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第16章 幼き痛み 大人の眼差し

「パパ居ないとやっぱり淋しい?」

「ううん。大丈夫!」

「ゆーちゃんが元気に楽しめばパパは元気になるから」

「どうして僕が元気だとパパが元気になるの?」

「あれっ?知らない?子供が元気に過ごす事が、親にとってのおまじないになるんだよ!ゆーちゃん、まさか知らないのーーー?」

「えぇー!!僕……知らなかった……」

「ジィジもバァバも知ってるよー」

「本当?」

「ああ、本当だぞ。だから悠人の今日のミッションは元気に楽しむ事だ」

目を細めて優しく祖父が言った。


「そうなんだー!僕、全然知らなかった」


「うふふ。ゆぅーちゃん可愛い。いい、このおまじないは色んな人に言うと効かなくなるの。だから秘密だよ」


「うんっ」



ツアーを終えホテルに戻ると


「とりあえず、ゆぅーちゃんはアタシの部屋に行こう」

「うん。でも少しパパを見たい」

「そうだね、心配だよね。そしたら夜ご飯どうするか聞いておいで」

「うんっ」


「でね、今日はパパを静かに寝かせてあげるのが良いと思うんだけど」

奈緒が悠人へ提案した。


「そしたら明日はパパとも一緒にお出掛け出来る?」

「出来る様に今日はアタシの部屋で一緒に寝よう!みんなに内緒でアイスクリームパーティーしよっか!」

「うわぁ!なぁーちゃん最高!」

「でしょーーー」




「パパ…」

「悠人」

「帰って来たよ」

「楽しかったか?」

「ずっとパパが気になって、少し心配な気持ちだった」

「そっか。ごめんな」

「でも、ジィジもバァバもなぁーちゃんも一杯笑ってたから、つられて笑った」

「悠人は優しいな」


「パパー?」

「ん?」

「夜ご飯、どうするの?」

「あー、ご飯かぁ。少し食べようかな」

「ゲーゲーしない?大丈夫?」

「薬飲んで沢山寝たから大丈夫だと思う」

「パパー、静かにしてるから少しここに居ていい?」

「風邪とかじゃないから、悠人に移ることはないと思うぞ」


「良かったー!あのね」

「うん」

「今日、バスで途中まで行って、あとはハイキングしたの」

「汗かかなかったか?疲れなかったか?」

「うん!朝は少し寒いかもって思ったけど大丈夫だったよ!ゆっくり皆んなで上まで行ったんだ!」


「ジィジとバァバはヘトヘトじゃなかったか?」

「元気だったよ!」

「明日はジィジとバァバが寝込むんじゃ無いかって心配だよ」

「そんなこと無いよ!また来たいねーっていってたもん」

「それなら安心か」


「うんっ!でね、山の上から海が見えたんだ!すっごく大きな海!青いの!レストランみたいなとこに入って海見ながら食べたパンケーキが美味しかった!」

「おおー!美味そうだなぁ!」

「パパ好き?パンケーキ」

「悠人、パパは大のパンケーキ好きなんだぞ」

「えぇーーまぢでぇーーー!」

「明日、時間が有ったらパンケーキ屋行こうな」

「パパーーーー!!」


悠人は徹に抱きついた。

悠人が大のパンケーキ好きを知っていたから敢えてそう言ったのだ。


「東京にも美味しいパンケーキ屋が有るけど、折角ハワイに居るなら、コッチで食べないのは損だよな」


徹はスマホを取り出して

「悠人、これ見てごらん」

「うわぁーーー!フルーツがいっぱい乗っかってるーーー!!!」

「裏通りに面してる店なんだけど、このホテルからも近いんだ。歩いて行ける。ここに行きたくないか?」

「行きたい!行きたい!行きたい!」

「よしっ!決まりなっ」

「うん、パパ!」



コンコン。


「ゆぅちゃーん!いつまでパパんとこに居るのー?」

奈緒がやって来た。

「なぁーちゃん見て!」


徹のスマホを見せた。


「うわっ!何これ!美味しそうなんだけどっ!」

「明日、なぁーちゃんも行く?」

「行きたい!行きたい!行きたい!」


「お前の反応が悠人と一緒で笑える」


「何よー!行きたいもんは、行きたいしか出ないじゃん!ねぇーっ、ゆぅーちゃんっ!」



「お兄ちゃん、夜ご飯、いけそう?」

「ああ。少し入れたいなって思ってた」

「夜、食べれそうなら明日は大丈夫そうだね。

あ、そうそう。今晩はアタシの部屋でゆぅーちゃん寝るから」

「悠人、奈緒は寝癖が悪いんだぞ。イビキもかくし。うるさいぞ。寝れるか?パパの部屋で寝るのが良いんじゃないか?」


「うーーん。でも明日パパも一緒が良いから今日は、なぁーちゃんのお部屋で寝る」

「ねーっ!今日はなぁーちゃんの部屋が良いんだもんねぇーーー!」

奈緒は悠人にウインクをした。


「お菓子とかあんまり食べさせんなよ」

「げっ!」

「大体お前が悠人を釣るのは食いもんだろ。想像がつく」

「少しだけにしとくしっ!」

「気遣わせて悪りーな。助かる」

「うわっ!ゆぅーちゃん聞いた?いつも怖い人が優しくなってる!うーわっ!」

「悠人の為に気遣ってくれてるからだ」

「父親かよっ」

「いや、父親だし」


「あはははっ!パパとなぁーちゃんのお話し面白いっ!」






夕食後


「じゃあね、パパ」

「おう。ちゃんと歯磨きしないとだぞ」

「うん」

「奈緒、悠人の歯磨き手伝ってくれな」

「はいよー!シャワーも着替えも任せて!」

「頼んだ」




