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23 獣人差別

「うみゃい、うみゃい」 


 丘を降りて広場に戻ると、クロジがパンを美味しそうにかじっていた。


「あ! クロジ、そのパン何個目ですか!? 自分ばっかり食べたらずるいですよー!」


「まだ二個目ニャ! 俺様のぶんを取ったら許さないニャー! シャー!」


 クロジもかなり食い意地が張っているようで、リタとパンをめぐっての激しめの争いが始まる。


「おい、喧嘩するんじゃない。まだパンはある」


 カゲロウは呆れている。


「お前らはいつもこんなに騒がしいのか」


「食事が絡むと毎回にぎやかになるね」


「ふふ、にぎやかなのも悪くない。こちらの大陸に来てからはずっと一人で行動しておったからな。早く弟を探して帰りたいものだ」


 カゲロウは寂し気に目を伏せた。


「そういえば、カゲロウはこのあとどうするの?」


「吾輩もザカリオに向かう。ゲルセミウムの奴らを締め上げたときに、ザカリオにもアジトがあると聞き出せたのだ。詳しい場所までは奴らも知らぬようだったが……何か弟に関する手がかりがあるかもしれん」


「じゃぁザカリオまで一緒に行こうよ! 俺達、乗り合い馬車に乗って行く予定なんだ。今その馬車は町の反対側のところに停車してるんだけど、カゲロウも乗れるか聞いてくるよ」


「いや、吾輩は……」


 カゲロウが何か言いたそうにしていたが、俺は彼の返事も聞かずに、馬車が停車しているところまで一気に走っていった。


 カゲロウのように強い冒険者が同行してくれれば、先ほどのように盗賊に襲われたり、モンスターに出くわしても易々と倒してくれるだろう。うん、その方が他の乗客にとってもいいはずだ。


 馬車のところまで戻ると、俺達以外の乗客は皆そろっていた。

 御者のおじさんが言う。


「おお、戻ってきたか。そろそろ出発できそうだ。ザカリオに着くころにはすっかり夜になっちまうが、皆急いでいるし、仕方ない。さぁ乗ってくれ」


「あの、ここから一人乗客が増えても構わないでしょうか?」


 カゲロウのことだ。


「ワシとしては金さえ払ってくれれば構わないが……いや、待ってくれ。もしかして、増える乗客ってあいつのことかい?」


 振り向くと、リタとカゲロウとクロジが馬車乗り場に着いていた。

 それに気づいたおじさんは、思い切り眉間に皺を寄せた。


「だめだ、だめだ! 獣人なんて、とんでもない! ワシはあんな荒っぽい連中を馬車に乗せるのはごめんだね!」


「彼の人柄も知らないのに、どうしてそんなこと言うんですか!」


 思わず感情的になって言い返した。俺だって、最初はカゲロウのことを荒っぽい奴なのかと思っていた。でも話してみれば悪い奴ではなさそうだし、獣人だから馬車に乗せないだなんてあんまりじゃないか。


 この大陸での獣人差別というのはそこまで露骨なのか。


 御者の態度を見て、カゲロウも気を悪くしたようだ。


「吾輩が思った通りだ。この大陸の獣人差別はろくでもない! 吾輩だって、こんな奴の馬車に乗るのはお断りだ!」


「そんなぁ」


 せっかく強い冒険者に道中の安全を確保してもらえると思ったのに。

 俺ががっかりしていると、乗客のおばさんがこちらに歩み寄ってきた。


「乗せてやりな」


「獣人を乗せるっていうのかい? おいおい正気か?」


 御者が言い返すと、おばさんはフンと鼻を鳴らした。


「獣人の何がいけないんだい。出身の大陸が違うだけで、同じ人間じゃないか。だいたい、御者のアンタがしっかりしてないから、盗賊の一味が馬車に乗り込んでいたり、アタシらが拉致される羽目になったんじゃないか! この獣人の兄さんは、見たところ冒険者だろ。獣人なら力も強いし、また盗賊やモンスターが出ても安全にザカリオまで行ける可能性が高い。どうだい獣人の兄さん、アタシが護衛として雇うから、一緒に馬車に乗ってくれないかい」


