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51 またまたハオラン

「ソワルセルパンと共に戦った皆さんと再び会えるナンテ! とても嬉シイ!」


 ハオランはパッと顔を輝かせた。


「なにが『共に戦った』だ! 貴様はコソコソと隠れておっただけであろうが!!!」


 にこやかなハオランに対し、カゲロウはイラ立ちを隠さない。

 

 そういえば、前回ここでソワルセルパンと戦闘になったのだった。暴走し、予測不能な動きをする大蛇との闘いはかなり骨が折れた。


 結界構築士を名乗るハオランは、その結界でもってリタやジュリアや爺やを匿ってはくれたが、一緒に戦ったかどうかはかなり怪しい。

 

「ところで、ハオランさんはここで何をしているんですか?」


「見ての通り、メウ横丁の復興のお手伝いデスヨ」


 ハオランはメウ横丁の奥を指さした。


 前回の戦闘でメチャクチャになったメウ横丁だが、もうすっかり瓦礫は取り除かれ、新しい屋台の骨組みが立ち並び始めている。カンカンと木槌を打つ音が鳴り響射く。


「復興にはもっと時間がかかるかと思いましたが、みなさん逞しいんですね。もうお店がいくつかできています」


 リタが感心したように言った。


「そうですヨ。皆さん商売しないと生活も成り立ちませんカラ。私も再度結界をかけ直して、ここが安全に運営できるようにお手伝いしてるのデス」


「フン。前回は貴様の結界がしょぼかったから、ソワルセルパンの侵入を許したのではないか? 他の奴に結界をかけさせるべきだと吾輩は思うがな」


 カゲロウが挑発するように言うと、ハオランはその細い目を精一杯見開きながら言い返す。


「ムム、カゲロウさん失礼デス! だいたい、この前ここを襲ったソワルセルパンは暴走モンスターだったじゃないデスカ! あんな無茶苦茶なパワーを防げる結界などないデス。それに、ソワルセルパンが暴走した原因が分かったのです。あんなの、誰の手にも負えまセン」


「原因って?」


「ワタシについてきてくだサイ」


 ハオランはそう言うと、俺達を引き連れてメウ横丁の奥に向かって歩き出した。メウ横丁を抜けるとまたダンジョンの狭い道に出た。ここは前回俺たちが来ていない場所だ。


 ダンジョンの通路をゾロゾロと進むと、途中ではしごがかかった場所があった。


「ここなんデス」


 ハオランはそのままはしごを上っていく。彼に着いていくと、屋根裏部屋のような狭い空間に出た。天井は低く、腰をかがめないと進めない。おまけに、カビの匂いに混じって、なんとも言えない刺激臭が鼻をついた。


「狭いのニャ。それになんだか変な匂いがするニャ。人間より鼻のきくネコチャンには、なんとも辛い仕打ちなのニャ」


 クロジが「オエ」と言って思いっきり顔をしかめる。


「ここはソワルセルパンの巣なんデス。変な匂いはソワルセルパンの体液か何かデショウ。それと、見てください、コレ」


 ハオランが巣の一角を松明で照らした。みると、赤い染みが広がっている。その染みはテラテラと不気味に光っている。


「ひぃッ、もしかして人間の血とか……?」


「違いマス」


 俺が情けない声をあげると、ハオランがぴしゃりと言った。


「どうもコレは、エレガンス製薬の作った身体強化ポーションらしいのデス。知ってマス? 先日、貴族たちの集まるパーティでエレガンス製薬が身体強化ポーションの実演をしようとしたら、大惨事になったという話デス。外国人の貴族とその使用人が騒ぎを収めたそうデスガ、そのあとその外国貴族たちの行方が分からないとイウ」

 

 ハオラン以外の全員の視線がカゲロウに集まる。どうやら、非獣人化したカゲロウがキメラ獣人を制圧したことになっているらしい。


 貴族の使用人というのは俺やリタのことだろう。

 ハオランはそれに気づかないまま話を続けた。


「その騒ぎの原因となったポーションと、ここの巣にある赤い染みの成分が、どうも似通っているらしいのデス。メウ横丁に出たソワルセルパンは、身体強化ポーションを摂取してああなったのではないか、と言われていマス。だから! ワタシの張った結界に問題があった訳じゃないんデス! わかりましたカ!?!?」


 ハオランがフンと鼻を鳴らした。


「なるほどな。それで、エレガンス製薬は関与を認めたのか?」


 カゲロウが尋ねると、ハオランはため息まじりに首を振る。


「エレガンス製薬のイサイ、という男がザカリオでの責任者なのデスガ、まだ見つかってないのデス! だからあの会社の関与を証明できナイ! 早く見つけて、私の結界に問題がなかったことを証明したいノニ! でも昨日の夜遅くに、イサイらしき人物をここのダンジョンで見かけたという人がいたのデス! ワタシはメウ横丁で仕事があるので、皆さんでイサイを探してきてくださいヨ! ワタシの名誉のために!!!」


 ハオランはドンドンとその場で地団太を踏んだ。エレガンス製薬のせいで自分の結界構築士としての仕事にケチをつけられ、相当腹が立っているようだ。


「貴様の名誉はどうでもいいのだが、我々もイサイを探しておるのだ。奴はダンジョンのどのあたりにいたのだ?」


「どうやらダンジョンの奥に向かってコソコソと走って行ったらしいのデスガ、まだ見つかってないのデス。ま、ダンジョンの奥はかなり危険ですからネ、生きてるかドウカ。いま冒険者ギルドでイサイの捜索チームが編成されているところですヨ。ああ、早く見つからないカナ」


 俺達ははしごを伝って、ソワルセルパンの巣から通路へと戻った。


 俺やクロジが日本に帰るための手がかりを探すためにも、イサイを探すためにも、ダンジョンの奥へと向かうのは避けられないらしい。


「ここからダンジョンの更に奥へと進むが、ジュリアと爺やはどうする。相当な危険が伴うが」


 カゲロウが尋ねると、ジュリアはニッコリと笑って言った。


「わたくしと爺やはハオランさんと共にメウ横丁に戻りますわ。お目当ての植物は採取できましたから」


「え、いつの間に!?」


 ジュリアは「ふっふっふ」と笑いながら植物を手に取った。


「さきほど、ソワルセルパンの巣の中で発見したのですわ! これこそが、わたくしが追い求めていた植物、ガリクです!」


 ジュリアは手に持ったそれを高々と掲げた。まっすぐ伸びた濃い緑の葉っぱは、長ネギのようにも見える。しかし根っこは白くてまん丸で、長ネギとは違う。


 俺には分かる。この根っこを焼くと、きっと食欲を刺激する香ばしい匂いに包まれるだろう。

 俺はこの植物を知っている。これは……


「ニンニクじゃないか!!!」


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