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14話-拿捕された商船と海賊船-海賊視点-

 その日の海は穏やかだったもんだ。

 俺は……俺達海賊はその日はとっても運が向いてた。

 なにせ、海の魔物にぶつかったのか、岩礁にでもぶつかったのか、難破している商船を見つけたおかげで積んでいた荷と金品を沢山ありつけたんだ。


 運が悪いのか、船を操っていた船員共はみんな海の中に落ちたらしい。

 残った商人共は右往左往していた。


「こ、交渉を!」


「我々は商人だ。海賊の貴方方に言うのは筋違いかもしれないが、助けてくれ。

 近くの港か、どこかで取引をしたい!

 助けてくれればそれなりの報酬を払う事を約束するっ!」


「船長こいつら言いたい放題ですぜ?」


「何人か海になげましょうかい? ゲヘヘヘヘ!」


「てめえらはちょっと黙ってろ! 俺の空っぽな頭で考える」


「頼みますよーッ船長! こいつらの生き死にの問題でさぁ!」


「金さえ入れば俺達はどうでもいいけどな!」


 難破した商船には何人か生き残っていた奴等がいた。

 こいつらは後で身分を聞いて身代金と交換できればめっけもんだし、何より羽振りが良さそうだ。

 俺達に交渉まで持ちかけてきやがったし、こういう相手はありったけ毟れるだけ毟るのが俺達の流儀だ。


「……船倉にでもぶちこんどけ」


「へいっ!」


 お宝と一緒に放り投げられた奴らは恐怖に怯えていたが、それは俺達にとって知ったこっちゃねえ。


「お嬢様!」


「ここは大人しくしておきましょう……。

 まだ話す余地がきっとあるわ」


「黙ってねえと海の藻屑にするからな!」


 船長の俺がそう声を荒げるだけで奴らはビビッちまった。

 小声で何か喋ってはいたが、俺にはサッパリだったがな、へへへ。


 まあ、偉そうな貴族っぽい嬢ちゃんとメイドはキリッとした表情でちょっとそそったがね?

 ああ手合いは、手を出すと面倒なんだよなぁ……。


****


  俺達は静かに安全な航路を抜けていた。

 難しい事はわからねえが、何故かこの航路は魔物に襲われない。

 つっても、武装してない船はわからん。

 俺も下っ端だったときから、この航路をつかってるだけだしな。


 勿論海軍に見つかると面倒だ。

 それらの警戒を怠ってもいねぇ。


「船長! 明日は騒げますかね!」


「その前に荷物の引渡しだ。それまで我慢しとけ」


「奴等が暴れたらどうするんで?」


「そんときは海にでも投げ捨てろ。

 そこまでは面倒みれねえよ」


「遊んじまってもいいですかい?」


「お前が海の藻屑になるなら良いぞ?

 大事な金づるだからな?」


「おお! コワイコワイ!」


 面倒は増えたが、金も増えた。

 厄介ごとに関しては悪巧みの上手い奴に任せれば良い。

 話によっては良い商談だ。

 破談すれば、それは奴らの人生が解放されるだけだしな?


 荒波はあっても、俺の船がこれくらいじゃビクともしねえ。

 だからというのもある。俺達は安心してたっていうな。

 今日このときまでは……。


 日が沈み、船が帰路へ向かう途中だった。

 いきなりそいつらは現れた。


****


 ドンッ! と馬鹿でも分かる振動が船体を揺らした。

 俺は自慢のカトラスを抜いて飛びおきて甲板に出た。


「どこの馬鹿だ!」


 夜中の砲撃音なんてのは正気の沙汰じゃねえ。

 いくら海軍でもそんな馬鹿はしねえからな。

 下には少なからず魔物が居るはずだ。

 こんなところで海戦なんて冗談じゃねえ!


「せ、せ、せ、せ、船長! あれを!」


「アアアッ!?」


 半ばパニックになっていた部下に指を指されて俺はソイツを見た。


「な、なんだこりゃ……」


 そこには壁があった。

いや、上を見上げて分かった。こいつは壁なんかじゃねえ!

とんでもなく馬鹿でかい船だ。


 その船の砲門が全部がこちらをむいてやがった!

 撃ったのはこいつで間違いはねぇ!

 あんなのを直撃したらうちの船なんか一発だぞ!


 しかも船体はボロボロでいくつも穴があいてた。

 それが俺の船の真横まで迫ってたんだ!


 こいつは音もなく忍び寄ってきた。

 まるで死神の船だった。

 なんなんだこいつぁ!


「なんだこれ……」


「海軍の船か?」


「それにしちゃ……こんなにぶっこわれてるぞ!」


「穴開いてるのになんで沈まないんだコイツ……」


 部下達が船内から出てきて顔を青くする。


「お、おい! 上の方みてみろ!」


「あ、あああ……」


「嘘……だろ?」


 さらに上、甲板の方を見て俺は持っていたカトラスを落とした。

 そこには多くの骸骨がこちらをみてケタケタと笑っていた。

 いや、骨の音なんだろう……。

 これは夢か? 悪夢でもみてるのか?


「こいつ! あれだ! 噂のあれだ!」


 部下が頭を抑えて青ざめる。


「そんなっふざけた事あるか!」


「クソッ! 海の上じゃ逃げられんぞ!」


「何でここまで近寄られて気がつかなかった!

