26 ポイズンビーの巣
「巣を探すって言ったって、どうやって探すんだよ!」
カゲロウは俺たちに、倉庫内にあるであろうポイズンビーの巣を探せと言う。
しかし倉庫内には荷物入りと思しき箱が所狭しと並べられ、うず高く積まれている。一体どこから探せばいいのだろう。
「箱の中を一個一個開けて探せっていうのかよ!? って……うわ!」
ブウン!!
その時、死角からすさまじい羽音とともに一匹のポイズンビーが飛び出してきた。
避けようとした俺はバランスを崩し、高く積まれた箱の群れに突っ込んでしまう。
ガラガラガラガラ!!!
箱が大きな音を立てながら辺りに散らばった。
「痛てて……」
俺が頭をさすっていると、リタがこちらを指さしながら、ワナワナと口を震わせている。
後ろを振り返り、リタの指先が示すほうに視線を上げると、そこには信じられないほど大きな蜂の巣があるではないか!
「なんて大きさニャ!!!」
クロジもリタの横で目を白黒させている。無理はない。ポイズンビーの巣と思わしき蜂の巣は、車一台分ほどの大きさがあったのだ。
「なんだよ、これ!? デカすぎだろ!!!」
あまりの大きさと不気味さに、完全に腰が抜けてしまった。早く逃げなければとは思うが、足が震えて立つことができない。この巣の中に虫型モンスターがいっぱい詰まっていると考えると、恐怖で失禁しそうなくらいだ。
何度でも言うが、俺は虫が大の苦手だ!
「ヒロ、もう巣を見つけたとはお手柄だな! おい、一度撤退するぞ! お前ら全員入り口の方まで戻れ!」
「カゲロウ、ちょっと待って! 腰がぬけちゃって立てない! 助けて!」
俺が半泣きで懇願すると、カゲロウがまた「貧弱者めが!」というセリフを吐きながら俺を肩にかついだ。
カゲロウは片手で俺をかつぎ、空いてるほうの手で剣を振り回してポイズンビーをなぎ払い、なんとか入り口までたどり着いた。
中に誰も残っていないことを確認し、リタとカゲロウが倉庫の扉をガチャンと閉める。
「死ぬかと思ったァ……。で、これどうするの? 中にまだいっぱいポイズンビーがいるけど」
「冒険者を呼んで、巣の近くを中心に虫型モンスターを駆除する薬を撒くしかないだろう。あとは倉庫を管理している連中の仕事だな。俺たちは中にいる男を助けた。これで十分だろう……おや?」
カゲロウは倉庫の扉を見つめると、再び腰の剣に手をかけた。
「まずいな、溶けている」
「溶けてるって、何が!?」
「倉庫の扉から煙が出ているのは分かるか?」
見ると、扉からうっすらと白い煙が上がっている。
「まさか、ポイズンビーの毒で扉が溶かされてるんですか!?」
リタが両手で口元を覆った。
「このまま放っておいたら、扉の溶けた部分からポイズンビーが出てくるんじゃないかニャ? 大変ニャ! 早く塞がないとニャ!」
「塞いだところで、いたちごっこだ。もうここで駆除するしかない」
カゲロウは覚悟を決めたように剣を構える。
「駆除するったって、冒険者はカゲロウしかいないんだぜ!? 中にはポイズンビーの大群がいるんだ。俺達だけではどうしようもないよ!」
カゲロウは剣を構えたまま、扉から目を離さずに言った。
「おい、倉庫の中で働いていたお前! とっとと応援を呼んで来い! それからギルドに報告して、冒険者をこっちに寄越してもらうんだ! 早くしろ!」
「ひっ、ひぃぃぃぃぃ!!!」
男はカゲロウに捲し立てられると、情けない声をあげながらどこかへ走っていった。
「あの人、ちゃんと応援を呼んできてくれるのかな」
「呼びに行ったところで、ポイズンビーがこの扉を破るまでに応援が到着するのは難しいであろう。結局、吾輩達である程度駆除するしかないのだ」
「駆除するしかないって言ったって、クロジはただの猫だし、リタはヒーラーだから攻撃できないし、料理人の俺も虫を攻撃するスキルなんてないよ! カゲロウ一人でできるの!?」
「チッ」
