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28 ギルドからの依頼

「あ、あ、兄を知っているんですか!?」


 リタは大きく前のめりになった。


「知ってるもなにも、ギルドに内部告発をしたのはアルバンだったのよぉ。でも、告発後すぐに彼は姿を消してしまったの。詳しい話を聞けなかったから調査に時間がかかってしまって、このタイミングになってしまったのよぉ」


「少しいいか?」


 カゲロウが怪訝な顔で言う。


「どうして運送会社の内部告発にギルドが関わってくるのだ? 社員が会社の資産を横領していたところで、商業ギルドにそれを罰する権限もないだろう」


「それはねぇ。うーん、ここだけの話よ。あの倉庫から横流しされていたと思われる魔石が、反社会的組織に流されていた可能性が高いからよ。それでギルドを挙げて大々的に調査することになったの。あなたたち、ゲルセミウムってご存じかしら」


「ゲルセミウムだと!?」


 声を荒げたカゲロウの口から、大きな牙がにゅっと覗く。

 まさかその名前が出てくるとは思わず、俺は大きく息を飲んだ。


 カゲロウの弟を誘拐したと思しき組織の名がここで出てくるとは思わなかった。


「ああ知っている。吾輩の弟はゲルセミウムに誘拐された可能性が高いのだ。それで情報を集めるため、アーニマ大陸からはるばるザカリオまで来たのだ」


「兄は、内部告発をしたせいでゲルセミウムに捕まったんでしょうか?」


 リタは今にも泣きそうだ。手が細かく震えている。


「アルバンがゲルセミウムに捕まったかどうかは分からないわぁ。もしここの会社がゲルセミウムとズブズブだったら、内部告発なんかしたアルバンは会社に居づらいでしょうし。それで会社を辞めて、報復を恐れてしばらく身を隠しているだけかもしれないじゃない」


 現時点ではリタの兄がどうして姿を消したのか、はっきりした事情は分からないということか。


「でも、アルバンがここの運送会社の社員の中にゲルセミウムと繋がっている者がいると知っていたのは事実よ。いち社員が関わっていただけなのか、会社全体が関わっていたのかはこれから調査するけどねぇ」


「兄は姿を消す前、何か言っていませんでしたか? 些細な事でもいいんです。何か手がかりが欲しい。たった一人の肉親なんです」


「そうねぇ……」


 サンドラは唇に長い指をあてて、しばらく考えこんだ。


「アタシが言ったって内緒よぉ。アルバンは運送会社の中にゲルセミウムと繋がりのある者がいたこととは別に、もう一つ情報を掴んでたの。横流しされた魔石の受け渡し場所よ」


「受け渡し場所……ですか?」


「そう。そこも併せて調査してほしいってギルドに依頼があったの。アルバンは正義感の強い人でね。不正も反社会的組織も許せなかったみたい。でもアルバンに調査を依頼された場所は、私たち商業ギルドの人間が簡単に出入りできる場所じゃなくってぇ」


「それは一体どこなんですか?」


 リタはどんどん前のめりになり、サンドラの顔に今にもひっつきそうなほど近づいている。


「近い! アルバンの妹ちゃん、顔が近すぎるわ! ちょっと離れてちょうだい。そう、そう。それでいいわ。アルバンが言っていた魔石の受け渡し場所は……ダンジョンの中よ」


「ダンジョンって、この街にあるっていうやつですか?」


 俺が問うと、サンドラは気怠い雰囲気のまま笑みを浮かべて言った。


「そういう事みたい。でも、あそこは冒険者じゃないと危険すぎて入れないし、冒険者ギルドのほうに調査協力を依頼しても、人出不足を理由に断られちゃってぇ……ねぇ、アナタたち、もしよかったら商業ギルドからの依頼を受けない? 3人と一匹でポイズンビーの大群を駆除できるんだから、ダンジョンくらい容易いもんでしょぉ」


「商業ギルドからの依頼……ですか?」


「そう。この街のダンジョン内で、ゲルセミウムとの魔石の受け渡しに使用された場所を突き止めるの。商業ギルドは調査を勧められるし、アナタたちはアルバンの行方の手がかりを追える。一石二鳥じゃなぁい?」