 見張りは何してた!」


「見えなかったんだよ! いきなり現れたんだよ!」


 船員達も後ずさって船から逃げようとしていたが、下は魔物の住処だ。

 食われておしまいかもしれんからな、ギリギリで踏みとどまる。

 呆然としてるところに、一回り大きな奴が飛び降りてきた。


「ひいい!」


「で、でけえ!」


「ば、化け物だ!」


 目が赤く光って、でかい骸骨だった。

 そいつが船長っぽい豪華なコルセアコートまで着てやがる……。

 俺は自分がイカレてるのかとおもったが……。

 ……くそったれ、俺も思い出したぜ最近噂のアイツだ。


「お前が船長カ?」


「あ、ああ……」


 重い声が響くと、海軍にだって恐れを出さない船員達が皆蹲って頭を地面にこすりつけた。


「亡霊だーー! 死者の亡霊だー!」


「ころさないでくれえええ!」


「海の呪いだー!」


「たすけてくれええええ!」


 荒くれ共が恐慌状態に陥っても、俺は現実味を感じてなかった。

 だからだろうか、奴が何であれ震えもしなかったが……。


「根性のないやつらだな。……好きな方を選べ船長」


 化け物がゆっくりと腰の獲物を引き抜いて俺につきつけた。

 まるで死神だ。そうだ、こいつは死神にちげえねぇ。


「降伏カ。死カ」


 冷たい視線が俺を貫いた。

 そこでブルッと震えた。

 遅れて呼吸が荒くなって、俺はまだ生きているんだなとおもったさ。


「こ、降伏だ! 降伏するっ!」


 俺はおもいっきり頭を甲板にたたきつけた。

 こんな奴に歯向かって勝てるわけがねぇ。

 俺は心の中から正直そう感じとった。


*****


 戦いは何事もなかったように終わった。

 俺達の船は拿捕されて、商人どもも、金品財宝、すべて奪取された。

 残った部下達と船長の俺は今、小さな小船群に分けられて乗せられている。

 船頭は骸骨の海賊だった。


 骸骨がケタケタと笑うと、部下達は皆頭を伏せて恐怖した。


「船長の命令は絶対だー。

 お前達はしっかり陸地に送り届けてやるー。

 それまで俺達の武勇伝でも聞かせてやろう。

 ケタケタケタケタケタ」


 変な骸骨だった。

 それよりもこの小船達はどこから出てきたんだ。

 あいつは幽霊船団の長だとでもいうのか?


 いや、あんな禍々しい奴が俺達を解放してくれるなんて思えなかった。

 皆顔色が悪い、中には海に向かって吐く奴までいる始末だ。

 海賊が捕まる、その最後なんてのは地獄が相場だ。

 俺の手も震えがとまらなかった。


「俺達はなーそりゃあ、昔はお前達の様な海賊だったさー」


 船頭の言葉が最初は呪詛のように聞こえた。


「ある時ー。海軍の野郎共が俺達に目をつけてなー。

 そりゃあ、でっかい海戦になったさー!

 海はあれ、潮は真っ赤にそまり、沢山の船がー」


 だが、話が進むにつれて、一人、また一人と、耳を傾けた。

 それくらいしか正気を保てないという事があってもだ。

 骸骨の話はとても興味深かった。


「俺達ぁー最後まで戦いー、海軍も最後まで戦い抜いたー。

 そりゃあ、ひでえ戦いだったさー。

 ひでえ……本当になー。ひでえ戦いだったー。

 俺はそこで砲弾をモロにくらって弾けた一人よー」


 いつだったろうか……。

 海賊が宝を求めたり、新天地を探していた時代は……。

 いつだったろうか……。

 小さい時に、海にロマンを求めていたのは……。


「あまりの煩さに魔物共まで集まってきやがってなー。

 そりゃあ、もう大騒ぎよー!

 最後は海賊も海軍も魔物をやっつけるのに必死になってなー。

 もう、何もかもが残らなかったー。

 だが、俺達は残ったー。

 死んでまでもこんな骨の姿になってまでなー!

 気がつくとこんなありさまよー!」


「お、お前達はなんなんだ!」


 俺が骸骨に質問した。

 船頭はケタケタケタと笑いながら答えた。


「良い質問だ。

 船長ー。お前は良い船長だなぁ。

 俺達は海賊よー。

 死んだ海賊ー。

 俺達は運が良かっただけー。

 いや、違うか。違うなー」


 骸骨が頭をカリカリとかいて一人で船を漕ぐ。


「死ねる海賊は良い海賊よー!」


 ゆっくりと漕ぐ。


「死ねない海賊は悲しい海賊よー!」


 他の小船からも骸骨が叫ぶ。


「俺達は悲しい海賊よー!

 お前達は運が良いほうさー。

 何せ、死ねる海賊なんだからなー」


 かみ合わない話が続いた。

 だが、それもそうだろう。

 こいつらは聞けば死んだ存在だ。

 俺達は生きている。

 生ある者が死者に問うなんて馬鹿げている話だ。


「海のー……は海賊ー…俺達は海賊ー……」


 ふと、骸骨が歌を歌いだす。

 誰でも知っている海賊の歌だ。

 俺でも知っている。

 たまに口ずさむ。


「海の中はー……藻屑と消えー。

 宝はー……俺達の酒と知れー……」


 荒くれ者達が顔をあげる。

 皆、歌った事ある歌だ。


 一人が続くように歌うと、海に飲み込まれるように他の奴も歌う。

 小さい声が大きくなり、他の小船からも声が聞こえる。

 終いには、海賊全員が歌いだしていた。


「おーおー!

 良い声じゃねえかー。

 良いねー良いねー!

 陸地までは、そのいきで頼むぜー!」


 骸骨の船員が嬉しそうに声をあげて、続いて歌いだす。


 深夜の海に俺達の歌が響いた。

 それは、陸地につくまでずっとだ。

 魔物がいれば、一瞬で獲物にでもなったかもしれん。

 だが、俺達の声は魔物すらも引き寄せなかったようだ。


 陸地が見えるまで。俺達海賊はがむしゃらに歌った。

暇つぶしになってもらえれば幸いです。

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