カゲロウは舌打ちすると、眉間に深く皺を寄せた。そうしている間にも、扉はどんどん溶かされ、穴が大きくなっている。穴からは、ポイズンビーの尻から伸びる鋭い針が見え隠れしている。
「ヒロさんのスキルは人間には発動しませんが、食材になるモンスターには発動するんじゃないですか?」
「多分そうだけど、蜂は食べれな……いや、本当に食べられないのか?」
「ポイズンビーは一珍味として売られています! ということは、食材です! ヒロさんのスキルは発動するはずです。戦ってください!」
「そういうことなら戦え! もう扉がやぶられる! 構えろ!」
カゲロウがそう叫ぶと同時に、溶かされた扉の隙間からポイズンビーが勢いよく飛び出してきた。
「ひえええ! こっちに来るな! 【串打ち】!」
俺は右手を構え、ポイズンビーに向かってスキルを発動した。しかし——
「くそ! 動きが速すぎて当たらない!」
扉からは次々とポイズンビーが飛び出して、こちらに襲いかかってくる。
しかし動きが素早すぎて、串打ちスキルでは奴らにダメージを与えることができない。そもそも当たらないのだ。
「こうなったら、【食材確保】!」
スキルを唱えると、俺の掌から勢いよく網が飛び出した。
網はポイズンビーを二匹まとめて絡めとると、そのまま地面に落ちた。網の中ではポイズンビーたちが窮屈そうにうごめいている。
「やった! でもコイツら一体何匹いるんだよ!?」
「数十匹か数百匹というところか……」
「数百ぅぅぅぅ!?」
「詳しい数は吾輩にも分からん! 無駄口を叩く暇があったら、一匹でも倒すのだ!」
カゲロウに叱咤されながらスキルを放つうちに、数匹は捕まえることができた。しかしポイズンビーは次から次へと現れる。これでは、いたちごっこだ。
その時、少し離れた場所から悲鳴が聞こえてきた。
「きゃあぁぁぁぁ!!!」
「こっちに来るニャぁ!!!!」
悲鳴が上がった方を見ると、リタとクロジが一匹のポイズンビーに襲われていた。
リタはその辺に落ちていた木の棒を振り回し応戦しているが、あれでは動きの素早いポイズンビーを倒すことはできないだろう。クロジも負けじと歯を剥き出しにしてシャーシャーと威嚇しているが、ポイズンビーが怯む様子はない。
「ヒロ! カゲロウ! どっちでもいいから俺様たちを助けるのニャー!」
「今行く! よおし、くらえ! 【食材確保】!」
俺はポイズンビー目がけて右手を掲げた。しかし俺の手のひらから飛び出した網は空を掴み、むなしく地面へと落ちていった。
どうやらリタとクロジを襲っている個体は特に動きが素早いらしい。
「くそ、こうなったらヤケクソだ! 【串うち】! 【食材確保】! 【毒袋除去】!」
「全然当たってないのニャ! 他になんかないのかニャ!?」
「俺だって一生懸命やってるんだよ! ええいヤケクソだ! 炭を投げてやる! 【炭起こし】……って、熱っつ!!!」
俺はスキルで取り出した炭を投げようとしたが、ものすごい熱さで上手く投げることができない。炭は煙をまき散らしながら、パラパラとリタたちの足元に散らばった。
「やっぱり攻撃スキルじゃない俺のスキルじゃ、限界がある。もう無理だァ……って、あれ?」
「なんかこのポイズンビー、動きが鈍くなってないかニャ?」
「今がチャンスですね! えいやぁぁぁぁ!!!」
リタはそう言うと、持っていた木の棒を大きく振りかざした。
ドゴッ。
木の棒がポイズンビーの頭部にヒットすると、鈍い音とともに奴は地面へと落ちていった。
「見ましたか? 私だってやればできるんですよ」
リタは得意げに胸を張っている。
「確かに見たよ。でも、どうして急に奴の動きは鈍くなったんだろう?」
「ゲホッ、ゲホッ。もしかして、この煙かニャ?」
クロジが前足で指した地面には、先ほど俺が放った炭が無数に散らばって、もうもうと煙を吐いている。
「もしかしたら、この煙でポイズンビーの動きを封じられるかもしれないのニャ。ヒロ、すぐにカゲロウを呼んでくるのニャ!」




