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37 冷凍保存

「んんん? 【冷凍保存】って、新しいスキルか? こんなもの、昨日ステータスを確認したときにはなかったはずだ。いつの間に?」


「ヒロ、どうしたのニャ?」


 クロジが俺の顔を覗き込んだ。本人以外にはステータスウインドウは見えないのだ。クロジも俺が何故首をひねっているのか分からないのだろう。


「どうやら、新しいスキルが追加されているみたいなんだが、どうしてスキルが追加されてるか分からないんだ。新たに倒したモンスターを食べた訳でもないし……いや、食べたと言えば……」


 メウ横丁に到着した直後、リタが俺の口にアイスのようなものを突っ込んだことを思い出した。


「もしかして、あの時食べたものでスキルを獲得したのか? いや、今はそんなことをじっくり考えている暇はないな。それよりも、冷凍保存スキルか。うん、使えるかもしれない!」


「先ほどから、お前らは何をコソコソ話し合ってるのだ! いつどこからソワルセルパンが襲ってくるかも分からないのだぞ! もっと緊張感を持たんか」


「ごめんごめん、スキルを確認してたんだ。俺、新しいスキルを獲得してたみたいでさ! このスキルとカゲロウの力を合わせれば、なんとかソワルセルパンを倒せるかもしれない。それにはクロジの協力も必要で……」


「何をごちゃごちゃ言っているのだ! とっとと説明しろ!」


 カゲロウにせっつかれながら、俺は新しい作戦をふたりに伝えた。

 作戦を聞いたカゲロウは「ほう」と目を見開く。


 その時、メウ横丁に残っていた、残りすべての明かりが消えた。目の前が急に暗黒の世界へと変わる。


「なんで急に真っ暗になるんだよ! くそ、ソワルセルパンの仕業か!」


 暗闇の中で俺の情けない声が響く。


「例え暗くても、作戦の内容は変わらんだろう! 多少暗くても支障はない。獣人の目を舐めるな!」


「俺様もちゃんと見えてるのニャ。焦ってるのはヒロだけなのニャ。これだから人間は。ハァ」


 クロジがあからさまな溜息をつく。


「案ずるな。ヒロの分も、吾輩が五感を研ぎ澄ませて感知してやる。いいか、ソワルセルパンが接近してきた時がチャンスだ。決して気を抜くな……来たぞ! クロジの目の前の方向だ!」


「カゲロウに言われなくても、ちゃんと分かってるのニャ!」


 シャー!!!!


 クロジが威嚇スキルを発動したと同時に、メウ横丁に明かりがひとつ灯った。壁に添えてある松明だ。


 ひとつ、ふたつ、みっつと明かりが増えていく、僅か三つの明かりだが、先ほどまでの暗闇と比べればだいぶ視界が明瞭だ。

 見ると、ハオランの結界の中からジュリアの爺やが手を振っている。


「私のスキルで松明に火をつけました! 熟練のファイヤーボールですぞ!」


 俺は爺やに向かって大きく頷いた。


 改めて目の前を見ると、ソワルセルパンと俺達の間は2メートルも開いていない。クロジの威嚇によって、その2メートル足らずの空間がビリビリと震える。

 俺がスキルを発動するなら、今しかない!


「くらえ、新スキルだ! 【冷凍保存】!!」


 俺はソワルセルパンに右手を掲げた。右手のひらが焼けるように痛い。


 いや、これは焼けているのではない。あまりにも冷えすぎて痛いのだ!


 俺の右手から発せられた凍てつく空気が、みるみる間にソワルセルパンを包む。これで奴の動きをすぐに封じられるかと思いきや、意外としぶといようだ。


 ソワルセルパンは体をよじりながら叫び声をあげている。


 グウウウウウウガァァァァァ!!!!!


