17 喋る猫
急に喋り出した猫にあっけに取られる俺達をよそに、黒猫は流暢にしゃべり続ける。
「お礼の美味いものは、できたら海鮮モノがいいのニャ。でも、肉でもいいニャ。俺様は好き嫌いはしないから、なんでも食べられるのニャ」
「この辺では猫が喋るのは普通なのか!?」
さすが異世界、と思ったがリタはブンブンと首を振った。
「まさか! 私も喋る猫ちゃんは初めて見ましたよ! もしかして……モンスター!?」
リタがそう言うやいなや、馬車の中の緊張感が一気に高まった。皆が一斉に後ずさる。
せっかく盗賊から逃げられたのに、今度は喋るモンスターだと!?
「失礼ニャ! 俺様は断じてモンスターではないのニャ!」
黒猫は小さい牙をむき出し、シャー! とこちらを威嚇した。
「でも、喋る猫だなんて見たことも聞いたこともありませんよ。新種のモンスターじゃないんですか!?」
「ニャんだとぉ!!!!」
その時、乗客のひとりがスッと立ち上がり、猫の方へと近づいた。
「アタシは簡易鑑定が使えるんだ。この猫を鑑定してやるよ。モンスターかどうか、白黒はっきりさせようじゃないか」
乗客のおばさんはそう言って腕まくりをすると、猫の頭に手をのせた。
「ふむ……ふむ……ああ、なるほど。そういうことね。いやぁ、でもどうして……」
おばさんは一人でブツブツ呟いて、一人で納得している。
傍で見ているだけの俺達には何がなんだか分からない。
「や、やはり、この猫はモンスターなんでしょう!?」
リタは前のめりになっておばさんに問う。
「いやいや、この猫はモンスターじゃない。【異種間言語理解】っていう商業スキルを持った猫みたいだね。通訳士が持つスキルさ。スキルとしても珍しいものだけれど、人間以外の動物でスキルを持っているだなんて聞いたことがないよ」
「スキルを持つのは人間だけなんですか?」
「いや、モンスターはスキルを持っていることがあるんだ。でも鑑定によるとこの猫はモンスターではないみたいだね。スキルも商業スキルだし、害はないんじゃないかねぇ」
おばさんはそう言って、優しい手つきで黒猫をなでた。
黒猫は気持ち良さそうに目を細めている。
ちなみに、普通の動物とモンスターの違いについておばさんに尋ねると、体が大きく禍々しいのがモンスターで、この辺の人は見れば違いが分かるらしい。日本出身の俺に、その辺の違いが上手く判断できるかどうかは分からない。
「ふうん。ところでお前、マイコの町にいたよな? なんで俺達に着いてきたんだ?」
「俺様は『ばす』から落っこちたあと、気づいたらマイコって呼ばれている町の港に流されていたんニャ。ご主人はどこか分からにゃいし、おまけにタコの化け物が暴れてるしで散々だったニャ。そんな時「ばす」に乗っていたお前を見かけたから、とりあえず着いてきたんニャ」
黒猫はまん丸の前足で俺を指した。
「ああ! お前、俺がバスから投げ出される前に掴もうとした、キャリーバッグに入れられてた猫だったのか!?」
「そうニャ。気づくのが遅いニャ。これだから人間は愚かニャ」
「なんて言いざまだ! 助けてやったのに!」
「助けられてにゃいから、お前も俺様もこんな訳の分からにゃい場所まで流されたんだろう!」
黒猫はシャーシャーと怒っている。
「じゃあこの猫ちゃんはヒロさん同様、別の大陸から流されてきたということでしょうか?」
「そうだと思う。同郷の人間に会う前に、同郷の猫に会うとは思わなかったよ。なぁ、お前、赤石までの帰り方って分かるか?」
「可愛いだけの俺様に、そんなことが分かる訳にゃいのニャ」
なぜか得意げな様子でふんぞり返る猫。
「ねぇ、猫ちゃんは何と言う名前なんですか?」
リタが猫に問いかける。
「ご主人は俺様のことをクロジと呼ぶニャ。おい、ヒロとかいう人間。ここからはお前が俺様のお世話係をするのニャ」
「はぁ? 意味が分からないんだけど」
「俺様は猫ちゃん。猫ちゃんは可愛い。人間は猫ちゃんをお世話するべき存在なのニャ。そんな名誉な役職に任命してあげると言ってるのニャ。ありがたく拝命するのニャ!」
「お前、猫のクセに『拝命』みたいに難しい言葉を知ってるのかよ」
「ご主人が博識だったのニャ」
クロジは再び得意げな顔をしている。
「まぁまぁ、旅は道連れといいますし、しばらくこの猫ちゃんも一緒に行動したらいいんじゃないですか」
「リタがそう言うのなら……」
こうして、俺はこの猫の世話係をしぶしぶ了承した。まぁ、見た目は可愛いし、いいか。
その時、ふいに馬車が停車した。
客席と御者席を仕切っている布の間から、御者のおじさんが顔をのぞかせている。
「すまないね、ちょっといいかな。この馬車は本来ザカリオ行きなんだが、さっきの盗賊がこのまま追って来ない保証もない。行き先を一旦ラズカータへ変更しようと思うんだ。そこの駐屯兵に盗賊の報告をして、周囲を見回ってもらってから、再度ザカリオへ出発しようと思う」
「ラズカータって、ここの街道の分かれ道を北に進んだところでしたっけ?」
「そうだ。芸術の町として名高いところだ。そこを経由するから、日中にはザカリオに着かない。しかし安全第一だ。みんな、一旦ラズカータへ向かって構わないかい?」
乗客たちは一様にうなずいた。
俺達も急ぐ旅ではないし、ラズカータにも何か情報があるかもしれない。寄り道もいいだろう。
こうして俺達を乗せた馬車は北へと進路を変え、芸術の町ラズカータへと向かったのだった。
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