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78 水蛇を捕まえるらしいけど

 今から危険すぎる場所へ向かう俺たちを、シィが手助けしてくれるという。


「シィさん、俺達を助けてくれるのか?」


「さん付けはいらない。呼び捨てでいい。うん、アタシがあんた達と一緒に薬の材料を取りに行くよん。アタシが行けば道案内もできるし、薬も持って行くから回復薬も担ってやれる。いい案だろ」


 俺たちだけで行くよりも、この辺の地理に明るいであろうシィも一緒の方が安心だ。「是非よろしく」と答えようとしたところで、長老が声を張り上げて反対した。


「シィ、馬鹿なことを言うんじゃないよ! アンタが行ってもお荷物になるだけだ!」


「ばあちゃん、なんでそんなこと言うの。アタシもディカマンに来てもう半年経った。薬の調合だって慣れてきたし、この辺の道も結構分かるようになってきた。案内役としては充分役に立てると思うんだ」


「お前がここに来て、まだ半年だ! 薬師としては半人前だし、お前だって空洞の民じゃないか。スキルもないのにモンスターがうじゃうじゃいるところに突っ込んでいくだなんて、自殺行為としか言えないね。やめておきな!」


「じゃぁ、ディカマンの人間は恩知らずでいろって言うの? アイスフォックスと雪男の奇襲をなんとかやり切れたのは、この人らが一緒に戦ってくれたおかげだろ? この人らはアタシらを助けようとしたせいで仲間が死にかけてる。それに対してディカマンは誰も死んでないし、怪我人が数人いるだけじゃないか。元気なアタシがこの人らの案内役をやらなくて、誰がやるって言うんだよ」


 長老は鼻の付け根に皺をよせ、何か言いたげな顔をした。シィはそれを無視して喋り続ける。


「ばあちゃんが反対しても、アタシは行く。スキルはなくても身軽な方だし、お荷物にはならないよ。大丈夫、心配しないで」


 シィが口角を上げてニッと笑うと、長老は観念したように短く息を吐いた。


「わかった。お兄さんたち、シィを連れてっておくれ。薬の材料になるモンスターは、向こうの山の麓にある洞窟にいる。数が多いし、妙な攻撃を放ってくるから気を付けるんだよ」



 目的地の山の麓はすぐ目の前にあるように見えて、そこに辿り着くまでには大変な労力がいった。直線距離は大したことがないのだが、崖の上にあるディカマンから行こうとすると高低差が激しいのだ。


 俺達は切り立った崖をそろそろと横ばいで移動したり、ごつごつした岩の上を跳ぶように移動したりしながら、なんとか山の麓を目指した。ぜぇぜぇと息が上がってきたころ、ようやく山の麓が見えてきた。


「なぁ、そういえば自己紹介してなかったよな。アタシの名前は知ってると思うけど、シィっていうんだ。ディカマンには半年前から住んでる。いわゆる空洞の民ってやつでね、スキルはないんだ。職業は薬師見習いってとこかな。お兄さんたちの名前は?」


「俺がヒロ、獣人がカゲロウ、猫がクロジだ。よろしく」


「お兄さんたちは、皆スキルがあるんだよな?」


 シィがこちらを伺うように、上目遣いで言った。女の子に上目遣いをされたら普通はキュンとするものなのかもしれないが、シィの目力が強すぎて別の意味でドキドキする。嘘をついたり誤魔化したりすれば、そのまま制裁されそうな気がするのだ。彼女の目には、そんな有無を言わせないような迫力がある。


「俺は串焼きマスターっていう調理系のスキルを持ってる。商業スキルだな。猫のクロジは異種間言語理解っていって、人間の言葉を喋ったりできるスキルがある。これは何に分類するか分からないが、そもそも動物がスキルを持ってることが異例らしいから、まぁ深く考えないでくれ。で、カゲロウが……」


「言わなくても分かるだろう。吾輩は見ての通り獣人だ。スキルは言わずもがな」


 すると、シィは首を傾げた。


「なんで、言わずもがな、なんだ?」


「何を言っておるのだ。獣人のスキルは身体強化と決まっておるだろう。常識ではないか」


「はぁ、常識なのか」


 シィは首を傾げたまま、ポリポリと頬をかいた。


「アタシはここの常識っていうのに疎いんだ。自分がスキル無しだし、住んでるところもスキル無しの人間の集まりだろ? だからスキルの概念とか分類とかもよく分からないんだ。ところでさ」