「ちゃんと報酬は出るのだろうな」


 カゲロウがサンドラをジロリと睨む。


「勿論よぉ! ダンジョン内の地図もつけてあげるわぁ! 買うと高いのよぉ。でもね、アルバンが言ってた場所は、地図に書いてあるところにはないの。ダンジョン内にはまだ見つかっていない部屋がいくつかあるみたいなんだけど、そのうちのどこかだと思うわぁ。じゃぁ、正式な手続きのために後で商業ギルドによってちょうだい。アタシは仕事がたんまり残ってるから先に帰るわぁ」


 サンドラは言い終えると、手をヒラヒラと振りながら街の中心地へと消えていった。


「な、なぁ、本当にダンジョンに潜るのか?」


 そう聞いた俺の顔はきっと引きつっていただろう。

 この世界に来る前に漫画で読んだ知識しかないが、ダンジョンといえば逃げ場がなくて、モンスターがうようよいるようなところじゃないのか?

 

 いくらカゲロウと一緒とはいえ、攻撃スキルもろくにない俺が行くなんて、自殺行為としか思えないんですけど!

 カゲロウは小さな溜息をついた。


「ふぅ。今の話の流れだとそうなるだろうな。リタの兄を探すにしても、吾輩の弟に関する手がかりのためにゲルセミウムを追うにしても、先ほどサンドラが言ってた提案を飲んでダンジョンに行くのが一番効率がいいだろう。モンスターとの戦闘続きだが仕方ない。なんだ、疲れたのか? それとも怖気づいたのか」


「そうだよ、怖いんだよ! 俺は冒険者じゃないし、モンスターと遭遇したら毎回死にそうになってる。これ以上、戦いには巻き込まれたくないんだよ……」


 言っているうちになんだか泣きそうになって、最後の方は声が詰まってしまった。


「ヒロ、お前はダンジョンに潜ったことはあるのか?」


「ないけど」


 この世界に来てまだ数日の俺が、ダンジョンの経験などある訳がない。


「それなら一度行ってみるといい。確かにモンスターはうようよいるが、それは吾輩が先頭に立って駆除してやろう。それに、ザカリオのダンジョンの中にはメウ横丁と呼ばれる一角があってな。飲食店や雑貨屋が軒を連ねる、冒険者だけが出入りできる小さな通りがあるのだ。お前も料理人なら一度は見ておくといい」


「そうですよ、ヒロさん! 観光だと思って一緒に行きましょうよ!」


 リタは俺の腕を取り、ぶんぶんと振っている。

 そうやって明るく誘われても、どうしても行く気にはなれない。やはり怖いのだ。皆には断って、俺だけダンジョンの外で待たせてもらおうか。


 俺が悶々としていると、カゲロウが言った。


「それから、これは確実ではないのだが、この街のダンジョンにも獣人の祠伝説に近い話があるのだ」


「祠伝説って、獣人族の祖先が日本から転移してきた時にあった、海の祠ってやつか!?」


「そうだ。ザカリオのダンジョン、通称メウの階段は最奥部が海に繋がっているのだそうだ。そこに祠のようなものがあるらしい、と仲間の獣人から聞いたことがある。ただ、吾輩もそれを教えてくれた仲間も実物を見た訳ではないのだ。保証はできん。しかし、ヒロも日本に帰る手がかりは欲しいのではないか?」


「手がかりは……欲しい。喉から手が出るほど欲しいよ。ああ、でももうモンスターに遭いたくないんだよなぁ」


「何を情けにゃいことを言ってるのニャ! ヒロが探さなくては、誰が祠を探すのニャ! 俺様は非力で可愛いだけの猫ちゃんだから、お前が頑張るしかないのニャ! ほら、とっとと商業ギルドとやらに行くのニャー!!!」


 クロジの非情な猫パンチをくらい、俺はのろのろと立ち上がった。


「行くしかないんだよな……」


「そうニャ! そのためには、まずは商業ギルドとやらで地図をもらうのニャ! それから用意を済ませて、明日の朝にはダンジョンへレッツゴーなのニャ!」


 クロジはお気楽でいいよな、と言おうとしたが、やめておいた。

 この猫がお気楽とは限らない。もしかしたら猫なりに、日本へ帰りたいと強く願っているのかもしれない。


 俺はパンパンと両手で頬を叩き、気合を入れた。

 まずは商業ギルドに向かうとするか!


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