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92 コカトリス、再び

 ナリトモという名を聞いて、虎の獣人の耳がピクリと揺れた。


「お前達、ミナモト王国からの追手か?」


 違います! ミナモト王国からの追手はカゲロウだけなので、俺のことは見逃してください! などと言えたらどれだけ良いだろうか。

 そんなことを口走ったら、虎の獣人より先に俺がミンチにされてしまう。俺はじっと黙って虎とカゲロウの睨み合いを見守った。


「そうだ。吾輩はナリトモ様を追ってここまで来た」


「ハハッ、ナリトモならもうここにはおらんよ。残念だったな、ミナモト王国の軍人よ。お前はナリトモと共に故郷の土を踏むことなく、ここで俺に殺されるのだ」


 カゲロウがぎりぎりと奥歯を噛む音が聞こえた。


「貴様、非獣人族の犯罪組織にいいように使われるなど、獣人として恥ずかしくないのか⁉」


「非獣人と侮るなかれ、俺の主はすばらしいヒトなのだ。彼女に仕えることこそが俺の喜び。獣人族の誇りなどという曖昧なものなど不要!」


 虎の獣人は叫ぶように言うと、力強く床を蹴った。大きく振りかぶった腕の先についている凶悪なサイズの爪で、カゲロウに襲い掛かる。


 ガキン!


 カゲロウの剣と虎の爪が交わった。

 金属同士が交わったようなすごい音がしたけど、虎の獣人の爪ってどうなってるの⁉


 カキン、シャキンと硬質な音が連続で鳴り響く。

 虎の獣人はその巨体に似合わず、非常に動きが速い。速すぎて目で追うだけで精一杯だ。俺ならあのスピードについていけず、攻撃をくらった瞬間に致命傷を負っている自信がある。


「ヒロさん! カゲロウの援護とかできませんか?」


「え、援護? えーっと」


 リタに言われて俺がオロオロしていると、カゲロウから本日何回目か分からない「馬鹿者!」という叱責が飛んできた。


「ヒロもリタも周りをよく見ろ! 敵はこの獣人だけではない!」


 そう言われてハッと周りに意識を巡らせる。


「コッコッコッコ」


「なんか変な鳴き声? みたいな音がしないか?」


「コケ―! コッコッコッコ!」


 聞き覚えのある鶏のような声。

 恐る恐る辺りを見回すと、いた! 鶏のような体に、まるで蛇ような尾。コカトリスだ!


「わっ! なんでこんなトコロにモンスターがいるんだよ⁉ ここは孤児院だろう?」


「コカトリスは毒がありますから……毒を抜き取るために飼育されているのかもしれません。孤児院といえど、ここは犯罪組織の一部ですからね」


 するとカゲロウと激しくやりあっていた虎が口を開いた。


「俺はコカトリスなんか飼育するのには反対だったが、招かれざる客の相手をしてくれるなら悪くねェな! 檻から放してきた甲斐があった」


 どうやら、本当に孤児院のどこかでコカトリスは飼育されていたらしい。

 モンスターを飼育する孤児院ってなんだよ! 意味わかんねぇよ!


「ヒロさん、ここにコカトリスがいる意味が分かりますか?」


 リタが何故かぎらついた目で尋ねてくる。


「え? 分かんないけど」


「この孤児院には米があり、そしてここにはコカトリスもいるんです。ということは! 天に昇るほど美味しいというヤキトリドンができるじゃないですか‼ ヒロさん、朝ごはんはヤキトリドン食べ放題で決定ですよ!」


 リタはそう言うと、じゅるり、と口元を拭った。めっちゃヨダレ垂れてんじゃん。

 こんな時でも恐れよりも食欲が勝つのはいいことだ。


 ここでモンスターや獣人相手にオロオロしたってしょうがない。

 自分にできることをやって、ここを切り抜けなければ!


「よおし、全部捕まえて俺達の食材にしてやる! くらえ、【串打ち】!」


 手のひらからブスブスと竹串が飛び出す。

 俺もだいぶコントロールが良くなったようで、飛び出した竹串は大半がコカトリスに刺さった。

 目視する限りだと、コカトリスは5匹程度だ。これくらいなら俺ひとりでも対処できる——と思っていたら。


「シャァァァ! ヒロ、ぼうっとしてるニャ! 俺様がスキルで威嚇してなかったら、ヒロは後ろから襲われてたんニャ!」


「クロジ、悪ィ! 一匹ずつ倒すより、全部まとめて捕まえた方がいいな。【食材確保】!」


 大きな網がばさりと広がり、コカトリスたちを丸ごと包み込む。

 そこからすかさず、【冷凍保存】のスキルで奴らを凍らせる。コカトリスが毒の息を吐くまでが勝負だ。


 俺は一度コカトリスの毒をモロにくらっているが、同じ手は食わらないぞ。


 俺がスキルを発動すると、コカトリスたちの周りを白い冷気が覆う。パキパキと凍っていく中で、奴らの小さな悲鳴があがる。しかし、絶対にここで手を緩めるわけにはいかない。全員まとめて凍ってろ!


「コカトリスがカチンコチン、ニャ! やっとヒロも一人前に戦えるようになったんニャ。ま、俺様のサポートありきにゃけど」


 クロジは凍り切ったコカトリス達を眺めながらえらそうに言って毛づくろいをしている。誰かこの猫にもっと可愛げを足してやってほしい。


「そういえばカゲロウは⁉」


「フン。吾輩もいま獲物をしとめ終わったところだ。コイツが獣人でなければ猫鍋にでもしてやったのに。残念だ」


 カゲロウは虎の獣人の頭を踏みつけ、その下では虎がうめき声をあげている。


「クソがッ! お前ら、絶対に許さないからな! ジン様がこの事態に気付けばお前らなど——グォォォォ」


「はい、おやすみなさい」


 獣人が恨み言を言い終わらないうちに、リタが【安眠】スキルで虎の獣人を眠らせたらしい。急にいびきをかき出すから何事かと思ったよ。


「さて、虎の獣人は眠らせてカゲロウが縛り上げましたし、コカトリスも全部倒しました。どうやらまだ施設には他にも人間がいるようですが——襲われる前にこちらから仕掛けますか?」


 リタは可愛らしく首をかしげているが、喋っている内容が少々物騒だ。


「ああ、逃げられて村の人間に助けを求められると厄介だからな。ゲルセミウムの一味には攻撃できても、さすがに村人を攻撃する訳にはいかん。施設の人間の寝室らしき部屋からあたるぞ」


 俺達はカゲロウの言葉に力強く頷く。

 コカトリスとの戦いでも分かったが、やっぱり俺は戦いの要領がかなり良くなっている。これなら他に施設の人間が出てきてもなんとかなるかもしれない。


 これが大いなる慢心だと気づくのは、それから数十分後の話だ。


毎週、月・水・金に更新中!

次回の更新日は今週の金曜日です⭐︎

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