第8章 覆うか 伝えるか
「ただいま」
「あら、お帰りなさい」
徹が残業を終え帰宅したのは23時になる少し前だった。
「相変わらず忙しそうだな、徹。悠人は今さっきまで起きてたがコトンと寝てしまった」
「ただいま父さん。悠人はお利口にしてた?」
「してたわよー。本当にお利口さん過ぎて。もっと私たちにわがまま言ってもいいのに」
「夏祭りはみんな浴衣らしいの。明日買って来てもいいかしら?」
「逆に頼んでいいかな?これで買って来て」
財布を開くと
「要らないわよ。ついでにお父さんと悠ちゃんと3人で食べて来ても良いかしら?」
「構わないよ。悠人は野菜が苦手なんだよな。お店に迷惑掛けないかな」
「悠ちゃんは回転寿司に行きたいんだって」
「あぁー。前に行った時に食べ終わった皿を入れるとゲームが出来るんだよ。悠人にパパもっと食べてってせがまれたっけなぁ」
「まあ。今の回転寿司はそんな事になってるのね」
「そっかぁー、回転寿司かぁ。悠人、ウキウキしながら寝たっしょ」
「そーなのよー!もう可愛いったら!」
「ああ、悠人の喜び方が徹の小さい頃にソックリだ」
「マジで?」
「なあ、母さん」
「ええ。二度子育てしている気分よ」
「悠人は多分、回転寿司行ってもポテトとかラーメン食べんだよ。寿司屋なのに笑」
「子供なんてそんなものよ」
「徹の夕食も買って来るわね」
「明日、寿司かあ!ラッキー」
「それより徹。帰って早々なんだけどLINE見てくれたかしら?」
「警察が会社に来たよ。ったく」
「まあ!会社まで来たのね」
「死因は何だったんだ?」
父親が訊ねる。
「撲殺って言ってたかな。殴られた跡が数ヶ所有ったって」
「ニュースだと部屋の鍵が掛けられていたって」
「合鍵だろうって言ってて。身近な人間じゃないと持ってないだろうし」
「俺、合鍵持ってないのかって聞かれて」
「会議室とは言え、会社に警察来るってだけで迷惑なんだよな。周りの目も有るしさ。アリバイも有るし協力もするが急に会社に来るのだけは止してくれって言ったよ」
「ついでにスイミングスクールのコーチの事を話しといた」
「離婚しといて正解よね。別居のままだったら大変な事になってたわ」
「弥生さんの葬儀はいつなんだ?」
「さあ。俺には行く義理も無いしね」
「悠ちゃんにとっては母親よ。行かせないの?」
「行かせてどうなんの?浮気相手に殺されたかもしんないのに。そんな話を耳に入れさせたく無いね、俺は」
「亡くなった事を教えないの?」
「いずれ話すけど今は、無いよ」
「ニュースで弥生さんの私生活を
随分言ってたよ」
「へぇー」
徹は弥生の事は心底どうでも良いと思っていた。
「離婚したって悠人の母親には変わり無いから色々と報道されるのはな」
徹の父親が言うと
「父さん、何言ってんの?悠人には父親の俺だけ。母親なんか居ないんだ」
「そう思いたいのは分かるけど徹、悠ちゃんが幼稚園で何か言われないかと心配で」
母親まで言い出した。
「母さん、もし言われたら幼稚園を変えるよ」
「今年で卒園なのに?」
「仕方ないだろう。子供はたまに残酷な事を言う時があるんだ。それで悠人の心がどうにかなってしまうなら転園は仕方ないと考えてるよ」
「何も言われなきゃいいわね」
「まあ、そうだね。疲れたから風呂入って寝るわ。父さん母さん明日は悠人と買い物とか手間掛けさせて申し訳ないけど、よろしく」
「孫との外出は楽しいもんだ」
「そうよ、お父さんの言う通りよ」
悠人の寝顔を撫でながら
「悠人は俺が守る」
そっと呟いた。