 おばさんの迫力に圧倒され、御者は口をパクパクさせている。


「護衛かい、それはいいね。それじゃぁ私も護衛代を出そう。もう盗賊に狙われるのはごめんだからね」


 他の乗客たちも口々にそう言い、御者のおじさんはしぶしぶといった感じだったが、カゲロウは無事に馬車に乗れることになった。


 獣人差別を目の当たりにして複雑な気持ちだが、皆が皆差別的ではないことが分かって、少しほっとする。

 俺達一行を乗せた馬車は、ゆっくりとラズカータの町を後にした。




「おい、ヒロ! いつまで寝てるのニャ! もうすぐ着くのニャー」


「痛ッ!」


 クロジに前足でぺしっと顔を叩かれ、俺は目を覚ました。

 馬車の幌の隙間から見える景色は、とっぷりと日が暮れている。


 結局、ラズカータからザカリオまでの道のりでは、なんと二回もモンスターに遭遇した。

 しかしその度にカゲロウが素早く追い払ってくれたため、俺達乗客は誰もけがをせずに済んだ。


 最初は獣人のカゲロウを乗せることに反対していた御者も、一回目のモンスターを追い払ったあたりからは態度を軟化させ、今では上機嫌にカゲロウに話しかけている。


「獣人の兄さんには大助かりだ! ただ、本来この道はこんなにモンスターが出ないんだがな。なんでだろうなぁ」


 おじさんは首をひねっている。

 何はともあれ、無事にザカリオに着けそうでよかった。


 ザカリオに着くと、そこには高い城壁と大きな門がそびえたっていた。


「こ、こんなにデカいのか!」


 俺はそびえたつ門を見上げ、その大きさに圧倒された。

 横に立つリタも、俺と同じく城壁と門の大きさに圧倒されているようだ。


「これって、通るのに身分証とかいるの?」


「いえ、いりませんよ。この城壁は昔戦争をしていた頃の名残だそうで、今は門番もいないと聞いています」


 それならすんなりと街に入れそうだ。俺はほっと胸を撫でおろす。


 馬車は門をくぐると、ほどなくして停車した。

 俺たちは御者や乗客たちに別れを告げると、夕飯を食べる店を探すために街の中心部へ向かった。


「なぁ、カゲロウも一緒に夕飯食べるよな?」


「ふっ、そうだな。一緒に行くことにしよう」


「それと、宿も探さないといけないなぁ。はぁ、お金も少なくなってきたし、不安だ」


「私はここでカバンも買わないといけません。盗賊に盗まれてからずっと手ぶらですが、このままという訳にもいきませんし。宿にカバンに、出費が多くなりますね」


 リタは小さくため息をついた。彼女も不安なのだ。

 俺の手元にはグレートディアを倒したときにギルドからもらった金があと少し残っているが、それもあと何日もつか分からない。何か収入の目途も立てなければならない。


 俺たちが何度もため息をつきながら街を歩いていると、飲食店らしき看板が目に入ってきた。


「魚の看板があるニャ! ここにするニャー!」


「クロジはお魚が好きですねぇ。3人と1匹で入れるかどうか、聞いてみましょう」


 リタはそう言って店の扉を開いた。

 ところが、店員は俺達の姿——というより、カゲロウの姿を見るなり顔色を変えると、いらっしゃいませと言うこともなくバン! と扉を閉めてしまった。


「何ですかあの態度は!!!!」


 俺達は客として扱われないらしい。再び獣人差別を目の当たりにし、俺とリタは唖然としてしまった。この大陸で獣人と行動を共にするということは、ずっと差別問題がつきまとうのかもしれない。

 店探しはふりだしに戻った。

 

 せっかくザカリオに着いたものの、店にすら入れないなんて。前途多難じゃない!?


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