8 実食!コカトリス
俺がコカトリスの調理を申し出ると、冒険者の3人はお互いに目配せをした。子供にしか見えない俺に調理をさせても大丈夫なものか、目で相談しているようだ。
一呼吸置いてから、ヒゲの男性が口を開いた。どうやら彼がリーダーらしい。
「頼もしいな。では、調理を願いするとしよう。コカトリスは君が寝ている間に、既に仲間が解体している。後は焼くだけだ」
解毒剤が効いているのか、少しずつ体のだるさや頭痛もマシになってきている。
体調は万全ではないが、この程度なら串焼きを焼けるだろう。
俺は肩をぐるりと回して、体が問題なく動くのを確認してから立ち上がった。
俺はヒゲの男性からコカトリスの肉を受け取ると、アーカシで譲ってもらったマジックバッグからいくつかの道具を取り出した。
まずはリタの家の前にあったいくつかのレンガと、グレートディアの串焼きのお礼にと市場の人がそのまま譲ってくれた金属製の焼き網。これらを組んで焼き台に仕立てる。
それからリタの家のキッチンから借りてきた包丁とまな板と塩だ。
串焼きマスターと大そうな名前がついているものの、今の俺にはこれだけの道具しかない。なんとも寂しいものだ。
旅の途中で色々と調理器具や調味料を仕入れたいなぁ、などと考えながら、俺は手際良くコカトリスの肉を一口大に切っていく。肉は柔らかく、包丁がスッと入っていく。
コカトリスは鶏のようなモンスターだから、串焼きにすれば、さしずめ焼き鳥塩味、といったところか。
肉を一通り切り終えたので、ここで俺はスキルを発動する。
「串うち!」
俺の掌から出た竹串が肉に次々と刺さっていく。珍妙なこの光景にもなんとなく慣れてきた。
しかし他の人にとってはそうじゃないらしい。
「おい見ろよ! 肉に串がどんどん刺さっていくぜ! ハハッ、こんなの見たことねぇや!」
坊主頭の男性はこの光景がお気に召したらしく、いたくご機嫌だ。
「へぇ、面白いスキルじゃない。食べるのが楽しみね」と涼しげな目の女性。
そしてリタはというと、
「おいしそうれすねぇ」
と言いながら、手の甲でヨダレを拭っている。おいしそうって、まだ焼いてないんだが。
みんなそれぞれに良い反応をしてくれるので、俺も楽しくなってきた。
それから炭を起こし、肉を焼き網に並べていく。本来は炭を起こすのに数十分かかるのだが、俺のスキルだとすぐに焼ける状態になるので本当に便利だ。
この世界はモンスターさえ登場しなければ、自分の職業に応じた便利なスキルが使える素晴らしい世界なのかもしれない。果たして、科学が発達した世界と、スキルが発達した世界はどちらが便利なのだろうか。
そんなことを考えているうちに、辺りには香ばしい匂いが漂いだす。
コカトリスの身から脂がこぼれ落ち、炭のあたりからじゅう、という音がする。美味しそうなコカトリス串を目の前に、皆んなの表情がゆるんできた気がする。
美味しい物を目の前にすると警戒が少し緩むのは、どこの世界でも同じなのだろう。
みんなは焼き台の周りに集まって、自然に円の形に座る。
「ねぇ、肉を焼いてる間に自己紹介しましょ。私はアニー。」
涼しげな目の女性がアニーと名乗ると、坊主頭の男性はドニ、ヒゲの男性はダニエルとそれぞれ名乗った。
「私はリタです。見習いのヒーラー です!」
「俺はヒロ。料理人です」
肉の脂がぱちぱちと弾ける音が響く中、アニーが俺に尋ねた。
「ヒロは黒髪で黒っぽい瞳なのね。珍しいわ。サラサラとした黒髪が艶やかで、ミステリアスな雰囲気でイイわね」
アニーの魅惑的な瞳に絡め取られそうになって、ドギマギしてしまう。
年上のセクシーなお姉さん、うん、悪くない。
「おいアニー、若い男の子をからかうんじゃない。ところでヒロ、もうそろそろ肉が焼ける頃じゃないか? 美味しそうな色になってきたな」
ダニエルに言われて視線を焼き網に向けると、なるほどコカトリスの肉はもう食べごろだ。
肉の表面にはうっすら脂が浮き上がり、パチパチと小さく弾けながら黄金色に光り輝いている。表面の茶色い焦げ目からは絶妙に香ばしい匂いが立ち昇り、俺達の鼻先を刺激する。
焼き上がった肉に塩をふりかけ、串を持ち上げる。
串を配る順番は、まず俺を助けてくれた冒険者の三人から。まずはレディーファーストでアニー、それからドニ、ダニエルの順番で串を渡していった。
三人はお互いに目を合わせると、同じタイミングで串を口に運ぶ。
最初に声を上げたのは坊主頭のドニだ。
「うめぇ! ただ焼いただけなのに、炎スキルでパッと焼いたやつとは別モンだな。高級肉みてぇだ!」
「香ばしさがいいわね。炭で焼くなんて手間がかかるし、煙もすごいから冒険中は難しいけれど、たまにはいいわ」
アニーは串を鼻に近づけて、香りも楽しんでいる。
「フム、コカトリスがここまで美味くなるとは。レストランさながらだな」
ダニエルも気に入ってくれたようだ。
俺を助けてくれた冒険者三人にささやかながらもお礼ができたことに俺が満足していると、横からリタが俺の服を引っ張ってきた。
「ヒロさん……私にもコカトリスの串をください」
リタは我慢しすぎて若干涙目になっている。
「ごめん、うっかりしてた! はい、これはリタの分」
「ヒロさんありがとう! いただきまーす! あむっ。うまあああああ!」
リタは満面の笑みで肉を頬張ると、目にも止まらぬ速さで串焼き一本分を平らげてしまった。
リタの唇が、コカトリスの脂でキラキラと輝いている。
「グレートディアよりあっさりしていて、何本でも食べられちゃいますね! 今日は何本食べていいですか?」
おいおい、リタは昨日グレートディアの串を何十本と食べただろう。今日は一体何本食べるつもりなんだよ……。
リタはともかく、冒険者の三人もまだまだ食べられそうなので、すでに下準備した分を焼き台に乗せていく。しかしこれでは足りないだろうと思った俺は、急いで残りの肉も串に刺していった。
皆が美味しいと口々に話す声と、炭がぱちぱちと弾ける音が混ざり合って心地良い。
のんびりと過ごすこんな時間も悪くない。思えば、ここ1年くらいは仕事で手一杯でゆっくりとする暇はあまりなかったかもしれない。
社会人として仕事を任されていることが誇らしくて、ゆっくりするよりも忙殺されている方がかっこいいと思っていた。
元の世界に戻れば、また謀殺される日々なのかもしれない。それでも——俺は日本に帰りたいと思う。
帰り方も分からないけれど、どうにかして手がかりを掴みたい。
けれど今この瞬間だけは、皆と一緒にモンスターの串焼きに舌鼓を打ちたい。
「さぁ、おかわり焼けましたよ! 俺も食べようっと!」




