第19章 父として 保護者として
「その後、悠人くんの様子はいかがですか?」
「はい、悠人の母親はニュースで追加報道された通り殺害では無く事故死だったと言う事を本人は受け止めています」
「悠人くんは強いですね」
「どうでしょう…。生まれたばかりの頃よりも沢山泣いてましたが」
「お父様の前では年長さんらしい顔も沢山見せているんですね」
「実は幼稚園をお休みしてから先日までの2週間ほど海外へ出まして」
「どちらへ行かれたんですか?」
「イギリスに1週間、ハワイに1週間です」
「お父様、お仕事もお忙しいでしょうに」
「まあ、はい。ですが私の部下たちが非常に優秀で留守を任せて欲しいと言ってくれたので甘えました」
「素晴らしいですね」
「海外で悠人と向き合って思った事がありまして」
「なんでしょう?」
「本来なら、まだまだ母親が必要な年齢です。先生が以前仰ってくださった様に悠人は周りに優しいと言うか気を使い過ぎる所が有ります。良いところでもあり、悪いところでもあります。今回の2週間と言う長期の休みも
ものともせず部下たちが頑張ってくれました。私が居なくてもやれると言う所を見せてくれました。私の席を部下に譲り、私は残業の無い部署か在宅可能の部署へ移動願いを出そうと考えています。小学校低学年までは私が自宅に居れば少しはフォロー出来るのではと考えています」
「大きな決断を…」
「大した事では無いです。仕事は大切です。ですが、それよりも家族が大切だと悠人に気付かされただけです」
「ご立派です。頭が下がります」
「そんな事はないです。それで幼稚園についてですが」
「はい」
「家の中では私も祖父母も居るので淋しさや悲しさは薄らいで来ていると思いますが」
「はい」
「母親の死因の真実を捻じ曲げられ報道された事での最大の犠牲者は悠人だと考えています。お友達から言われた時のシチュエーションと言いますか、沢山の子の前で言われた事に今も引っ掛りが有る様でして。海外では元気だったのですが、いざ幼稚園へ…となると悠人は固まってしまうと言うか」
「幼稚園の多くのお友達は、どうして悠人くんは来ないの?と気にして心配しています。悠人くんへ傷付く事を言った児童も自分のせいで来なくなったと、事の重大さを感じている様で悠人くんの家へ行き謝りたいと言ってましたよ」
「そうですか。母親の件で言われるだろうとは予想していましたが大人が思うより悠人の心に大きな傷として残ってしまった様です。可能であれば、もう少しお休みをさせて欲しいのが本音です。これ以上は無理でしたら転園も視野に入らなくてはと考えています」
「園では時間が掛かろうとも悠人くんが、また元気に登園してくれる事を望んでいます」
「ご配慮ありがとうございます」
「とんでもない事です。またお父様へ電話をさせて頂きますので悠人くんの様子を教えてもらえたらと思っています」
徹は電話を切り
さて、どうしたもんかと考えた。
悠人の気持ち次第だな。
朝の幼稚園バス待ち
「おはようございます」
「ゆあちゃんママおはよー」
「あ、けんちゃんとけんちゃんママも来たわよ」
「みなさん、おはようございます」
「おはようございます」
「やっぱり今日も悠人くんの姿が見えないよね…」
「ね。うちの子さ悠人くん大好きっ子だから今の幼稚園つまらないって」
「うちの子も言ってたわよ」
「こう言っちゃなんだけど圭太くん。あの子さ…」
「わかる!うちの子、圭太くんに積み木で頭殴られてさー」
「ええーー」
「そーよー!」
「誰だったかな?上履きで太もも叩かれて痣になって帰って来たって聞いた事ある」
「るいくんよ、それ」
「そうだ、そうだ!るいくんだ!るいくんママ怒ってたもん謝罪ひとつの電話も無いって」
「言っちゃなんだけど…,幼稚園に来なくなるんだったら圭太くんが来なくなればいいのに。とか思ってて」
「以下同文。一緒よ!本当にねえ」
「あ、来たわよ圭太くんママ」
「おはようございます」
先にバス待ちをしていた保護者は圭太の母親の挨拶に会釈だけした。
幼稚園バスに子供を乗せた後
圭太の母親に向かって
「悠人くん、ずっと休んでいるけど圭太くんママ、どうしてか知ってる?」
「えっ…と」
「この際だから言わせて貰うわね。悠太くん然り他のお友達も圭太くんの粗暴さに怪我を負わされたり幼稚園に行きたく無いって言ってる子が何人かいるのよ」
「…。」
「子供のやった事だからでは済まされない事よ」
「家庭でされている事をお友達にもしているんだと思うの。ちゃんと躾てます?」
「躾に関しては他人様にとやかく言われたく無いです」
圭太の母がキレ気味に言うと
「言われたく無いなら、まともに子育てしなさいよ。こちらは被害届出しても構いませんよ」
冷静に見れば
圭太の母親も
他の園児の保護者も
目クソ鼻クソだ。
悠人の一件を利用して
自分たちの腹いせをしているだけだった。




