8話-ルーの家にて-
港町の外れ、浜辺近くにルーの家はあった。
「随分と辺鄙な所に住んでるんだな?」
「いろいろあるのよ、いろいろね。
そこに座ってて頂戴。
お父さーん!」
家に入るなり、ルーは部屋の奥へと消えていった。
仕方なく俺は手短にあった椅子に座る。
しかし、困った。
まさかクラーケンが原因でこんな事になるとは思っても見なかった。
クラーケン。
ゲームでは災害級指定にされている魔物だ。
大きさは大きいのから小さいのまで多種多様らしいが、ゲームでは航海がメインということもあって、大きい奴しか害をなさないという設定だった。
見た目は、大きなイカだ。
色も青黒く、夜間で襲われるとどこにいるのか把握しにくい。
ただのイカとは性質が全然違う
クラーケンの好物……それは人だ。
どういった経緯で人を襲うようになったかは分からない。
ただ、クラーケンの生物調査をする初見のシナリオでは最悪の結果しか残らなかった。
いくらコンシューマーゲームで一人で遊ぶゲームだとしても、生物調査に向かった調査隊がプレイヤー以外、全員喰われるはどうかとおもった。
たぶん、B級映画が好きなシナリオライターが作ったクソシナリオだとはおもう。
ただ、あくまでそれは、初見での話だ。
この『希望を船にのせて……』というゲームでは大抵、同じシナリオを何度も遊ぶ事は出来る。
勿論調査隊のメンバーはランダムで名前が変わってしまうが。
で、勿論だが、クラーケンにもHPはある。
ただ、シナリオの都合で『船での戦闘は不可能』なので、生身で闘わなくてはならない。
よって、生身が強い種族で戦闘に長けたスキルを覚えさせて挑まないといけない。
しかも調査隊のメンバーは格闘スキルが雑魚に等しいので、戦闘参加させないほうが良かった。
ただの邪魔でしかないからな。
思い出しても胸糞の悪いシナリオだ。
クラーケンを倒しても、調査隊からはブーイングの嵐。
二度と参加しないでくれと文句を言われる。
文句を言われたあとに直ぐに参加も可能なので、失笑レベルだ。
フラグ管理、しっかりしとけよ……。
ちなみに初見で、調査隊が全滅してもギルドに報告するだけでクリア扱いにはなる。
「やはり魔物の調査なぞ無理があったのだ」とか付け加えられてな。
さて、そんなクラーケンについてだが、ルーに詳しいのかと聞かれた。
反応に困ることだが、「それなりにはな……」と胸糞悪い感じで答えておいた。
で、どうにもルーには、そのクラーケンが関わった困ったことがあるらしい。
まあ、話だけなら聞いても損はないからな。
俺は話を聞くだけならとホイホイ着いてきたわけだ。
奥の部屋から、男がでてきた。
歳は四十後半……。いや五十代くらいか?
それなりに貫禄のある男だった。
彫りの深い顔で、若いころは美男だったかもしれない。
いや、今も良い男か。
ついてくるようにルーも一緒だ。
「辺鄙なところまですまない。
バロッサだ。この辺で海の猟師をしている」
「交易商人のヴァルガスだ。
娘さんには助けてもらって感謝している。
クラーケンについて聞きたいといわれて来たんだが」
言うと、バロッサのオッサンが俺を凝視して、軽く目を伏せた。
「ははは……。まさか娘がクラーケンを知っている奴を、本当に連れて来るとはな……」
バロッサは椅子に座ると、テーブルの上にあった酒をグイッと呑む。
昼間から酒とか、相当やばい案件かねこれ?
呑んでないといられないとか?
「ヴァルガスさん。あんたに悪いから先に言っておく!
俺の目は<看破>持ちだ。
こんな所に住んでるのもそれの所為なんだ」
「看破持ち?」
スキル<看破>を持つ目ってことかな?
相手の言っている事を本当か嘘かで把握できるとかそういうことかね?
そういうスキルはゲームになかったような……。
いや、俺が知らないだけで隠しスキルか?
「そうだ。俺の目は相手に質問した事に対してのみ反応する。
そして相手の言っている事が、嘘か本当かが分かるっていう特異体質みたいなもんだ」
ほほぅ。スキルがそのまんま身体に影響してる感じなんだな。
行動力使わなくて良さそうだが、常に本当か嘘なのかわからないといけない生活は辛いだろうなぁ。
人間、誰しも嘘と本当を織り交ぜてるわけだし。
「そりゃ大変だな……」
「大変?」
「ああ、俺ならそんな生活、疑心暗鬼になってしまう自身がある」
「ほう……。肝が据わってる。
俺がその……怖くはないのか?」
いやいや、それなりに強そうだし。
怖いか怖くないかっていわれたら怖いぞ!
んー、こういうときの返答はそのままでいいのかね?
「その目については、さほど怖くはないが。
バロッサさんと取っ組み合いをしたら多分負けるかもしれないだろう?
そういう意味では怖いな」
俺が軽く手をあげて答えると、バロッサはルーの様にキョトンとした目をした。
そして、大声で笑った。
「ダーーハッハッハッ!
言うに事欠いてそれか!
実に面白い!
娘からもさっき、面白い奴と聞いていたがね」
なんとも、気に入られたようだ。
これでとりあえず話しは進むのか?
