12話-次の日へ-
それから、後ろ髪を引かれる思いでバロッサ親子には泊まって言ってほしいと言われたが、俺は首を横に振って海へと走って消えていった。
ルーにも、ヴァルガスに宜しくといわれたので、軽く頷いた。
ス・ムークの立場ということもあって「借りを返しただけに過ぎない」と答えておいた。
実際そんな大きな借りがあるのかって言われるとないんだけどな……。
むしろ、ゲーム上、ヴァルガスの方が貸しだらけなきがする……。
いや、まてよ?
船の費用から装備の代金等はヴァルガスが資金提供していたようなものか?
つまり、ス・ムークの立場的にはヴァルガスはスポンサーになるのかもしれない……よな?
いやいや、プレイヤーは同じなのだから、そこまで深く考えなくても良い……のか?
道中そんな事を考えながら、海上で進路を変えて、島の中でも人気のない森側に入る。
誰もいないことを確認してから同様の手順でヴァルガスに戻った。
キャラクターチェンジも二度目ともあって、難なくできた。
これで、数日間、いや、数年間とチェンジできなかったらどうしようかと悩んだが、そうはならなかった様だ。よかったよかった。
そして気がついたこともある。
なんとキャラクターチェンジをすると、身体的老廃物から、服の汚れまで綺麗に落ちている。
これに関しては、ゲームでの記憶があった……。
これはゲームでもあったキャラクターチェンジのバグだ。
『希望を船にのせて……』の初期ロットに含まれていたやつだな。
このゲーム。装備品に『耐久力』というのが存在してたんだが、何故かキャラクターチェンジを実行すると、装備していた品が新品同様になってしまうというバグがあった。
勿論、これは修正パッチを当てれば直るのだが、後半の装備になると修理できない代物が多かったためか、パッチを当てないプレイヤーも多かった。
ただ、パッチをあてないと追加シナリオが遊べないので、ギリギリまで育ててからパッチを当てるというのが一般的になっていた。
……そこまで再現されてていいのかと突っ込みたいが……。
あんまり深く考えるのもどうかとおもってやめた。
思いつめると頭が禿げるきがするしな……。
しかしキャラクターチェンジで身体的にもスッキリか……。
……いや、精神的にもスッキリしてるかもしれない。
頭が軽い。これは便利だが……。
便利だが、いつも見た目が綺麗とか、不審者レベルがさらにアップした気がする。
まあ、どうにでもなれだ……。
****
夜もふけてきた頃に宿に戻ると、オバちゃんが声をかけてくれた。
「おかえりさん!
なんか綺麗になっちまってないかい?
……あんた、大丈夫かい?」
心配そうにしてくれるオバちゃんに俺は苦笑いした。
いや、オバちゃんにしてみれば気になる面白話かもしれないが……。
個人的に、全然大丈夫じゃないです。ともいえないのが辛い。
「すいません。色々あったので風呂はやめておきます。
今日はもう寝ようかと」
「そうかい? 食事はちゃんと取ったのかい?
良く分からないけど困ったら良いなよ?
主人なら夜遅くまで起きてるからね?」
オバちゃんとしては色々と突っ込みたいんだろうなぁ。
しかし、それ以上はオバちゃんは何も言わなかった。
本当に優しいオバちゃんだ。
「ありがとうございます」
オバちゃんにお礼をいいながら、俺は部屋に戻った。
行動力を大量に使った所為か、体力的な疲れ方徐々に押し寄せてきた。
俺は一目散にベッドに倒れこんで力尽きた。
重い瞼が綴じて意識が消える。
外から聞こえる虫の音と居酒屋の騒音が、深い眠りへと誘った。
****
次の日だ。
朝早くオバちゃんに挨拶をすると、オバちゃんの主人が呼んでいるとの事で、隣の酒場に寄る。
行ってみると、朝もはやから豪華な魚料理を振舞われた。
しかもお酒付だ。
「何をしていたか知らないが、昨日は忙しかったと聞いた……。
ゆっくり食え、酒はオマケだ。
食ったら出て行け。今日もがんばれよ」
表情の読めない店主の粋な計らいだった。
思わず涙が流れそうだ。
腹も空いていたし、言葉なんて気にしないで思いっきり食べた。
ギルドからお金は入るんだろうけど、その親切心が嬉しい。
朝っぱらから酒はどうかとおもうが、貰えるモンは貰うべきだ。
あけて、呑んでみると少し酸味のきいた甘い味がする。
あ、これ果実酒だ。度数も低そうでゴクゴクいける。
朝から、元気のでる一日だった。
****
こうして、二日目も散歩からはじまった。
朝も早いのに市場では商人達の声が飛び交う。
つまり昨日とあまりかわりはなさそうだ。
といっても、人の混雑度やバザーを開く商人は多いかな……。
例の工芸貴族は居なかった。
来るのが早すぎたか、それか、色々と捕まってるのかもしれない。
貴族は忙しいって、ゲームでも言ってたからな……。
「見つけた!」
「なんだルーか? 母親は無事回復したか?」
「貴方のおかげでね。お父さんがお礼をしたいって」
「わかった気が向いたら伺うと言っといてくれ」
また酒に付き合わされる予感しかしない。
こっちのキャラクターで火酒なんて呑んだら耐えられる気がしない。
軽い果実酒ですでに軽く酔っているしな。
そんなんで大丈夫か商人。
「……伝えておく。でも昨日は本当に助かったのありがとうバルガス」
「困ったときはお互い様だ。あとヴァルガスな」
発音って難しいよな。
「……ありがとうヴァルガス。
これで良い?」
「完璧だ」
俺は親指を立てて答える。
俺が壁に寄りかかると、ルーも横に並ぶ。
「お互い様ってー……。
それは値踏みなしで?」
上目遣いで尋ねるルーに俺は苦笑した。
「さあてな……?