「大人しく冷凍されとけ! うおおおおおおおおお!!」


 俺はありったけの力を右手にこめた。右手のひらは痛みを通り越し、だんだんと感覚がなくなってきた。

 ソワルセルパンの体が薄い氷で覆われていく。


「まだまだァァァ!!」


 手のひらだけでなく、次第に手の甲、手首、と順番に感覚が無くなっていく。

 どこまで耐えられるか。


 パキ、パキ……


 ソワルセルパンを覆う氷がだんだんと厚くなっていく。もう少し、もう少しだ。奴の体を完全に凍らせることができれば……


 パキンッ


 最後の音が鳴り響くと同時に、目の前の大蛇は全身氷漬けになった。


「カゲロウ、今だ!」


 俺の掛け声とともに、カゲロウは地面を蹴って高く跳びあがる。


  カゲロウが剣を振り下ろすと、バキバキ! という轟音と共にソワルセルパンの体が四方八方に砕け散った。凍った体はこんなにもあっけなく粉々になるのか。


 俺達を追い詰めていた大蛇は、もはや見る影もない。


「やったのニャ!」


 クロジがぴょんと跳びはね、カゲロウは満足そうに頷く。

 やっと倒した……!


「今回も……死ぬかと思った……」


 俺がへなへなとその場に座り込むと、向こうからリタが走ってきた。


「ヒロさん、手が真っ赤です! 早く治療しないと! ヒール!」


 リタは俺に駆け寄るやいなや、ヒールを唱えた。


 ソワルセルパンを倒すことに精一杯で気づかなかったが、俺の右手は見事に赤黒く変色していた。重度のしもやけだろうか。


 今回は冷凍保存のスキルに助けられたが、ここまで体にダメージが残るのであれば今後多用はできないだろう。


「ありがとうリタ……助かるよ……」


「いえいえ、これくらいしかできませんから。それにしても酷い状態です。しばらくヒールをかけ続けないと……」


 リタが手をかざしている辺りから、全身にぽかぽかと心地よい波動が流れる。このまま寝てしまいたいくらい心地よい。


「いやはや、たった2人と1匹でソワルセルパンを討伐するトハ、アナタたちはなかなかの実力者の集まりだったんですネェ」


 ハオランは胸の前で両手を合わせ、嬉しそうに言う。


「ハオラン、貴様! 手伝うと言っておきながら、一人安全圏に引っ込みおって!」


 カゲロウは歯を剥き出しにして文句を言ったが、ハオランはどこ吹く風だ。


「一人じゃないですヨ。お嬢さん方とお爺さんも保護してましたシ。だいたい私は戦闘員じゃないですシ。あんな規格外のモンスターを相手にしてたら、命がいくつあっても足りませんヨ! それにしても……」


 ハオランはメウ横丁をぐるりと見渡した。


「ソワルセルパンは、メウ横丁を見るも無残な状態にしてしまいましたネ。これじゃぁ復興に数か月かかるカモ」


「本当ですわね。まるで夜市のようで、活気があって美しかったのに……残念ですわ。ほら、あのあたりなんて壁まで壊されていますわ。屋台の方が使っていた倉庫でしょうか? 部屋から物が溢れ出てしまっていますわ」


 ジュリアが指さす方を見ると、なるほど壁の奥の部屋まで破壊されている。


「メウ横丁に倉庫? そんなもの聞いたことありませんケド?」


 ハオランが首を捻ると、リタがハッとした様子でその部屋のほうへ駆け寄って行った。


「ああ、リタ! 待って! 俺の右手の治療がまだ終わってないんだが……」


「そんなことより、これ見てください! この倉庫にあるのは魔石です、大量の魔石! こっちにも、あっちにもあります。ここ、商業ギルドのサンドラさんが言ってた隠し部屋ってやつじゃないでしょうか?」


 カゲロウもその部屋へ急いで駆け寄っていく。


「大量の魔石に、この花のマーク。間違いない。ここは吾輩達が探していた……ゲルセミウムのアジトだ」


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