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25 倉庫街でうごめく蜂

「起きるのニャー!!!」


「ぐえっ!!!!」


 窓から差し込む朝日の温かさを感じながらベッドでまどろんでいると、急に腹の上に黒猫がダイブしてきた。胃がありえない深さまで押し込まれる。


「クロジ! 普通に起こしてくれないか!」


「これが俺様にとっての普通ニャ。猫ちゃんに起こしてもらえる有難みが分からないにゃんて、愚かな人間ニャ。ところで、今日はリタの兄の会社に行くんじゃなかったかニャ?」


 すっかり忘れていた!

 俺はベッドから飛び起きると、10秒ほどで着替えを済ませて部屋から飛び出した。

 一階にある宿屋の食堂に行くと、リタとカゲロウは既に朝食を済ませていた。


「朝ごはんを食べ終わってないのはヒロさんだけですよ! ホラ、早くしてください!」


 リタはそう言って俺の口に堅いパンをつっこむと、せかせかと出口の方へ向かう。


 宿屋から出ると、既にメラニーが待ち構えていた。目が腫れぼったいのは、昨日俺達と別れた後もアルバンを想って泣いていたからかもしれない。


「おはよう。アルバンの会社はこっちよ」


 メラニーについてザカリオのメインストリートを歩いていく。

 朝早いにも関わらず、もう多くの人が道を行きかっている。


「うわぁ、さすが大都会だな。歩いてる人の数が今までの町とは段違いだ」


 俺が街の賑やかさに感心していると、カゲロウが色々と教えてくれた。彼はこの街に来るのは初めてらしいが、予備知識はいくらかあるらしい。


「交易の中心地でもあり、街の中心にはダンジョンもある。買い物客から冒険者まで、様々な人間がこの街を利用するのだ。これだけ賑わっているのも納得できる」


 ダンジョンもあるのか! さすが異世界だ。

 もしかしてお宝もあるのだろうか? 危険な中でお宝を探したくはないが、見るだけならちょっと見てみたい。思わず胸が高鳴ってしまう。


「カゲロウはこの後、ダンジョンに行くのか?」


「うむ、そのつもりだ。しかし今はリタの兄を探すのが先決だろう。勘違いするな、親切心でリタの兄探しを手伝うんじゃない。ちょっと気になる点があってな……」


「気になる点って?」


 カゲロウはリタの方にちらりと視線を向けたあと、声を潜めた。


「吾輩の思い過ごしであって欲しいのだが、昨日、リタの兄は運び屋のスキルと『隠匿』のスキルも持っていると言っていただろう? そのスキルは、犯罪者集団にとって使い勝手の良いスキルだと思わないか?」


「言われてみれば……! もしかして、ゲルセミウムが関わっているのか? まさか、リタのお兄さんはゲルセミウムの一味……?」


「大声を出すな。そうと決まった訳じゃない。むしろ連絡が取れなくなった時点で、ゲルセミウムの一味であるというよりも、奴らに拉致された可能性の方が高い。でも、あくまでそういった可能性もあるというだけだ。鵜呑みにするな。借金で首が回らなくなって夜逃げした可能性だってあるだろう」


 確かに、大した情報もない現段階で、リタの兄の失踪をゲルセミウム絡みと決めつけるのは早いだろう。

 しかし、カゲロウはこの街にもゲルセミウムのアジトの一つがあると言っていた。可能性は否定できない。


 俺とカゲロウが小声で話しあっていると、いつの間にか大きな建物の前に到着していた。その建物を囲むようにして、背の高い倉庫がずらりと並んでいる。

 メラニーが建物を指さして言う。


「着いたわ。ここがアルバンの働いていた運送会社よ」


「大きい会社……。ここで兄さんが……」


 リタは奥の方まで続く倉庫の群れを見ると、泣きそうな顔で言った。


「メラニーさん、案内してくれてありがとうございました」


「いいのよ。私も何回かここを訪れて、アルバンの行方について尋ねたわ。でも、ある日無断欠勤して以降、誰も連絡が取れないっていうの。本当に、彼、どこに行っちゃったのかしらね」


