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12 さよなら、またどこかで

 クラーケンとの死闘を繰り広げた後、俺達5人はアニーおすすめの酒場へと向かった。マイコの街の中ほどにある、海鮮料理が美味いと評判の店だそうだ。


 店に入ると、ニンニクのような食欲をそそる匂いがふわりと鼻先をくすぐる。

 席に着くと、冒険者の3人はそれぞれ酒を頼み、なんとリタも酒を頼んだ。


「リタは酒を飲んでもいいのか?」


「へ? そりゃあ子供は飲みませんけど、私はもう18歳ですからねっ! 立派な大人なのでお酒くらい飲みますよ」


 この国ではこの年から酒が飲めるらしい。

 そりゃあ元の世界でも外国ではもっと下の年齢から飲酒ができる国もあるくらいだし、そんなものか。


 皆が注文しているエールという酒は、おそらくビールのようなものなのだろう。

 俺も皆と同じものを店員に注文した。

 すると、それを見たアニーが「ヒロも18歳だったの? てっきり子供かと……」と呟いた。

 失礼な、俺は20歳だ。


 ほどなくして、酒と食材の載った大皿が運ばれてくる。

 グラスを突き合わせて乾杯をすると、おもむろにアニーが言った。


「ここの街の貝は本当に美味しいのよ。食べてみて!」


 そう言ってアニーが勧めてくれたのは、なんと……殻付きの牡蠣じゃないか!


「うわぁ、アーカシにはない種類の貝ですね。初めて食べました! クリーミーな感じでおいしーい!」


 リタが満面の笑みで次々と牡蠣を頬張る。


「この貝、俺の故郷でも人気の食材でした。この酒場では殻のまま焼いて、レモンをかけて食べるんですね。なるほど…」


「レモン? レモの実のことか? その黒い髪といい、ヒロは一体どこの出身なんだ。違う大陸か?」


 ドニは太い眉を片方だけ吊り上げ、太い首を傾げる。


 俺が異世界から来たということは、リタを含めてまだ誰にも打ち明けていない。

 打ち明けたところで信じてもらえる保証はないし、頭のおかしい奴だと思われるのがオチだろう。

 自分の出身についてなんと説明するべきか迷っていると、ドニが思いついたように口を開いた。


「そういや、ザカリオでも黒髪の奴を見たことがあったな」


「なんだって!? ドニさん、それ本当ですか?」


 俺は思わぬ情報に、つい前のめりになった。

 黒髪が珍しいというこの大陸において、黒髪は俺の同郷、つまり俺の元の世界からやってきた人間という可能性がある。


「おお、何年も前の話だから詳しく覚えてる訳じゃねぇけどな。確か女だったような……」


「その人はザカリオのどこにいたんです?」


 詳しく聞くことができれば、元の世界に戻る手がかりになるかもしれない。期待と興奮で、掌にうっすら汗が滲む。


「酒場だったかな。でもな、ヒロ。もう10年くらい前の話だ。珍しかったからなんとなく覚えていただけで、その女が今もザカリオにいる保証は全くねぇんだ。旅行者かもしれねぇし、引っ越したかもしれねぇ」