「ゆぅーちゃん、シャワーしてからアイスパーティーやろうかっ!」

「そうだねっ」


「さっぱりしたねーーー!」


「うんっ。なぁーちゃんの部屋のシャンプーいい匂い!」

「あぁこれ?日本から持って来たんだ」

「へぇー!」

「匂い気に入ったの?」

「うんっ!何か癒されるぅーって感じ」

「あはははは!癒されるぅーって感じねぇ」


「日本で買えるの?」

「勿論」


「パパに言って!僕がこのシャンプー気に入ったって」

「ゆぅーちゃん自分で言いなよ」

「チッ、チッ、チッ!僕が言うより、なぁーちゃんから言う所が良いんだよー」


「あらーっ、大人みたいな笑」

「僕は大人だよっ」

「そうなのねっ。じゃぁ、子供扱いは失礼よねっ」

「そう!」

「あははは!ゆぅーちゃん頼もしくなったねぇ!」




「ねえ、なぁーちゃん」

「んー?ドライヤーしちゃおうかっ!」

「うん、その前に…」

「アイス?アイスパーティーはドライヤー終わってからにしようね!」

「違くて…」

「なぁーちゃん、あのね…」

「うん」

奈緒は悠人の変化に気付き正面に向き合って座った。


「どうした?」

「うん……。あのねママは変態ババアだから殺されたって本当?」

「誰がそんな事…」

「本当なの?」

「ゆぅちゃん。パパから直接聞いた方が良いんじゃない?」

「パパは本当の事、話してくれない…」

「そんな事ないよ」

「そんな事ある。だってパパは本当は甘いのが苦手なんだ。でも僕が好きだからって我慢してパンケーキ好きって、さっき誤魔化したから」

「ゆぅちゃん、それは違うよ。パパは頻繁に甘いのを食べたがる人じゃないけど、たまに無性に食べたくなるんだって」

「でも、今まで甘いの食べてるとこ見た事ないもん」

「ゆぅちゃん…」

「ママは殺されたの?変態ババァって…」


「ゆぅちゃん、本当の事を知りたいのね?」

「うん…」


奈緒は悩んだ。

自分の口から伝えるべきか。

ただ悠人は父親には聞き出せないと思い

自分に聞いて来たのだとも理解していた。

(どうしよう……)


「ゆぅちゃん、間違わないでちゃんと理解出来る?難しい言葉が有ったら聞き直してね」

「うん」

「ママの事なんだけど…少し前にお葬式が有ったの」

「アタシとバァバで行って来て。黙っててごめんね。ちゃんとママとお別れしたかったよね…」

「ママ……」

悠人はとうとう泣き出した。

声を出さずシクシク泣いた。


悠人が落ち着くまで奈緒はそっと背中をさすった。


しばらくして


「ママが天国に行った理由はね、お部屋で転んだか何かして頭をぶつけちゃったのが原因だって」

「強くぶつかっちゃったみたい」

「ぶつけただけで居なくなっちゃうの?」

「うん、打ちどころが悪いとそうなっちゃうの」

「ママは変態ババアだから転んだの?」

「ゆぅちゃん、それは違う!ママの事をそんな風に言ったらママが天国で泣いてるよ」

「だってテレビでそう言ってたって圭太くんが言ってたもん」

「きっと、圭太くんは間違ったニュースを見たか、勘違いしてるんじゃないかな」

「僕、みんなの前で圭太くんに言われたんだ」

「まあ!どうしてアタシに教えてくれないの!ゆぅちゃんの代わりにやっつけてあげたのに!」

「僕、悲しくて悲しくて」

「うんうん」


奈緒は悠人の頭を撫でた。


「悲しいよね。アタシでも悲しい。よく耐えてたね、偉いよ」


「どうしてパパと僕はママのお葬式に行けなかったの?」


「パパとママが喧嘩しちゃって

もう顔も見たくないーってなったまま

仲直りしないうちにママが天国に行っちゃったから、パパはどうしたらいいのか悩んだんだと思う。パパと喧嘩したせいでママがって思っちゃったんじゃないかなって」

「パパはパパのせいだと思ってるの?」

「パパの気持ちを聞いた事は無いけど、多分、そうなんじゃないかって思ってる」

「パパはお友達と喧嘩しちゃダメだよって」

「うん、そう言ってるパパが喧嘩しちゃったもんだから言えなかったのかもって思ってるんだ」

「そっかパパは反省しちゃって、お葬式に行けなかったんだ…」

「多分ね。でも…」

「なーに?」

「ゆぅちゃんはママに最後のご挨拶したかったよね」

奈緒は泣きそうになるのを堪えて話した。


「分からない。もし、僕がお葬式に行ったらパパだけサヨナラ言えなかったって、ずーっと悩むかも知れないじゃん」

「優しいね、ゆぅちゃん」

「僕、パパまで居なくなっちゃうんじゃないかって思って今日」

「ゆぅちゃん…」


(ダメだ)

奈緒はとうとう泣いてしまった。


「ゆぅちゃん、ママは圭太くんが言った様な人じゃ無いことだけはちゃんと覚えててね。それとパパは絶対居なくならない。だから安心して」

「うん」

「ママは本当に悲しい事故だったの」

「うん」


「アタシの言ってる事で分からない所ある?」


「ううん。ママは頭ぶつけて死んだって分かった」

「それとパパはお葬式の事で悩まないでって思う」

「うん、そうだね」


「僕はパパが大好き」


悠人は母親を亡くし、寂しい思いをしているだろうに、父親の手前、耐えているのか。

奈緒は悠人の言葉を鵜呑みにはせず

様子を見ていこうと思った。


守れるだけ守る。

そんな思いだった。



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