 シィは体の向きをくるりと返ると、俺の顔を覗き込むようにしていった。


「な、なんだよ」


「ヒロの髪の毛って、染めてるのか?」


「いや、地毛だ。こっちの人には珍しいんだろうけど、俺の故郷は黒髪の人が多いんだ」


 シィは「ふぅん」と言いながら、俺の髪をしげしげと眺めた。彼女が何か言おうと口を開いたところで、おもむろにクロジが声を上げた。


「洞窟の入り口が見えたのニャ! きっとあれニャ」


 見ると、ごつごつした大きな岩の向こうに洞窟の入り口が見える。中は暗くて、奥の方はよく見えない。


「ついに着いたのか……。うう、入りたくないな」


 入り口はカゲロウがギリギリ通れるくらいの大きさで、決して大きくはない。中は真っ暗で、何故だか中からは生臭い匂いが漂ってくる。色々な意味で気持ち悪い洞窟だ。


「くせぇ。でも、これに入らないと、リタを治す薬の材料は手に入らないんだよね……?」


 俺がちらりと見ると、カゲロウは小声で言った。


「中には水蛇と呼ばれるモンスターが群れで住んでいると聞いている。けれど、そのうちの一匹を捕まえればいいだけだ。できるだけ物音を立てずに近づき、一番近くにいる個体を捕獲して、速やかに洞窟から離脱する。わかったな?」

 

 俺は静かに頷いた。ここで余計な声を上げて、モンスターの群れに感知されたらたまらない。ここからは極力無駄な音を立てずに、隠密行動を心掛けなければならない。


「こんなとき、リタがいれば心強いんにゃけど」


 クロジが思い切り首を垂れて言った。


「分かるよ、クロジ。リタがいれば何かあっても回復してもらえるから、心強いもんな。でも、今回はシィが長老から色々と薬を預かってきてくれてる。彼女が回復役だ。きっと大丈夫だから心配するな」


「にゃーん」



 洞窟内では松明を持ったシィが先頭、その後ろにカゲロウ、俺と肩に乗ったクロジという順番で進む。洞窟内は横並びで歩けるほどは広くはない。ただ、入り口よりは少しずつ天井が高くなってきているし、横幅も少しずつ広がっていっている気がする。

 すると、急に天井が高い道に出た。よく見えないが、奥も広そうだ。


「お、急に広くなったな。ちょっと開放感があるかも」


 俺がのん気な声を上げると、急にクロジとカゲロウが小刻みに耳を動かしながら周囲を警戒しはじめた。何かいるのか? 水蛇というモンスターだろうか? 俺は、いつでも走って逃げられるように、足にぐっと力を込めた。


 その時、俺の足にクロジがすりすりと身を寄せてきた。なんで今? これじゃあ走って逃げられないじゃないか。


「おいクロジ、今は足にまとわりつくのはやめてくれ」


「ヒロは何を言ってるのニャ?」


 クロジの声は相変わらず俺の真横から聞こえる。クロジは俺の肩に乗ったままだった。じゃぁ足にまとわりついている物体は……何!?


「でぇ!? 足のとこになんかいる! 助けて! シィさん、明かりを照らして!」


 俺がわぁわぁ喚いていると、カゲロウの一喝が飛んできた。


「馬鹿者! スキルを使って追い払え!」


「ああ、スキル! ええと、【串打ち】!」


 俺の右手から発せられた竹串は、地面にプスプスと刺さっていった。俺の足を締め上げていた何かは、いつの間にかいなくなっている。


「なんだったんだ、今のは……まさか水へ……」


 言い終わらないうちに、今度は周囲からバチバチという音が聞こえてきた。おまけに、火花も散っている。


「全員構えろ! 水蛇のお出ました!」


 カゲロウの声が聞こえた瞬間、洞窟内が大きな明かりに照らされたように急に明るくなった。思わず腕で目を覆う。

 腕で目元をかばいながら、恐る恐る瞼を持ち上げると、なんとそこには金色に発光する大きなモンスターがいた。


「あれが水蛇だ! 油断するな!」


 まん丸の目、顔の少し後ろにある胸ビレ、背びれから一続きになった丸い尾ビレ。

 俺はこんがりと焼かれたソイツを想像し、ゴクリと喉を鳴らした。


「違うよカゲロウ、あれは……あれは、でっかいウナギだ!」


次回の更新日は、来週の月曜日です。

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