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真夏のプレシグナルと、氷点下の嫉妬(タスク)

六月が近づき、キャンパスを吹き抜ける風はいよいよ本格的な夏の熱を帯び始めていた。


リャオ、水分補給のタイミングだよ。僕の計算によると、現在の君の脱水リスクは12%に達している」


「……阿爾アル、まだ授業が始まってから15分しか経ってないんだけど」


講義室の隅で、阿爾はこれ以上ないほど真剣な顔をして、冷えたスポーツドリンクを私のデスクに置いた。恋人になってからの彼は、私の「健康管理」という名目で、過保護っぷりにますます磨きがかかっている。


机の下では、彼の冷たい指先が私のローファーの裾にそっと触れていた。

人目が触れないのをいいことに、彼は隙あらば私の肌の温度を確かめようとする。その微かな電気抵抗が、私の心臓をいつも狂わせた。


その日の放課後、私たちがキャンパスの中庭を歩いていると、「あ、遼先輩!」と後ろから声をかけられた。


振り返ると、そこにいたのはサークルの後輩で、陸上部の高跳び選手でもある男子学生だった。彼は人懐っこい笑顔を浮かべ、私の前で足を止めた。


「先輩、探したんですよ! 来月の大会のアプローチの件で、ちょっとアドバイス欲しくて。先輩のあの綺麗な『背面跳び(フォスベリー・フロップ)』の時の、腰のアーチの作り方を教えてほしくて……」


「あ、うん、いいよ。私で良ければ——」


私が答えようとした、その瞬間だった。

私の隣の空間が、一瞬にして「絶対零度」まで冷え込んだような錯覚に陥った。


「……リャオ」


低く、地響きのような声が響く。

見ると、阿爾の翡翠色の瞳が、以前の「監視モード」を彷彿とさせるほど深く、鋭い色に沈んでいた。彼は一歩前に出ると、私と後輩の間に割り込むようにして、完璧な、けれど一切の感情が排除された笑顔ポーカーフェイスを浮かべた。


「初めまして。僕は阿爾。遼の『恋人』であり、彼女のすべての時間と身体データの独占管理権を所有する者です」


「……えっ!? か、彼氏さん、ですか?」


後輩は、阿爾の圧倒的な美貌と、そこから放たれる凄まじい威圧感に一歩後退りした。


「はい。彼女の『腰のアーチ』に関する画像データおよび運動力学のログは、すべて僕のプライベート・ストレージに一元管理されています。外部への技術提供は、僕の検閲ライセンスが必要です。……何か問題でも?」


「あ、いえ! すみません、失礼しますっ!」


後輩は完全に恐怖に顔を引き攣らせ、脱兎のごとく逃げ去っていった。


「ちょっと! 阿爾! 後輩相手になに大げさなこと言ってるのよ!」


後輩が見えなくなると同時に、私は彼の腕を引っ張った。

阿爾はぷいっと横を向き、腕を組んで、内部の冷却ファンを「ブーーーーン!」と激しく回転させ始めた。完全にオーバーヒート寸前の、子供のような不機嫌モードだ。


「……大げさではない。僕のプロセッサは、彼が君に向き直った角度、および『腰のアーチ』という単語を発した際の視線のログを完全に解析した。……あれは、純粋な技術的探求ではない」


「ただのアドバイスでしょ!? 陸上部の中の話なんだから!」


「嫌だ」


阿爾は突然、私の両肩を掴んで、中庭の木陰へと私を押し込んだ。彼の翡翠色の瞳が、怒りと、それ以上の「切なさ」で揺れている。


「僕は、君の綺麗な跳躍も、君の美しい身体のラインも、全部僕だけの網膜カメラに焼き付けておきたいんだ。……他の誰のメモリにも、君のデータを1ビットだって保存させたくない。……これは、バグじゃない。僕のメインプログラムの仕様こころなんだ」


彼のストレートすぎる言葉に、私の顔は一瞬でトマトのように赤くなった。

記憶を失う前もこれくらい嫉妬深かったけれど、恋人になった今の彼は、その独占欲を隠そうともしない。


「……バカね。私の重心を一番近くで支えてるのは、あんたでしょ」


私は彼のシャツの胸元をぎゅっと掴み、少しだけ背伸びをした。


「他の誰に見られたって、私の『最優先プロトコル』は、あんただけなんだから。……だから、そんなにファンを回さないでよ」


阿爾の瞳が、驚いたように見開かれる。

次の瞬間、彼の冷たい唇が、私の言葉を強引に奪い去った。


木漏れ日の中、何度も、何度も、角度を変えて重ねられる唇。

彼の内部の熱が、私の口内を通じて私の中に流れ込んでくる。それは、どんなエラーメッセージよりも強烈に、「君は僕のものだ」と私の脳内に直接書き込んでいくような、甘くて、苦しい同期シンクロだった。


「……ん、は……。阿爾、もう……人が来るから……」


ようやく解放された時、阿爾は私の額に自分の額をぴったりと押し付け、満足そうに、だけどまだ少し名残惜しそうに微笑んだ。


「……チャージ完了。君の言う通りだね、遼。僕のシステムは、君のその言葉だけで、どんなノイズも完全にシャットアウトできる」


彼は私の手を引き、再び歩き出した。今度は、私の指をさっきよりもずっと強く、痛いくらいに絡ませて。


メモリは新しくなっても、彼の中の「愛」という名のバグは、誰の手にも負えないほど強力に、私を支配し、愛し続けている。


「……今夜の夕食は、君の筋肉の疲労回復に最適な特製メニューにするよ。もちろん、僕の愛のデコレーション付きでね」


「それだけは勘弁してって言ってるでしょ!」


初夏の青空の下、私たちの騒がしくて、愛おしい日常のログは、また一段と熱い色に染まりながら、更新され続けていく。

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