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100 鳥の獣人

毎週、月・水・金に更新中!

 目の前で小瓶の中身を煽った男は、みるみる間に獣人へと変身した。

 体が二回りほど大きくなったかと思うと、腕のあたりを立派な羽が多い始めた。いや、腕だけじゃない、体全体が黄土色の羽毛に覆われ始めている。


「鳥の獣人か⁉」


 口元は前に突き出しただけでなく、硬いクチバシのような形状へと変化した。

 胴体の大きさの割に、足だけは細く見える。


 こちらを睨んだ男がバサッと腕を広げると、腕の中から何かが勢いよく飛び出して来た。


「うわわ!」


 俺は慌てて後ずさりする。足元に突き刺さったものをよくよく見ると、それは男の全身を包んでいるのと同じ色の羽だった。


「は、羽を飛ばして攻撃できるのかよ⁉」


 すると今度は、男は立派に変化した翼を畳み、こちらに向かって一直線に飛んできた。

 俺はポーションで変化した鳥の獣人にうっかり見入ってしまい、まだ戦う準備ができていないというのに! やばい、避けきれない——


 ガキン!


 硬質なもの同士がぶつかったような音がした。

咄嗟に閉じた目を、そうっと開く。


「だから気を抜くなと言っておろうが!」


 鳥の獣人と俺の間に割って入ってくれたのは、カゲロウだった。

 カゲロウが剣で押し返すと、鳥の獣人はふわりと後方へ戻った。


「カゲロウ! シズカとキリエはどうなったんだ⁉」


 慌てて彼女たちの方を振り向くと、完全に伸びたキリエと、その向かいにはいつの間にか獣人化を解除して真っ青な顔をして座っているシズカがいる。


「シズカには手を出すなと言われたが、アイツは重症だ。女同士の闘いなど、吾輩の知ったことではない。トドメはシズカに譲ったが、吾輩も手を出したのだ。とっくに決着はついておるわ」


 俺達一行きっての武闘派であるカゲロウと、同じく戦闘要員のシズカにふたりがかりでボコされたキリエがちょっと不憫に思えた。


「元々キリエも戦闘要員ではないのだろうしな。あやつは元々ただの隠密だろう。獣人の敵ではないわ」


 俺は前回キリエに相当てこずったんですが……


「ところで、この鳥の獣人は何なのだ。また獣人化ポーションか」


 敵に向き直ったカゲロウが、ぐるる、と喉を鳴らした。


「ああ、目の前で瓶を煽っていたから、多分そうだ。その、鳥の獣人っていうと——」


「ナリトモ様と同じような羽の色だ。クソ! 獣人族を馬鹿にしたツケはきっちりと払ってもらうぞ!」


 カゲロウが強く地面を蹴った。高速移動のスキルも使っているのだろう、目にも止まらぬ速さで鳥の獣人に斬りかかるものの、敵はひらり、ひらりと軽い動きでカゲロウをかわす。敵のその動きにははっきりと余裕が感じられ、一方でひたすら剣を振るうカゲロウには焦りだけが蓄積されているように見える。


 カゲロウの国の長が鳥の獣人で、なおかつ鳥こそが最強だとカゲロウが言っていたのがよく分かった。ここは大して広くもない室内だと言うのに、敵はあまりにもあざやかな動きでカゲロウの攻撃をかわしていく。まるで重力などないかのようだ。


「おっと、あいつらの闘いをじっくり見てる場合じゃなかった。なんとかして援護しないと……と言っても俺のスキルじゃ人に対しては攻撃できないし……あ」


 俺はジンの部屋から拝借していた銃の存在を思い出した。

 中身はカラだ。これに何か飲み物を入れて相手に当てれば、当たった場所が食べ物判定になり、料理人の俺のスキルが通用するのではないかとクロジに言われて持ってきたのだ。


 しかし、いま手元には飲み物はない。

 一縷の望みをかけてマジックバッグの中に手を突っ込んだが、そこにも飲み物はない。


「もう、どうしろっていうんだよ!」


 その時、マジックバッグに突っ込んだ手に、ヌメヌメとした感触が当たるのを感じた。


「なんだコレ……コカトリスの尻尾の部分か。たしか毒が——」


 そうだ、毒だ!

 俺はマジックバッグからずるり、とコカトリスを引き出すと、【毒袋除去】のスキルで尻尾から毒の袋を取り出した。ナイフで慎重に切り目を入れると、その切り目を、銃本体に作られた液体の注ぎ口にそうっと近づける。


「まるで水鉄砲みたいな作りだな」


 俺の狙い通り、毒は銃の中にトポトポと注がれていく。


 普通の水鉄砲なら毒で内部が溶けてしまうかもしれないが、ジンはこれと似た銃をオリハルコン製だと言って自慢げに使用していた。これが同じ素材かどうかは分からないが、少なくとも見た目は似ている。オリハルコンって、確かファンタジーの世界ではメチャクチャ丈夫な素材だよね?


