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97 転移先はオフィス?

毎週、月・水・金に更新中!

「ううっ、眩しい」


 シズカが作動させた転移魔法陣とやらは、強烈な光で俺達を包んだ。

 眩しすぎて目を開けていられない。

 おまけに足元がぐらりと揺れるような感覚と、腹の底をゆさぶられるような奇妙な感覚が同時に襲ってくる。


 やばい、酔いそう!


「うぐっ」


 あまりの気持ち悪さに口元を押さえた瞬間、強烈な光がすうっと消えた。

 何回かパチパチと瞬きすると、先ほどとは違う景色が目に入る。


「着いたみたいですね」


 俺以外の3人と一匹は特に酔わなかったのか、皆けろっとして魔法陣から出て行く。


「ここは本当にエドランなのかニャ……? 窓も無いし、ホコリっぽいし……クシュン!」


 クロジが大きなくしゃみをした。

 確かにここは暗くてホコリっぽい。おまけに少しかび臭い。周りにはいくつもの木箱が雑然と積み上げられている。


「ここは倉庫か何かか?」


 部屋の広さは10畳ほどで、両サイドの壁に積まれた木箱以外に特徴のあるものは見当たらない。

 みんなに続いて、俺も魔法時から出る。すると、先ほどまで青く光っていた魔法陣の光がすうっと消えた。


「あれ、光が消えちゃったな。これもう使えないのか?」


「おそらく、孤児院側の魔法陣の復元に使った薬剤が、全部乾いちゃったんだと思う」


「ってことは、もうあっち側には戻れないのか」


 一方通行という言葉が頭をよぎる。退路を断たれた事実が、腹の中の不安をより大きくさせる。


「ヒロ、そんな不安そうな顔すんなって! いざとなったら身体強化したアタシがヒロを抱えて逃げてあげるからさ!」


 シズカがカラカラと笑った。


「お前ら、ここが敵の本拠地だということを忘れたのではあるまいな。緊張感を持たんか」


「分かってるって。……それにしても、ここはエドランのどこなんだろうな。ゲルセミウムのアジトなのか、それともエレガンス製薬の建物か?」


「おそらくエレガンス製薬の方ニャ。部屋の扉の向こうから、ほんのり薬品の匂いがするニャ」


 クロジがスンスンと鼻を動かした。


「ずっとここにいる訳にもいかないニャ。俺様がこのキュートボディを生かして、偵察してきてあげるのニャ。もしここの人間にバレても、俺様ひとりなら逃げきれる可能性が高いのニャ」


 クロジの黄色い瞳がキランと光る。

 クロジは小さく開けた扉からスルリと外へ出ると、そのまま長い廊下をソロソロと歩き出した。今のところ、廊下には誰もいないようだ。人の気配もなければ、物音もしない。


 クロジを待つ間、俺は魔法陣のほうを振り返った。何度見ても、もう魔法陣は光らない。


 それにしても、床に描かれた模様の上に乗るだけで、全員揃ってどこかへ移動できてしまうなんて変な感じだ。

 便利だなという気持ちよりも、奇妙な体験をしたなという気持ちが勝る。


「そういえば、勢いで魔法陣に乗ってここに乗り込んできちゃったけど、帰りはどうするの? ここはエドランなんでしょ。アーカシとかザカリオからはめちゃくちゃ遠いんだよね?」


「まぁここがエドランであるという保証もないがな。ジンの行き先であれば、エレガンス製薬の本社のあるエドランの可能性が高いというだけだ。どのみち帰りはまた歩いて帰るしかあるまい。しかし」


 カゲロウが俺の目をまっすぐに見る。


「ヒロは再びザカリオ方面に帰る必要があるのか?」


「どういう意味だよ」


「お前の故郷は日本であろう。であれば、お前が探さねばならんのは青く光る祠だ。もちろん再びザカリオの祠に行っても良いが——」


 カゲロウの言う通りだ。俺はこの戦いが終わった後、どうすればいいんだろう。

 本当に日本に帰れるのだろうか。

 その時、俺達のいる倉庫の扉がキィ、と開いた。一瞬ドキリとしたが、入って来たのはクロジだった。


「みんなこっちに来るんニャ。このフロアには誰もいにゃい。それになんか変ニャ。どこの部屋も廊下も窓がないし、誰もいないんニャ」


 俺達は互いに顔を見合わせる。窓が無いということは、ここは地下なのだろうか?

 足音を消し、4人と1匹で連れだってそろそろと倉庫から出る。


「使われてないフロアなんでしょうかねぇ」


 足音に細心の注意を払ったまま、階段の踊り場へと出る。ここより下に続く階段はないため、ここが一番下の階らしい。


「えらく不思議な素材の階段だな」


 カゲロウが階段の素材を足でなぞりながら、ぼそりと呟く。


「ええ。それに照明も不思議ですね。ランプのような温かみのある明かりじゃないですし……」


 リタは怪訝な顔で壁に取り付けられた照明を見上げている。

 それはこの世界によくあるタイプのオレンジ色の照明ではなく、俺が見慣れている白っぽいLEDライトのように見えた。


 カゲロウが不思議な素材と言った階段は、リノリウムなのか多少艶のある素材で、淵に滑り止めがつけられている。これも日本ではよく見る形状だが、言われてみるとこちらの世界で見たことはない。


「ここだけ日本みたいだ……」


「ああ、床も照明も、おまけに天井まで、丸っきり日本の建物だな。いや、日本のというか、あっちの世界のものというか」


 シズカも俺の呟きに同意した。


 階段を上り切ると、先ほどまでの人工的な明かりとは違う明るさが差し込んでくる。


 そこには、白を基調としたオフィスのエントランスのような空間が広がっていた。

 外に面した壁一面がガラス張りになっていて、その先には見渡す限りの海が広がっている。室内は広い空間に、外部の人間をもてなすような白い応接セットがいくつか設置してある。ここも元の世界によくありそうな、大きなオフィスの一角のような造りだ。


「あ、外じゃん!」


「シズカ、走るでない! 警戒しろ! どこから敵が来るのか分からぬのだぞ⁉」


 元気よく走り出すシズカをカゲロウが止めた。


「でも、人の気配はないよ。大丈夫じゃないの。ねぇ見て、窓から海が——」


 無邪気に笑うシズカが俺達の方を向いた瞬間のことだった。

 何やら白い影が死角から躍り出て、シズカを押し倒した。


「……ッ‼」


 カゲロウがすかさず剣を抜き、白い影に切りかかる。

 白い影はヒラリ、と身をかわすと、俺達から充分な距離を取った。


 全身白い忍者装束に身を包み、風のように軽やかに動く女。

 そして確かに人の気配が無かったはずなのに現れた女——


「お前に隠密スキルがあることを、すっかり忘れていたよ——キリエ!」


次回の更新日は今週の水曜日です⭐︎

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