表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/19

7話-エイビサ居住地区にて-

 手を引かれて走る事、数分。

 途中、良く分からない奴らに追っかけられたりもしたが、あちこちの路地をグネグネと曲がってるうちに煙に巻いたようだ。


「もう……だいじょうぶ。……か、な」と、息を切らしながら女の子が手を離してくれた。


 数分、走っただけなのだが商業地域からずいぶん離れた気がする。

 思わずあたりを見回してしまう。

 ゲームだと全く見たこともない地域と建物が乱雑してる。石積みの屋根が乱立している。

 壁は石灰岩だっけか。白が強くみえる。


 ただ、ファンタジー要素が強いからなぁ……。本当にそれなのかわからない。

 あっていれば、気温とかもやわらげてくれる優れものなんだっけ……か?

 こういった作りは海外っぽさがあっていい。

 世界旅行なんて、夢物語だったし、体感してみると楽しいものだ。

 見て楽しむ、歩いて楽しむ、走って楽しむ……。

 趣が色々とあるきがするな。


「あなた意外と……体力ある?」


「……まあ、それなりに?」


 自分でいっておいて、よくわかってはいない。

 女の子が息切れしてるのに対して、自分はまったく疲れなかった。

 よくよく考えみたらこの体力もキャラクター依存なのか?

 となると、化け物じみてくるな。

 交易商人といえど、ゲームで育てた結果がそのまま反映するならレベルは高いし行動力も十分ある。


 あと区画が変わったのかもしれない。

 さっきまでの喧騒なざわめきもなく静かだ。多分居住区だな。


「ねぇ……あなたは外の人?

 それとも、あたらしく配属されたギルドの人?」


 女の子が明るく振る舞う。

 ただ尋ねられた理由がずいぶんとアバウトだ。

 少し考えてから俺は口を開く。


「外から来た、ただの交易商人だが……。何か俺に用か?」


 あたりさわりなく答えてみた。

 まあ、助けてくれた良い子だとはおもうけどね。


 すると女の子がキョトンと不思議そうに小首を傾ける。

 良いね。この子。動きがかわいい。

 蒼い長髪もあって、小さい仕草が絵になる。

 本人は意図的にやってるわけでもなさそうだし。


 女の子は両の手を後ろで軽く組んで、路地をゆっくり移動する

 小さな石段をぴょんぴょんっと降りていく。


「助けてあげたつもりだけど。

 そんな言い方はひどくない?」


 路地を曲がり、「ついて来て」と女の子が手を招く。

 仕方なくついていく自分。

 なんだか映画の主人公にでもなった気分だ。


「別に助けてほしいわけでもなかったが?」


 なんだかんだいっても、スキル<退却>とかあったしな。

 ちょっと試してみたい絶好の機会でもあった……。


「そう? でも、あの人。ここでは有名な上流貴族よ?

 ただの交易商人が話していいわけでもないし。

 捕まるといろいろめんどうだけど?」


 聞いて俺は苦虫を噛み締めたような顔で追従する。

 あのご老人貴族なのかよ!

 工芸職人っていってたじゃねーかよ!

 ということは、工芸職人であり貴族なのか?

 うーわ、めんどくさい!

 どおりであそこの一角だけ人が少なかったのか。

 触らぬ貴族になんとやらみたいなものだったか。


 くるくるとまわり、女の子が軽く笑う。


「商人の諺にもあるでしょ?

 えっと………知らない事は……」


「知らない事は罪であり。

 知りすぎる事もまた罪なり。だったか?」


 つか、それ。俺が知ってる中では、諺っていうか。

ゲームの中で火器を密造、密輸をしまくってた大物商人が言ってた言葉だったぞ。

『良く来たな!』とかいいながら、黒いマントを広げると中から刃物が大量に出てくる怖いオッサンな。

 この世界にも居るのだろうか……。絶対関わりたくない。


「そうそれ!

 いがいと教養があるじゃない?

 それなら工芸貴族くらい知ってても良いのに。変な商人さん?」


 工芸貴族ってなんだよ!

 オッサン知らないわ!

