表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/110

96 転移魔法陣の再利用

毎週、月・水・金に更新中!

「吹き飛んだ魔法陣を薬で浮かび上がらせる……だと?」


 カゲロウの顔には「理解不能」と書いてある。


「そうだよ。今調べた感じだと、部屋自体は爆発でメチャクチャになってるけど、床はえぐれたりしてないだろ? 吹き飛んだのはあくまで魔法陣が書かれた表面だけだ。吹き飛んだというより、ホコリや瓦礫でかき消されただけって感じかな。だから薬剤を使って魔力の流れを再現すれば、理論上はもう一度魔法陣が作動するはずなんだ」


 シズカは魔法陣の仕組みを理解しているようで、こともなげに言うが、俺にはサッパリ分からん。

 俺の横で他の2人と1匹も首をかしげているので、全員理解できないのだろう。


「ちょっといいか、シズカ。俺には理論が分からないんだけど……シズカが薬剤を使えば、本当に魔法陣は復活するのか? 俺達はエドランに行けるのか?」


「ああ。薬剤を調合するのに少し時間はもらうけどね。でも早くしないと、もうすぐ軍の警察部がここに来る。彼らが来たら、アタシらだってここに不法侵入してるわけだし、お咎めなしって訳にはいかないだろ。だから、やるならすぐに取り掛からなきゃ」


 俺とカゲロウ、リタ、クロジは黙って顔を見合わせた。

 仮に魔法陣が作動してエドランに辿り着けたとしたら、そこはもう敵の本拠地だろう。敵がうじゃうじゃいると思っていい。

 いくらナリトモ様やリタの兄を探しているとはいえ、いきなりそんなところに乗り込んでしまって大丈夫だろうか。


 答えを躊躇する俺に対し、リタとカゲロウは覚悟の決まった顔でシズカの方を向いた。


「お願いします」

「迅速に頼む」


 ふたりは口々に言った。


「あいよ。少し待ってな」


 シズカはニッと笑うと、奥の小部屋の方へ向かっていった。

 彼女が作業を追えれば、もう俺達はすぐにでもエドランに移動しなければならない。


 敵の本拠地に乗り込むだなんて、もっと先の話だと思っていた。

 覚悟が決まらず悶々と腕を組む俺の横で、リタが言った。


「私も詳しい訳じゃないのですが、転移魔法陣ってこっち側とあっち側、ふたつで1セットですよね? こちらの魔法陣を復元しても、仮にジンがあちらの魔法陣を破壊していたら転移できなくないですか?」


「その場合は、こちらの魔法陣を復元しても作動しないであろうな。ただし魔法陣を描ける魔術師はかなり稀だ。おまけに人を運べる大型かつ特殊な魔法陣ともなると、設置費用が高額だ。それこそ王都に家が建つくらいには。いくらジンでも魔法陣をふたつとも破壊することはないのではないか。あちら側を残していれば、また別の場所に魔法陣を設置すれば再利用ができる。吾輩の勘だが……おそらく向こう側の魔法陣は残っていると思う」


「ジンはシズカが薬師であることも知りませんもんね。まさか爆発で吹き飛ばしたはずの魔法陣を薬剤で再現されるとは思っていないでしょう。シズカの作業後、無事に作動することを祈るしかないですね」


 二人は淡々と会話しているが、どことなく雰囲気が重い。多分、俺以外もみんな緊張しているんだ。敵の本拠地に乗り込もうとしているんだから、当然と言えば当然かもしれない。


「ところで、シズカが連れて逃げた獣人の子供たちって、軍の人たちがちゃんと保護してくれてるんだよね?」


 俺が言うと、奥の小部屋から「そうだよん」というシズカの声がする。彼女はそう返事しながらも、手を止めずに着々と作業を進めている。


「本来ならばあの子供たちを信頼できる獣人族の大人に預けるか、アーニマ大陸まで直接送り届けたいところだが……今はナリトモ様を追うのが最優先だ。軍の連中にはここに書置きを残そう。吾輩がナリトモ様の直属部隊である証のネックレスとともに、ミナモト国に連絡を取ってくれるように要請する」


