40 パーティ潜入捜査
「俺とリタだけでパーティに潜入するんですか?」
「ええ、爺やの予備の従者服を来て、わたくしの従者のフリをしてパーティに潜入するのです。常時わたくしのそばにいる必要もありませんし、エレガンス製薬についての情報も集めやすいかと思います」
「マジか……確かに無闇に街中で聞き込みをするよりは、効率的に情報を集められそうだけど……」
他のメンバーをちらりと見る。
カゲロウとクロジは不満そうな顔でぶすっと黙っているし、リタは「ごちそう食べたかったなぁ……」とブツブツ独り言を言っている。
こんな雰囲気のままパーティに潜入して、果たして上手くいくだろうか?
カゲロウが不満たっぷりの表情のまま言う。
「フン、まぁいいだろう。吾輩とクロジは別行動で情報を集めるとしよう。ヒロとリタはジュリア殿と共にパーティに行ってくれ。明日の夜、パーティのあと再び合流して、各々が集めた情報を交換することにしよう」
「俺様のことをペット扱いしたことを後悔させてやるのニャ! 俺様の情報収集能力にびびるがいいのニャ!!」
「これで決まりですわね」
ジュリアは胸の前で両手を合わせると、ニッコリと目を細めた。
「では、明日の夕方、ヒロさんとリタさんはわたくしの宿泊しているホテル・ドゴールまでお越しくださいまし。じいやの服をお貸しいたしますわ。そこから馬車でパーティ会場に向かいます。では、ごきげんよう」
ジュリアはそう言うとさっと身を翻し、ホテルがあるであろう方向へと歩いていった。爺やも俺達に綺麗なお辞儀をすると、足早にジュリアを追いかける。
リタはなんとも恨みがましい目でジュリアの後ろ姿を見ている。
「ごちそうの食べられないパーティだなんて……! クリームのないケーキと一緒ですよ。うっうっ」
「リタ、泣くな。お兄さんの行方について、新しい情報が得られるかもしれないんだ。ごちそうは……そうだ、商業ギルドから、ゲルセニウムのアジトを見つけた報酬が支払われるはずだ。うん、報酬が出たらごちそうを食べに行こう。だから元気だせ、な?」
「絶対ですよ……絶対ごちそうを食べに行きますからね……」
◇◆◇
翌日の夕方、俺とリタはジュリアに言われた通り、彼女の宿泊しているホテル・ドゴールの前にいた。
俺達の宿屋は市場に近いごちゃごちゃした通りにあるが、ジュリアのホテルは高級そうなブティックなどが立ち並ぶ一角にある。
ホテル・ドゴールはいかにも豪華な造りという訳ではないが、シンプルながらセンスの良いホテルだ。
俺達がオシャレなエントランスでキョロキョロと辺りを見回していると、奥からジュリアが姿を現した。
「なかなかセンスの良いホテルでしょう?」
「はい! すっごくオシャレで素敵です。なので、私、場違いじゃないでしょうか……」
リタは不安げに自身の服の裾をつかむ。確かに、普段着の俺達はホテルという場所では少し浮いてしまっているようだ。
「問題ありませんわ。わたくしのお部屋に移動して、お着換えなさってください」
ジュリアに促され、彼女が宿泊しているという部屋に向かう。そこはいわゆるスイートルームで、リビングの他にいくつか寝室があるようだ。
貧乏貴族を自称しているが、やはり彼女はこの世界の一般人ではないのだと思い知らされる。
「ほえー! なんと豪華なお部屋! 私こんなお部屋に来るのは初めてです!」
リタは部屋に飾ってある調度品に顔を近づけ、目を輝かせている。
「おいリタ、あんまり近づきすぎるなよ。もしぶつかって壊したりでもしたら……俺達の手持ちの金ではどうにもならん」
「むっ。分かってますよーだ」
俺達が軽口をたたき合っていると、横から爺やが現れた。
「リタ様、ヒロ様、お待ちしておりました。こちらが従者服です」
爺やに渡された黒い従者服に早速腕を通す。布は軽く、しっとりとなめらかだ。なかなか良い生地を使っている。
「服まで貸してもらっちゃって、ありがとうございます」
俺がジュリアに軽く会釈をすると、ジュリアは少し困ったような顔をした。
「服くらいどうってことありませんわ。けれど情報収集のためとはいえ、恩人のあなたがたを従者の扱いでパーティに連れていくのはやはり失礼だったのではないか、と昨日から延々と考えているのです」
「失礼だなんて、そんな。大体俺達は一般人ですし、パーティに呼んでもらうための肩書だってないんだから。エレガンス製薬の人間も来るっていうパーティに潜入できるだけありがたいです。一つだけ言うとしたら……カゲロウとクロジを連れていけないのが残念というか」
ふたりの不満たっぷりの顔が目に浮かぶ。
「おふたりには申し訳なかったですわ」
「いえ、あのふたりに申し訳なさを感じる必要はないんです。確かに、あの1人と1匹は人間の中では目立ちますから。ただ俺が心配しているのは、もし物騒な展開になった場合に戦闘要員がいないということで……」
「物騒な展開、なんて事態にはなりませんわ」
ジュリアはふふふと笑った。
「あくまで、地方貴族とザカリオの有力者たちの交流パーティですのよ。商談なども多いでしょうね。でも、ヒロさんが心配するような展開にはならないと思います。そこはゆったりとしたお気持ちでいらっしゃってくださいな」
「だといいんですが……」
この世界に来てからというもの、どうも戦闘続きなので気が抜けないのだ。
ジュリアの言うとおり、ゆったりとした気持ちでパーティに臨みたいものの、どうしても不安がつきまとう。
いつだって、トラブルは予期せぬタイミングでやってくる。
「ヒロさんは考えすぎですよぉ。私達が考えるべきなのは、どうやって人の目を盗んでごちそうを食べるかですよ」
リタが声をひそめて言った。
「リタ様、聞こえておりますぞ! こっそりでもつまみ食いは厳禁! さて、お二方。お着換えが済み次第、パーティ会場に出発します。もうホテルの下に馬車を待機させておりますからな」
◇◆◇
ホテル・ドゴールからパーティ会場までは、馬車で20分ほどだった。会場は森に囲まれた大きな洋館で、ザカリオの中心部から少し離れた郊外にあるようだ。
ジュリアに続いて馬車を降りると、洋館の入り口で、品のよさそうな男がこちらに向かっておじぎをしている。
「ジュリア・ド・シモン様でいらっしゃいますね」
「ええ。父の代理で参りました」
「お待ちしておりました。では、こちらに」
案内係の男に連れられて中に入ると、吹き抜けの広い玄関に出迎えられた。
「ほえーすごい。私、こんなお屋敷初めてです」
リタが間抜けな声を出すので、思わず諫めた。
「こら、リタ。今日俺達はジュリアさんの従者としてここに来てるんだ。そんな「ほえー」とか言ってちゃダメなんだ。気を引き締めて、表情も引き締める!」
「こ、こうですか」
リタは眉をひそめて、本人的に引き締まっているであろう表情を作った。微妙に鼻の穴が膨らんでいるので、俺は思わず吹き出しそうになる。
「ぶっ……ぐふっ……うん、それでいいと思う」
「ヒロさん、どうして笑うんですか」
「いや問題ないさ。さぁ行こう。情報収集開始だ!」