「そう……ですよね……」


 目の前の手がかりが、急に指の隙間から零れ落ちてしまったようだ。しかし、ドニの言っていることはもっともだ。

 俺が無事にザカリオにたどり着いたとして、その人がその街にいるかは分からない。いたとしても、同じ世界から来た人だとは限らない。


 でも、例え僅かであっても手がかりの希望がある以上、やはり俺はザカリオを目指さなくてはならない。

 夜が明けたらすぐにザカリオに向かう手筈を整えなくては。


 俺が決意を新たにし、拳をぐっと握り込むと、横からリタが話しかけてきた。


「ヒロさん、さっきから全然食べてないですけど、貝はお嫌いですか?」


 リタが長いまつ毛をしばたたかせながら尋ねる。

もしかして俺が食べなかったぶんを狙っているのかもしれないが、そうはいかないぞ。


「いや、好きだよ。腹が減っては戦はできぬって言うしな。俺も目いっぱい食べるぞー!!」


 俺はザカリオのことでいっぱいだった気持ちを切り替え、腕まくりをして牡蠣が山盛りになった皿に手を伸ばす。


 ちゅるりとした身を噛むと、濃厚な磯の香が鼻から抜けていく。

 なんて美味いんだろう。


 俺が焼き牡蠣を満喫していると、ダニエルが酒を飲みながら尋ねてきた。


「ヒロ達は、明日からザカリオを目指すのかな?」


「ええ、この街から乗り合い馬車に乗って向かおうと思ってます」


 それを聞いたアニーが少し眉を寄せる。


「乗り合い馬車は便利なんだけどさ、たまに盗賊に襲われることがあるのよ。気を付けてね」


 盗賊、という日本の日常生活では耳にすることのない言葉に、背筋がヒヤリとする。

 ただ街と街を移動するだけなのに、そんな危険と隣り合わせだなんて。

 やはりここは元の世界とは違うのだと思い知らされる。


「アニーは心配性だなぁ」


 ドニがグビグビとエールを飲みながら言う。


「こっからザカリオに向かう街道は、ラズカータの駐屯兵がよくうろついてるから盗賊もめったに出なくなったじゃねぇか」


「ドニさん、ラズカータって何ですか?」


「おう、ラズカータはザカリオに向かう街道をまっすぐ行かず、途中で北に行った街だよ。芸術の街って呼ばれてるんだがよ、ザカリオほどにぎわっちゃいねぇよ」


 言い終えるとドニはグラスに残ったエールを飲み干し、店員にお代わりを注文した。


「ラズカータに、ランス国軍の駐屯所があるんだ。街道の近くで訓練していることも多いから、ここからザカリオまでの街道は比較的盗賊やモンスターに出くわしにくいんだよ」


 ダニエルが分かりやすく補足してくれた。

 ということは、乗り合い馬車に乗って盗賊に出くわす可能性はゼロではないものの、割と安全に移動できると思って良さそうだ。

 俺はほっと胸をなでおろす。


「私たちはここでお別れだから、ヒロとリタが心配なのよ」


 アニーが潤んだ目でこちらを見つめてくる。

 酔ったお姉さんの艶っぽい視線、うん、悪くない。


「ヒロとリタの旅の安全を祈っているよ」


 ダニエルは優しく微笑んだ。

 

 楽しく食事を済ませて店を出たあと、俺とリタと冒険者3人は店の前で手を振って別れた。

 俺とリタは街の宿屋へ、冒険者の3人はギルドの簡易宿泊所に行くという。


 アーカシからここに来るまでの街道や、クラーケンとの闘いで俺たちを助けてくれた3人ともここでお別れだ。


 日本とは違いここには携帯電話もないし、冒険者である3人には決まった住所がないらしく、気軽に手紙のやり取りなどもできない。

 ここで別れたら、もう二度と会えないかもしれない。


 しかし、いつでも気軽に連絡できたり、機械を通して常に繋がりを維持できる日本が特殊なだけかもしれない。

 本当はどこにいたって、一期一会の出会いを大切にするべきなのだろう。

 そんな当たり前のことに気づいた俺は、冒険者の3人にもう一度大きく手を振った。


「さよなら。また、どこかで!」


 異世界に来てまだ2日しか経っていないのに、もう何か月分もの経験と出会いをしたような気がする。 

 晴れた夜空を見上げると、数えきれないほどの星がきらきらと瞬いていた。

 離れていても、同じ空の下ならまた会えるだろうか。それとも、俺が日本に帰るのが先だろうか。


ここまで読んで下さりありがとうございます!

少しでも気に入って頂けたら、評価やブクマをお願いします!


明日も午前中に更新予定です♩

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