 メラニーは大きくため息をついた。


「兄に関する情報なら何でもいいんです。私は今からここで聞き込みをしてみます。何かわかったら、メラニーさんのところに報告しますから」


「聞き込み、がんばってね。私は夜になったら、だいたい昨日の酒場にいるわ。また何か分かったら教えてちょうだい。じゃぁね」


 メラニーはそう言い残すと、メインストリートの方へと戻っていった。

 俺達と一緒に会社で聞き込みをしないのは、そうしたところで新たな情報は出てこないと諦めているからだろう。


「よし! じゃぁ気合を入れて、聞き込み開始です!!」


 リタは自分で自分の頬をパンパンと叩くと、明るい笑顔で言った。


「と言っても、すごく大きな倉庫だからなぁ。どこから見て回るべきか……。先に社屋で聞き込みをする方がいいのかな」


 俺たちがどこから行くべきか迷っていると、突如男性の悲鳴が聞こえてきた。その声は、奥にある小さな倉庫から聞こえてきているようだ。


「助けてッ! 助けてくれー!!!!」


 俺達は顔を見合わせると、そちらの方へと走って急ぐ。

 悲鳴が聞こえてきた倉庫に近づくにつれ、ブンブンという音が聞こえてくる。


「なんの音ニャ?」


「聞き覚えのある音だな……羽音か?」


 カゲロウは剣の鞘に手をかけると、走るスピードを更に早めた。


「カゲロウ、待って~。そんなに早く走れないって~」


「ハァ、ハァ、待ってくださいよぉ~」


 俺とリタが情けない声を出すと、カゲロウから「貧弱者めが!」と喝が飛んだ。


「急げ! 吾輩の予感が当たっていたら、かなりマズいぞ。吾輩が先頭を切るが、お前達も手伝え!」


「手伝うって、何を……」


 カゲロウの意図が分からないまま倉庫に飛び込むと、そこには大きな虫が大群で飛び交っていた。


 大きさは1メートルほどで、尻には鋭い針がついている。ブンブンという音はコイツらの羽音だったようだ。

 俺の顔から血の気が引いていく。


「なんだよコイツらは! は、蜂か!?」


「気を付けて、ポイズンビーの群れです! 攻撃性と毒性の高いモンスターで、とにかくすばしっこいやつです!」


「おおおお俺は虫が嫌いなんだよぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 思わず口から悲鳴が漏れる。何を隠そう、俺は大の虫嫌いだ。脚が多いのがどうしても許せない。かっこいいとも思えないし、可愛いとも思えない。とにかく生理的に無理なのだ。


 その時、倉庫の奥から男性が助けを求める声が聞こえてきた。


「た、た、助けてくれー!」


 見ると、ポイズンビーが男性を壁際へと追いやり、今にも刺し殺そうとしている。

 しかし助けようにも、俺やリタの位置からだと間に合わない。

 すると、倉庫に積まれた箱の影からカゲロウが飛び出した。


 ザシュ!


 カゲロウがポイズンビーに飛び掛かった次の瞬間、ポイズンビーの胴体は真っ二つに分かれた。ポイズンビーの体がボタボタとその場に落ちる。


「ケガはないか?」


 カゲロウが男性の方に振り向くと、その男性は礼も言わず、ワナワナと口を震わせながら尻もちをついた。


「じゅ、獣人!? なんでこんなところに」


「吾輩が獣人かどうかは今関係ないだろう。ケガはないかと聞いておるのだ」


「あ、ああ、怪我はねぇ。でも獣人に礼を言うつもりもねぇ」


「なんだと、失礼な奴め! 吾輩がいなければ、お前は今頃蜂の餌だぞ!」


 カゲロウは男性の喉元に剣を向ける。


「ひぃぃぃぃ!」


「カゲロウ、やめるんだ! 今はそれどころじゃない! この蜂の群れをどうにかしなくっちゃ……」


 俺はそう言いながら、先ほどカゲロウが切り捨てたポイズンビーのほうをちらりと見た。おそらく死んでいるだろうが、まだ手足がピクピクと動いている。ああ、気持ち悪い!


「おい、お前。ここの倉庫にはいつからポイズンビーがいるのだ!?」


 カゲロウは男性に剣を向けたまま尋ねた。


「知らねぇよ! さっきここで仕事しようと倉庫に入ったら、いきなり襲われたんだ! 先日はなんともなかったのに!」


「ということは、数日のうちに卵から孵化したのか。ヒロ、リタ、クロジ! この倉庫の中のどこかにポイズンビーの巣があるはずだ! それをとっとと探すのだ!」



ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

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