47 パーティの終焉
「私達は勝てたんですか……?」
リタが弱々しく尋ねる。
「ああ、俺達の勝ちだ! キメラ獣人も元の人間に戻れたよ。今回はリタに助けられたな」
「えへへ……」
その時、壁のほうからごそごそと物音が聞こえた。
「くそ、吾輩としたことが……油断したか」
見ると、気を失っていたカゲロウが目を覚ましたようだ。
「カゲロウ、目が覚めたのか! キメラ獣人は無事に元の人間に戻ったよ」
「なに、あれを制圧できたというのか……?」
「ああ、リタがキメラ獣人の首元にしがみついて、解毒スキルを使ったんだ。振り落とされる前になんとか解毒完了したよ」
「俺様も頑張ったのニャ」
クロジが満面の笑みで言う。
「そうか、皆頑張ったのだな。それにしても……」
カゲロウがぐるりとパーティ会場を見回した。
「すごい有様だな」
パーティ会場は見るも無残な荒れ模様になっていた。
すべての料理はひっくり返り、いたるところに飛び散っている。窓ガラスはいくつも割れ、机や椅子は原型を留めていないものもいくつかある。
間違ってもパーティは再開できそうにない。それどころか、部屋を元通りに戻せるかどうかも怪しい。
「あれだけ獣人が暴れたんにゃから、しょうがないのニャ」
クロジはあまり気に留めない様子で前足をペロペロと舐めた。
一方で、先ほどまで破壊の限りを尽くしていた元キメラ獣人は、今は体の下半分を俺に凍らされたまま、ぐったりと気を失っている。
「ヒロ、このキメラ獣人……もといキメラ獣人だった人間は、いつまで凍らせとくのニャ?」
「ええっと……そういや俺、解凍のスキルないんだよな。自然解凍を待ってたら凍傷になっちゃうかなぁ。キッチンでお湯を沸かして解かしてみるか……」
俺がうーんと頭を抱えていると、パーティ会場の入り口から数人の人間が入ってきた。
見ると、パーティ用の正装をした男が、数人の冒険者らしき者を引き連れている。
「一体どうなってるんだ……? あの暴れていた獣人は?」
「ああ、あの獣人なら人間に戻って、今そこで凍ってますけど」
俺が指を指すと、正装した男は目を丸くした。
「な、なぜ凍っているのだ? それにエレガンス製薬のイサイはどうした!? パーティどころか、会場もメチャクチャだ! どうしてくれる! いや、私はどうすればいいのだ! 誰に責任を取らせればいいのだ!?」
男は完全にパニックになっているようで、目を白黒させながらわめいている。
男に連れて来られた冒険者の一人が言った。
「とにかく、暴れてたっていう獣人はもう大人しくなったのね? じゃあまずは、その原因を作ったっていうイサイっていう男を探すべきじゃないのかしら。エレガンス製薬の人なんでしょ? 弁償してもらえばいいじゃない」
「そ、それもそうだな……おい、冒険者の君たちで手分けして、イサイを探しだしてくれ」
男がそう指示すると、冒険者たちは建物の奥へと消えていった。
「さて、君たちがこの獣人化させられた男をなんとかしてくれたのか?」
「ええ、そうです。彼女がヒーラーで、解毒スキルでポーションの効果を強制的に解除してくれたんです」
男は珍しいものを見るかのようにリタを見た。
「おお、君はヒーラーだったのか! いやはや、エレガンス製薬が店の数を劇的に増やしたここ数年で、ヒーラーはすっかり少なくなったと思っていたが。病院でもないこんなところに、君のような優秀な人がいてくれて助かったよ。ついでに他の怪我人の手当も……と言いたいところだが、ずいぶんグッタリしているね。怪我人の手当は他の人間に任せることにしよう。ところで、イサイはまだ見つからないのか!?」
男が建物の奥に向かって声をかけると、奥から「いないみたいよ~」とのん気な返事が返ってきた。キッチンの方から、先ほどの冒険者がひょっこりと顔を出した。
