正面突破などという無策は選ばん。我々が仕掛けるのは、帝国の裏をかく『電撃的な人質奪還』、あるいは同時に行う『ドワーフ全員の同時蜂起』だ」
「……言うのは簡単だけどさ」
俺はため息を吐きながらも、預かっている『世界で最初のノート』をしっかりと握り直した。
「まずは偵察だな。セクレタリア、案内を頼めるか? 俺のテイムモンスターも、隠密のサポートや連絡係としてうまく使うからさ」
「はい、市民フジワラ。……私たちの、新しい居場所のために。喜んでお供します」
セクレタリアは力強く頷き、エルフの仲間たちに鋭い手サインで指示を出した。彼女たちの動きには、先ほどまでの「帰る場所をなくした絶望」はもう微塵もなかった。あるのは、自らの意志で未来を切り開く、最初の『市民』としての覚悟だけだ。
深夜のノルズ山脈。冷たい風が吹き荒れる中、俺たちはドワーフの檻、そして帝国の心臓部である兵器工場へと向かって、静かに歩みを進めた。
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