 ただ、無知すぎるってのも問題ではあるか……。

 今後の課題にしておこう……。

 この世界を出るにしても出ないにしても、可能であれば良い部下を手に入れないとな……。


「……商人にもいろいろあるのさ。

 俺はヴァルガス。昨日この港町に着いたばかりの交易商人だ。

 遅れてすまないが、それが事実なら面倒な所を助けていただき感謝する。

 ありがとうお嬢さん」


 足をとめて優雅そうにお礼をする。

 やられっぱなしはきにくわないからな一種の皮肉も込めてる。


「ふふふっお嬢さんって……。

 私これでも立派なレディよ?」


 女の子の声のトーンが少しかわる。

 クックックッ喜んでるのがバレバレだ!

 まあ顔を見ても、ほんのり頬に朱色がかってて一目瞭然だけどな。


「それは失礼。それでは立派なレディさん。

 貴女のお名前は?」


「ふふっ面白い人ね。

 ルーよ」


 ルーね。オッサン覚えたわ。


「なるほど、ではルーさんは」


「ルーで良い。私もヴァルガスって呼ばせてもらうけど」


 本当にグイグイくるねこの子。

 まあ、そうでもないと荒くれ者が集まる島じゃやっていけないか。


「……ルーは俺の先輩さんだな」


「先輩?」


 ルーが不思議そうに尋ねる


「ああ先輩さんだ。俺はこの島にきたばかりだからな」


「なるほど。

 じゃあ、ヴァルガスは後輩くんになるのかな」


「そうなるな」


「私の後輩くんがこんなにむさい男なんて……ちょっと泣けちゃうかも?」


 酷い言い草だった。

 まあ、体も洗ってないからな。臭いもひどいわ。


「さしずめ今の私は船乗りをたぶらかす罪な女の子かな?」


「たしかにいい得て的を射ているかもしれない。

 その場合俺が色々と捕まりそうなきもするな」


 少女趣味はないしな。

 衛兵さんこいつですと突き出されたくも無い。

 牢獄エンドとか最悪だ。


「ふふっそれなら。可憐な少女と憐れな男でどう?」


 女の子らしい仕草でルーは言う。

 自分で可憐とかよくいえるな!

 若いってすげぇ!!

 オッサン恥ずかしくて絶対いえないわ!


「憐れな男……か」


 少し考える。このルーって子、言葉遊び好きそうだな。

 まあ、俺自身。話すのには飢えていたからな。

 不思議ちゃんでもおおいに結構だ。


「そうよ、あなたは哀れな男」


 ルーがくるくる右手の指で空中で絵をかくような仕草をしながら前を歩く。


「商人は誰でも金に群がる憐れなやつらだ。

 だからルーの言葉はあながち間違ってはいない」


 俺は思わず唸って続ける。


「しかし商人とは金に愚かであれど、金に誠実でなければならない。

 まあ……どちらでもあるか」


「ふうん……。商人さんは大変なのね?


「どの職にしても大変なのはかわりないがな。

 さてはて、そんな男を連れてルーはどこに向かってるんだ?

 さっきからどこかに向かっているとはおもうんだが……」


 女の子が振り返り後ろ歩きで口元に人差し指をあてる。


「内緒。っていいたいのだけれど。

 ヴァルガスに少し尋ねたいことがあるの。

 向かっている場所は私のお家かな」


「尋ねたいこと?」


「うん。ヴァルガスってさっき木像を作ってたでしょ?


 作ってたなそりゃ無我見中にな。


「ああ、それが?」


「そのなかにあった魔物の木像……あれって。

 その………クラーケンだよね?」


 ルーが不安そうに影を落とす。


「そうだな。海の魔物クラーケン。

 海の男達なら知っててもおかしくない魔物だろ?」


「そうなのね……。

 でも、知ってても足や影を見たくらいだと思うの、だって………」


 何かを思いつめるように、ルーが息を吐く。


「あのクラーケンは滅多な事じゃ海面になんてでてこないもの」


 風が少しだけ吹いて女の子の顔からこつぜんと笑顔が消えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