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105 ナリトモ救出

毎週、月・水・金曜日に更新中!

 カゲロウに支えられながらベッドから身を起こしたナリトモは、なんとなく威厳を感じさせるゆったりとした動作で俺達を見回した。


「カゲロウ、この者たちは? 獣人族ではないな?」


 カゲロウはナリトモが座った姿勢を保持できるのを確認すると、すっと後ろに下がって床に跪いた。


「この者たちは、私がこちらの大陸で知り合った者たちです。ナリトモ様を救出するにあたり、大いに力を貸してくれました」


 大いに力を貸してくれた、などと言われるとちょっと照れる。どちらかというと、俺の方がカゲロウに世話になりっぱなしだった。でも少しでも彼の力になれたのなら、とても嬉しい。


「冒険者を雇ったのか? ……それにしては随分と……穏やかな顔つきの者たちに見えるが」


 ナリトモは、特に俺の顔をまじまじと見ながら言った。わかるよ、俺ってどう見ても冒険者には見えないもんね。実際のところもしょうがなく戦っていただけで、本来は戦闘員じゃないからね。


「雇ったのではありません。彼らは善意で、ナリトモ様救出に手を貸してくれたのです。彼らなくして、ナリトモ様の救出は叶いませんでした」


 カゲロウが跪いたまま言うと、ナリトモは喜びと諦めを混ぜ合わせたような複雑な表情で頷く。


「父上は、私の捜索に人員も予算も割かなかったのであろう? ふふ、気を遣わなくて良い。私は王位継承権の順位も低ければ、元々父からの関心も薄いのだ。どうせ私の事を病で臥せっていることにして、失踪をもみ消していたのだろう? 王族が誘拐されたなどと広まれば、王族の警備力も統率力も疑問視されるのは明白だからな。そんな中、お前だけが私を助けにこの大陸まで来てくれたのだな。 冒険者を雇う金も無い中で、よくぞこれだけの仲間を集めてくれた。心から感謝する」


 カゲロウは目を潤ませて、ちいさく頷いた。こんなにも静かで感傷的なカゲロウは初めて見る。

 

 ナリトモはカゲロウからリタへと視線を移す。


「このおなごは……ヒーラーか。そなたに握られた手から、今まで感じたことがないほど温かなスキルの流れを感じた。そなたほどの実力者が、よくぞ獣人族に力を貸してくれた。心から礼を言う」


 実力者と言われたリタは、得意な顔で少し鼻の穴を膨らませている。その面白い顔を今すぐにやめてほしい。相手は仮にも王族なんだから。


「カゲロウ、他の者たちのことも紹介してくれ」


「はい。先ほどナリトモ様にヒールをかけたのがリタ。こちらの間抜け面の男がヒロで、料理人ですが戦闘力はそれなりです」


 おい、誰が間抜け面だ!


「そこの猫はクロジ。人間の言葉を理解する頭の良い猫です。それからこちらの背の高い女が……」


「シズカと申します。あの、アタシ獣人族じゃないけど身体強化で獣人になれるんです。ナリトモ様、あの、もしアナタを助けたご褒美とかをくれるんでしたら——」


「おい、シズカ失礼なことを言うんじゃ……」


 俺が制止しようとすると、シズカはナリトモの両手をガシッと掴んだ。国によっては不敬で即処刑されても文句は言えない。しかしシズカはそんなのお構いなしとばかりに、目をギラつかせながらナリトモにずいずいっと近寄る。


「ナリトモ様を助けたご褒美に、アタシとカゲ様の結婚を認めて頂きたいんです!」


「は……? はああああああ⁉」


 シズカとナリトモ以外の全員の声が重なった。


「ほう、そなたはカゲロウの婚約者なのか?」


「はい、実はそうなんです。でもアタシはミナモト国の出身じゃないし、でもこの先行く宛もないから、できたらカゲ様とミナモト国に行きたいんです。ナリトモ様ならそれを許可する権限があるんじゃないかなって……」


 先ほどまで真っ青な顔をしていた人物と同一人物とは思えないほど、シズカはイキイキとして語る。ナリトモはドン引きするかと思いきや、これまでの経緯を知らないからか、かなり真剣にシズカの言い分に耳を傾けている。


 その横で、カゲロウはワナワナと震えている。あ、ヤバい、キレそう。


「シズカ、お前ェ……!!」


 カゲロウのふさふさとした体毛の下では、間違いなく青筋が立っているだろう。カゲロウは、シズカのナリトモに対する不敬か、自分との結婚を言い出した件か、どちらから怒るべきか頭の中で素早く思案しているようだ。


 ナリトモは上品な仕草でクスクスと笑うと、確かな足取りでベッドから立ち上がった。「無理はいけません」と言うカゲロウを片手で制すると、優雅な笑みを浮かべながらスキルを発動し、獣人の姿へと変身した。


 美しい金色の目の色はそのままに、体は筋肉質で大きく変化し、全身が美しい羽で覆われた。羽の色は頭部が白っぽく、羽の先端に向けてどんどん色が濃くなっていく。首から胸のあたりを包む金色の羽は、思わず息を飲むほどに美しい。

 鳥の獣人に変身したナリトモは、少しだけ羽を広げてみせた。


「これが私の、獣人族としての本来の姿だ。シズカ、そなたに王族救出の名誉とともに、ミナモト国への入国を許可する。そらから、そなたが望むなら市民権を与えよう」


 シズカが小さく「ヨッシャ」と呟くのが聞こえた。


「結婚ばかりは私が許可するものではないから、それはカゲロウとよく相談するように。ただ、浮いた話のひとつもないカゲロウに婚約者ができたなんて、私は本当に嬉しいよ。シズカ、今後は夫婦ともども私の支えになってくれると嬉しい」


 シズカが「喜んで! アタシ、ナリトモ様に仕えます!」と目を輝かせている横で、怒りから虚無の表情になったカゲロウが静かに佇んでいる。


 あ、アレだ。外堀から埋めるっていうアレだ。日本でも、意中の相手を射止めるために外堀から埋めていく女子を見たことがある。異世界でもそれを観測するとは思わなかった。


 まあシズカはちょっと強引だけど信用できる奴だし、二人には末永く幸せになってもらえたらいいな。大っぴらにエールを送るとカゲロウに怒鳴られること間違いなしなので、俺は心の中でこっそり二人にエールを送る。


「ナリトモ様と助けたのはいいけど、ここからどうやって帰るんニャ? ジンを放って帰る訳にもいかにゃいだろ? 軍に電話でもかけるかニャ?」


「デンワって何ですか?」


 リタが首をひねる。


「ああ、電話っていうのは日本にある通信用の道具だよ。離れた相手にリアルタイムで声を届けることができるんだ」


 俺が説明すると、ナリトモが顎に手をあてて思案するように言った。


「デンワは見たことがないが、エレガンス製薬はランス国軍に大量の薬品を納品していたのは確かだ。そのやり取りのために、手紙を運ぶ魔術具ならラボのどこかにあったと思う。ジンたちが使っているのを見たことがある」


 俺達はジンを始め敵たちが起き上がってこないかドキドキしながらラボの中を漁り、程なくして連絡用の魔石を見つけた。俺がジュリアにもらった物とよく似ている。

 

 魔石で伝書バトのような白い鳥を呼び出し、エレガンス製薬への救出を要請した。

 軍の人間が大勢で押し寄せてきたのは、それから半刻ほど経った頃のことだった。


次回の更新日は来週の月曜日です⭐︎

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