「いま手分けして探してるけど、人っ子一人いないわよ。全員逃げたんじゃないの?」
「あいつ! 責任も取らずに逃げたのか!! パーティ会場から避難した人間の中にはいなかったから、てっきりここでトラブル収束に当たってるのかと思いきや!」
男は顔を真っ赤にした。
「ちょっと待ってください。俺、獣人を大人しくさせる前にキッチンに行ったんですが、その時はイサイがいましたよ。それで、全て終わるまでここにいろって言ったんですけど……」
「責任を追及される前に逃げたのだろう。ああ、腹立たしい! 見つけたら、ただじゃおかない!」
男は怒りながらキッチンの方へと歩いて行く。
騒ぎの収束を聞きつけたのか、パーティの参加者たちがパラパラと会場に戻ってきた。その中にジュリアと爺やの姿もある。
「皆さん、ご無事でしたか!!!」
ジュリアはこちらに駆け寄ると、ひざまずいてリタの手を取った。
「皆さん、こんなにもボロボロになって……。私と爺やだけで逃げて申し訳ありませんでした。私がパーティに潜入するように言ったせいで、こんなことになってしまって……ああ、でも皆さんがご無事で良かった。本当に良かった……」
ジュリアはポロポロと涙を流した。
「俺達なら大丈夫。それに、パーティに潜入したおかげでいくつか情報が得られました。まず、今回の元凶になった身体強化ポーションは獣人の血を材料にして作られています。カゲロウの誘拐されたという弟も、もしかしたらポーションづくりに関わっているのかもしれません」
「やはりそうなのか!?」
カゲロウがぐっと前のめりになる。
「って、あれ? カゲロウ、獣人じゃなくなって、また普通の人間の姿に戻ってるじゃん! 何コレどうなってんの!?」
「フン、獣人は非獣人とは違って、常時スキルを発動することができるのだ。普段は身体強化スキルを常時発動して、狼の獣人の姿を維持しているが、スキルを解除すれば非獣人に近い姿になるのだ。とはいっても、骨格が違いすぎるから非獣人に擬態するのは難しいのだがな」
「へ、へぇ~! スキル解除したらそんな美男子になるなんて知らなかったよ」
「美男子だと!? こんな女のような顔が!?」
カゲロウは自分の顔を指さすと、大きく顔をしかめた。
「非獣人はこういった顔立ちを好むのかもしれんが、猛々しい雰囲気が好まれる獣人のコミュニティではバカにされることが多いのだ。だから吾輩はスキル解除したくないのだが、この姿でないと外国の貴族のフリをしてパーティに違法に潜入したことが露見してしまうからな。一旦スキルを解除しとるのだ。それで、やはり身体強化ポーションは獣人の血が使われているのだな?」
俺は一呼吸置いて頷いた。カゲロウの顔が険しくなる。
「そうか。獣人は基本的に全員が身体強化スキルを使える。むしろ、ほぼそのスキルしかないと思っていい。その代わり、非獣人よりも力も強いし、体も大きい。モンスターと戦う上での負担も少ない。エレガンス製薬はその特性に目をつけた訳だな」
「あの、ちょっといいですか」
リタがおずおずと手を挙げる。
「獣人の血でポーションを作るって、それは獣人さんに血を分けてもらうということでしょうか? それとも、無理矢理に血を奪うのでしょうか」
「吾輩の想像でしかないが、おそらく捉えた獣人から無理矢理血を抜き取っているのだろう。ただし、しばらくすれば血は再生するからな。拘束するなりして身体の自由を制限した上で、殺さない程度に血を抜き取っている可能性が高い」
「そうですか……じゃぁ、あのイサイが身体強化ポーションを作ったってことですか?」
「どうなんだ、ヒロ」
皆の視線が一斉に俺に注がれる。
「いや、身体強化ポーションを作ったのは——エレガンス製薬の社長らしい」