 毒を注ぎ込むと、銃にきっちり栓をする。試しに銃を少し揺らしてみると、中でチャポチャポと液体が揺れるような音がした。

 よし、これで俺も戦えるはずだ。


 俺は激しい音を立てながらぶつかり合っているカゲロウ達に近づくと、叫ぶようにして言った。


「カゲロウ、ちょっとどいて! くらえ‼」


 銃口を鳥の獣人に向け、ぎゅうっと引き金を握る。

 すると矢のようなスピードで、俺の持った銃から液体が飛び出した。

 ふいをつかれた獣人の翼に、俺の放った毒の銃がヒットした——しかし。


「フン、毒か? 少しシュワシュワと羽が溶けたな。しかし、こんなもの子供だましだ! こざかしい真似をしやがって。やはりヒロ、お前から始末してやる!!」


 鳥の獣人はばさり、と翼を大きく広げたかと思うと、次の瞬間俺の方に向かって猛スピードで飛び込んできた。


 カゲロウを援護するつもりが、思いっきり敵のターゲットになってしまった。

 大失敗だ!


「うわああああ! ごめんなさい、ごめんなさい!」


 俺は咄嗟に謝罪の言葉を繰り返しながら、デタラメに銃を撃った。

 ピシュン、ピシュンと毒が飛びだすが、敵に当たった気配はない。

 もうここまでか、と覚悟を決めようとしたその瞬間、俺に突っ込んでこようとしていた鳥の獣人の体が空中でぐらりと揺れた。


「……ん?」


 そのまま、フラフラと床に降りる獣人。よく見ると、さきほどより体が一回り小さくなってないか?


「ヒロ! 当たらなくても構わん! そのまま銃を撃ちまくれ!」


 カゲロウの声がする。


「当たらなくても怒られないの⁉ それなら任せといて!」


 俺は正直言ってノーコンだ。でも、当たらなくても良いのなら俺にだってできる。

 俺はとにかく銃を撃ちまくった。毒の元になるコカトリスなら、まだマジックバッグに何匹か入っていたはずだ。ここで中身を使い切っても問題ない。


 相変わらず俺の攻撃は、最初の一発以外当たる気配はなかったが、それでもどういう訳か鳥の獣人の動きはどんどん鈍っていった。おまけに、体がどんどん小さくなっていて、獣人ではなく普通の人間サイズへと戻っていっている。


「なるほど、獣人化ポーションはアレで解毒するのだな」


 ニヤリと笑ったカゲロウが、大きく剣を振りかぶった。鳥の獣人だった男は見事に吹っ飛ばされ、鈍い音とともに壁に激突した。男はピクリとも動かない。


「ひえぇ、痛そう」


「助かったぞヒロ、よくぞアレが獣人化ポーションを解毒すると分かったな」


 カゲロウが珍しく、俺の肩を優しく叩いた。


「は? 解毒?」


「何だお前、訳も分からずアレを撃っておったのか」


「コカトリスの毒のこと? マジックバッグに液体になりそうなものがアレしかなかったから撃っただけだけど……」


 すると、カゲロウはハァーッと深い溜息をついた。


「ヒロに知性を期待した吾輩が間違っていた」


「どういう意味だよ! あれ、もしかしてコカトリスの毒って、獣人化を解除する働きがあるのかな」


「敵の動きを見れば明らかであろう。吾輩のようにスキルで変化している者には効かぬが、ポーションで無理矢理身体強化を起こしている者には効果があったようだな。ヒロの撃った毒からコカトリスの匂いがしたことで、孤児院でコカトリスが飼育されていたことを思い出したのだ。あれはおそらく、ポーションの効果を打ち切る研究も同時に行われておったのだろう。そしてコカトリスの毒は対象に当たらなくても、その辺に付着したものが気化すれば一定の効果が見込めるようだな」


「へぇ、カゲロウよく分かったね」


「お前が頭を使わなさすぎるだけだろう‼」


 またカゲロウの怒号が飛んだ。俺も頑張ったというのに、ひどい。


「コカトリスの毒は我々が吸い込んでも眩暈を起こす。ヒロもしばらくは口元を覆え」


 自らのストールを鼻の上まで引き上げたカゲロウが、廊下の奥を見て目をすがめた。


「キリエとこの男は片付いた。急いでリタを追わねば」


次回の更新日は今週の水曜日です⭐︎

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