 カゲロウは胸元からジャラリ、とネックレスを引き出した。


「それ、カゲロウの大事な物だろ? 軍の人たちが信用できるかも分からないのに、ここに置いていっていいのかよ?」


「構わぬ。ナリトモ様さえ見つかればそれでいいのだ」


 カゲロウは表情を変えずに言う。顔だけ見ても、彼の本当の気持ちは分からない。

 でも俺には、ネックレスを見つめるカゲロウの目が少し寂しそうに見えた。


「おーい、みんな。魔法陣の復旧作業が終わったよん。こっち見てみなよ」


 シズカの声に呼ばれて、俺達は奥の小部屋へと向かう。

 爆発で明かりも吹き飛ばされたせいで真っ暗だった部屋の中に、いまは水色に光る魔法陣がぽっかりと浮かび上がっている。


 魔法陣の直径は俺が両手を伸ばしたくらいの大きさで、文字らしきものやら記号らしきものがびっしりと書き込まれている。


「こんな複雑なもの、よく復元できたな」


「まぁアタシは薬剤を上からぶっかけただけだし。ただ一回吹き飛んだものだから、薬剤が乾いたらまた作動しなくなっちゃうよ。移動するなら早くしないと」


 早く覚悟を決めろと言われているようで、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。

 ここまで来て覚悟が決まってないなんて笑われるかもしれないが、それでも俺は不安でどうしようもない。


「行きましょうか」


 リタが皆を見回す。カゲロウは頷く代わりに、一番最初に魔法陣へと足を乗せた。

 ああ、まだ覚悟が決まっていないのに、もう移動が始まってしまう!


 すると、小部屋の外をウロウロしていたクロジが「ヒロ、ちょっといいかニャ」と俺を呼んだ。


「なんだよクロジ。移動しないのか」


「もちろん俺様も魔法陣に乗るニャ。でもその前に、コレ」


 クロジがどこからか引っ張り出して咥えてきたのは、先ほどジンが使っていたのとよく似た銃だった。


「これ、ジンのやつか。中身は……カラだな」


「ヒロ、ここに何か飲み物を入れるのニャ」


「飲み物? なんだ水筒代わりに使うのか?」


「そんな訳にゃいだろう!」


 クロジの前足パンチが飛んでくる。


「ヒロのスキルは対象物を食べ物だと判断しない限り発動しにゃいだろ。この銃に飲み物を入れて、ジンみたいに撃つんニャ。ジンの銃なら、これはおそらく水鉄砲のようなものニャ。相手に飲み物をかけてから、ヒロのスキルを発動させる。そうするしか、もう戦う方法はないのニャ」


「戦う方法か……」


 それは、クロジもこの先に人間との戦いが待っていると判断しているということだ。

 皆分かってる。この先が最後の戦いになるということを。

 そして、ジンのような諸悪の根源の元に行くということは、楽な戦闘にはならないだろうということも。


「クロジは怖くないのか」


 俺の口から、思わずそんな言葉が飛び出した。

 俺もクロジも、運悪くあのバスに乗っていたせいで、戦いとは無縁の平和な日本からこの物騒な世界に転移してしまったのだ。

 実は内心は怖くてたまらないのではないか。けれど、クロジは首を横に振った。


「ご主人の元に帰るためニャ。コワイとか言ってられないニャ。ヒロは……まだコワイかニャ?」


「ああ、怖くてこわくてたまらない。俺は結局、最後までこの戦いばかりのこの世界に馴染みきれなかったよ」


 俺は苦笑しながら頭を掻く。


「でも、俺も日本に帰りたい。そのためには、やっぱりジンと決着をつけなくちゃ。そういや、ザカリオの青く光る祠に書いてあっただろ……『来るべき災厄を退けた時 その者は生の淵へ戻る』ってさ。もしかして、それはジンのことかもしれないなって思って。俺たちでジンを止める。そうすれば、日本に帰る道筋が開かれるかもしれない。怖くても……やるしかないんだよ」


 俺は自分自身に言い聞かせるように言った。

 そう、やるしかない。

 これがきっと、最後なのだから。


「ヒロ、クロジ、早くせんか」


 小部屋の方から、カゲロウの声がする。

 でもその声は苛立っている訳でもなく、どこか優しい声だ。

 きっと俺が内心怯えていることも、カゲロウにはお見通しなのだ。


「いま行くよ」


 俺とクロジも、小部屋の魔法陣の中に入る。4人と1匹で入るには少々、いやだいぶ手狭だ。


「ちょっとヒロさん、変なところ触らないでくださいよ」

「触ってない! 腰に差した銃が当たっただけだから!」

「狭いニャ!」

「シズカ、早くしろ!」


「おっけーい。じゃあ最後の薬剤を垂らすよ。これを垂らしたら本格的に魔法陣が作動するはずだからね。みんな、用意はいいね?」


 窓の外から、何頭もの馬の足音が聞こえてきた。

 きっと、軍の人たちが到着したんだ。

 俺は心の中で「獣人の子供たちを頼みます」と念じる。


「いくよ!」


 シズカの元気のいい声とともに、魔法陣が足元から天井に向かって強く光り出した。


次回の更新日は来週の月曜日です⭐︎

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