「商人の時間は有限だと聞いた事がある。
だから率直に聞く、もしもでも分かればで良い。
教えてほしいんだが、あんたはクラーケンを見つける事は可能か?」
「クラーケンを見つける?
見つけてクラーケンを狩るとでもいうのか?」
まあ、猟師なら獲物はでっかくといきたいのも分かる……。
ただ、あれは小さい幼体クラスでも五メートルはあるきがするぞ。
しかもあれって食えるのか……?
毒々しい色してるんだが。
「そうだ。出来れば小さい成体を狩りたい。
いや、直ぐにでも狩らねばならないんだ」
バロッサの手が力強く握られる。
どうみても分けありってやつだな。
しかも成体かよ!
クラーケンのシナリオの悪夢再びだよ!
どうしたものか……。
「事情は良く分からないが……。
クラーケンを見つけることは……多分出来る」
あくまでもゲーム上ではってことなんだけどもな。
「本当か!」
思わずバロッサが声を荒げる。
まあ、バロッサが看破を持ってたとしても、ただの交易商人が見つけられるとかおかしいもんな。
「出来るが……。アレを何人で狩るんだ?
成体なんて言うが、それこそ大規模な人がいるだろ?」
「俺一人でも狩るっ!
どうしてもクラーケンの肝が要るんだ!」
「お父さん。事情を話さないと」
荒ぶるオッサンにルーが助言する。
そうだな、まずは事情を聞かないとわけがわからん。
海の男ってのは本当に荒いな。
「……そうだったな。ヴァルガスさん。
ちょっと奥の部屋まできてくれ」
奥の部屋は寝室だったらしい。
そこには、妙齢の御婦人が寝ている。
蒼い髪の色からして、ルーのお母さんか?
顔色は良くなく、時折うなされている感じだ。
「妻のラーシャだ。
俺達の漁は素潜りでな。
獲物を見つけては槍で魚や貝を採っているんだ」
内心、俺の心は動揺する。
夜に魔物が活動するからといっても、絶対に昼に活動してるわけでもない。
漁がメインだとしても素潜りは危険が一杯だろうに。
まさに命がけだ。
「浜辺付近なら、魔物も見ないし安全だったの。
だからひっそりと家族で漁をして暮らしていたの」
バロッサとルーが肩を落として語る。
「ところが数日前。奴が浜辺近くの深い海底から現れた!
とんでもなく大きいイカだったさ。
俺は家族を守るのに必死だった。
だけどな……その結果がこれだ」
「私を庇ってお母さんがイカに刺された」
見てといわんばかりに、ルーが母親の手を取って腕をみせる。
そこには確かに何かが刺された後があった。
ああ、嫌な思い出が蘇る。
クラーケンの神経毒かこれ? それなら時間がヤバイぞ?
「知り合いの医者に聞いた。そしたらクラーケンの毒には奴の肝がいるってな!
しかもだ。それも大昔の書物で見知った程度と。
治る方法でさえ曖昧だと!
そんなのに頼らないといけないのかと!
だが、俺の目が訴えてたさ。
医者は嘘を言っていないっ。
つまり、知ってる限りで尽力を尽くしてくれてるってな!」
「……刺されてから何日が経過した?」
俺はルーにそっと母親の腕を戻させて尋ねる。
「今日で六日くらいだ。
なあ、クラーケンを狩るのを手伝ってくれないか!
俺も娘も出来るかぎり何だってする!」
「お願いヴァルガス」
ルーが俺の服の袖を掴んで頼む。
若干震えた手で、母親の思う気持ちが伝わってくる。
俺、こういう話、弱いんだけどね。
「クラーケンの神経毒は最初は獲物を一週間だけ気絶させる。
その後に何が待ってるか……医者には聞いたか?」
俺が静かに答える。
もしかしたら、鬼気迫るものもあったかもしれない。
だが、こればっかりは伝えてあげないと話にならない。
「……いや、そこまでは聞いていない」
「……心の臓が止められるんだ。そして死に至る。
これは、時間との勝負だな」
ゲームでの説明ではそうだった。
しかしゲーム上では神経毒にやられてる間は水中でも死なない。
ただの気絶扱いだ。しかし説明ではそうはなってはいない。
仮にゲームの説明どおりだったら、今がとても危険だ。
しっかし、ギルドに相談するか?
いや、クラーケンを狩るのにどれだけの犠牲がでるか検討もつかない。
そんなのは余計にめんどくさい事になる。
工芸貴族にでも話すか?
それは有だが、めんどくさい事になる。
こっちは最終手段だな。
やっぱりそうなってくると、アレしかないか?
俺は忌々しいクラーケンのシナリオを思い出しながら、アレを実行する事に決めた。
せっかくこの世界を楽しんでいるんだ。
嫌な思い出なんかクソくらえだ。
やってみる価値はあるだろ。
物語は常に良い方向に進むもんだ。
こんなところでBADENDは胸糞悪い
「バロッサさん。アンタが本音で語ってくれたように俺も出来る限りの事はする」
商人と猟師の視線が交叉する。
「だが、俺達ではクラーケンを見つけることは出来ても、仕留めるのは無理だ。
そこで、知り合いの助っ人を呼ばせてもらう」
「助っ人……だと?」
「そうだ、海の魔物は、海の狩人に任せるべきだ」
真意の読み取れない俺の目に、バロッサは不安を感じた。
ブックマークありがとうございます。
暇つぶし程度に読んでもらえれば幸いです。




