第13章 落ちてしまえ 歩き出す
「太田さーん、車移動お願いします」
「僕はご覧の通り水着姿で。外に出たら変質者じゃないですか?笑」
「分かりました笑
私が移動しますので、車のキーをお借りしてもよろしいですか?」
「はい、これ」
「受付で預かって置きますので良きタイミングで取りにいらしてください」
「はいよーー」
弥生の部屋の鍵を
そっと太田の車のダッシュボードへ
百枝が忍び込ませた。
百枝の指紋が付かぬよう、入念に拭いておいた。
「捕まればいい」
百枝は太田が弥生を殺したのだと
思い込んでいた。
ニュースに晒されて人生終わればいい。
そんな思いだった。
「脇澤さん、今月で退職されるって…」
同じ受付仲間が寂しそうに声を掛けた。
「実家へ帰って来いって前々から言われてたんですけど、今更実家って息苦しいし親と無駄に喧嘩しそうで知らない振りしてたんですけどねぇ」
「えー、なら、今もそうしたら良いのに…」
「本当ですよねぇ。父親が元気だったらそうしてました」
「お父様、どうかされたんですか?」
「ステージⅣの肺がんで」
「そ、そうなんですね…。何て言ったらいいのか…」
「残される母親を思うとね。それと最後位、父親とちゃんと向き合いたくて」
「そっかぁ。ちゃんと、しっかりと見送ってね」
「はい。今月末まで、あと少しあるので宜しくお願いします」
「こちらこそ。寂しくなるけど…うん。そうよね…落ち着いたら、顔見せに来てね」
「はい!勿論ですっ」
百枝は太田との別れより
父親との別れに
後悔を残したく無いと強く思った。
「パパー!見てぇ!」
「おお!上手だなぁ!」
悠人はイギリス観光で見た物をホテルへ帰っては絵を描いて徹に見せていた。
「パパ、僕、この国が好きみたい!」
「そっかぁ。どんな所が好きなんだ?」
「何かねぇ、葉っぱと芝生?って言うのかなー、日本より綺麗な緑で見てて嬉しくなるんだぁ!道で果物とか沢山売ってるし甘いし!」
「マーケットかぁ!パパも好きだ。テンション上がるよな!」
「そう!どの果物も全部美味しい!大きいし!僕、この国好き!」
「悠人が好きって言うとパパまでイギリスが好きになって来た。お揃いだな」
「パパも好き?ほんとー?」
「また、ここに来ような!」
「うんっ!僕、大きくなったら、この国に住みたい!」
「よっぽど気に入ったんだなぁ。なら英語覚えないとだぞ」
「うんっ、ジィジにいっぱい教えてもらう!」
「そうだなぁ。日本帰ったら英語教室に通うのも良いんじゃないか?」
「日本で英語習えるの?」
「勿論」
「パパ!僕、英語習いたい!」
「良いんじゃないか。それと悠人は絵も上手だから絵の教室も良いんじゃないか?」
「絵の学校もあるの?」
「あるぞ!知ってるか、悠人の色鉛筆には青が1本しか無いだろう?本当は青だけでも何百色もあるんだぞ」
「えぇーーー!」
「絵の教室行ったら、葉っぱと同じ綺麗な緑が見つかるぞ」
「うわあ!」
「なっ、楽しそうだろ?」
「うんっ」
「日本帰ったら、どの教室が良いかパパと探そう」
「うんっパパ!大好きっ」
「あはははは!パパの方がもっと好きだぞーーー!」
悠人の体をくすぐった。
「きゃはは!パパー!くすぐったいよーー」
「さて、明日はハワイだ。奈緒と合流だぞ」
「なぁーちゃんにも見せたかったね、この国」
「だな。今度は奈緒も一緒がいいな」
「うん」
この気持ちが変わらない様ならイギリス留学もアリかも知れないと徹は思った。