状況によるか、相手によるな?」
「ふぅん………?」
「ただ素敵なレディを助けたいと思うのは誰しも思うだろ?
「あら、口説いてるの?」
「残念だが守備範囲外だ。
あと数年してお互いにフリーなら交渉の余地はあるかもしれない。
ただルーのお父さんはいい人だからな?
悪い商人には反応がよろしくないだろ?
挨拶に伺って次の日にはクラーケンの餌かもしれないな」
俺は冗談半分で両手を上げた。
「ふふっ。あなたは悪い商人さんって事?」
ルーさん確信をつくのが上手いじゃないか。
商人はどっちでもあるからな。
俺は考えるように一呼吸おいて答える。
「商人なんて打算が普通だからな。
一時的によくても次はそうもいかないときはあるだろ?
確かに信用は大事だが……。
商人によっては金に目がくらむものもいる」
「気まぐれ者が多いっ事になるのかな?
まるで女の子みたい?
それか猫?」
「間違ってはいないきがするな……。
否定も肯定もできないのが商人の辛いところだ」
自由気ままに商いをする。
これほど楽しい事はないからな。
今日も商人達や船乗り達の声が飛び交う。
そして、表情も人それぞれだ。
嬉しいやつもいれば、暗い奴もいる。
朝から騒いでるやつもいれば、バザーを楽しむ者もいる。
まさに交易の場だ。
「話しは変わるけどヴァルガスは交易商人なのよね?」
「そうだな?」
「外の世界ってどう?」
ルーが何処と無く興味気に聞く。
「外の世界……か。
さて、どうかな?
俺は東側から来たからな?
西側や、大陸側の事はさっぱりだ」
「東って……魔物だらけの?」
「そうだ 記憶があいまいでな?
自分でもよくわかってないんだ」
俺は軽くルーに記憶が無い事と、東から来てここにたどり着いたと話した。
真面目に話す俺の言葉にルーはしっかりと聞いて頷く。
しかしルーは何処吹く風か、長い髪をいじり始めて急に興味を失う。
つかみどころが本当にないな。
「それは大変ね?
なんだか嘘みたいな話だけど?」
確かにルーのいう事はもっともだった。
俺はばつが悪そうな顔をする。
あながち間違ってはいないしな。
「随分な言い草じゃないか?
しっかり思い出して話したんだぞ?」
「だって、ねぇ?
記憶が飛び飛びなのに、助けを呼んでくれたの?
やっぱり変よ?
何かを隠してるって感じじゃない?」
「そりゃまあ……そうか」
俺は苦笑した。
そりゃそうだ!
どうやって武装神官を呼んだんだってなるわな!
そんなの誰でも思うわな!
俺が「んー……そうだなぁ」と唸ってるとルーはそれ以上突っ込んでこなかった。
まあ、何か分けがあるんだろう位にはおもってるみたいだが。
「ま、まあ!
交易商人ではあるぞ!
この島で、何かしら交易品を積んだら、次の港へ行くつもりだ」
まったく行き先に当てがないけどな!
「ふうん……。じゃあ、この島も出てっちゃうんだ?
「商人だからな?
交易商で旅でもしてれば、そのうち記憶がもどるかもしれないだろ?」
「ふぅん……。
その、消えた思い出が嫌な記憶だったらどうするの?」
首をかしげながらルーが真剣な顔で尋ねる。
「そこまでは考えたこともないなぁ……」
俺はこの世界の事を置いといたとしても本音でそうつぶやいた。
「人間記憶なんて曖昧だろ?
いい記憶も悪い記憶も全て覚えているわけじゃないはずだ……ただわかることは。
忘れた記憶ってのは気になるもんだってくらいかな」
「そうなんだ?」
少女が興味げに答える。
なんだか、ジロジロと見られて良いふんに気ではなかった。
俺はとりあえず、話の方向性を変える事にした。
「しかし記憶も大事だがもっと大切な物もある」
「大切なもの?」
「金だな。とりあえずギルドにこれ以上お世話になるわけにはいかないからなぁ」
俺はぶつぶついいながら港に向かった。
ルーは「面白そうね?」といって俺の後ろを追従する。
*****
船着き場について俺は自分の船にのりこんだ。
ルーは俺の船をみて、意外にも驚いた。
「え………これを一人で操舵してたの?」
「そうだな」
「ふうん……今のは、船乗り的な冗談にしては笑えないかな。
とりあえず減点?」
とりあえずで減点されるかよ!!
なんだか心外だ。
つか別段洒落でもなんでもないわけだが。
俺はめんどくさそうにため息をついた
デッキに乗って、船室に入り、例の金を探す。
すると 小麦粉がある倉庫に金貨が一枚あった。
よく盗まれずにあったものだ。
「一応あったか」
俺は金貨を懐にしまうとルーは呆れたように息を吐いた。
「まさかヴァルガス……お金を置きっぱなしだったの?」
「言葉もないな。
東側では金は何も効果がないからな。
交易するにしても、物々交換が主流だ……いやだったはずか?
記憶があいまいだ」
「そう………。
あなたという存在が生きているのが不思議なくらい東側は危ないって事が良く分かる」
心外だ!
いや間違いではないけどな!
「なんとでも言え。
しかし小麦しかないからな……。
これじゃあ当面の旅費が困る」
「前みたいに工芸品でも作ったら?
見てたけど、凄い出来じゃない?」
「見てたのか……。
あれはあれで目立ちすぎるくさいからな……」
「……商人は名が売れないと交易もできないんじゃ?
ヴァルガスは本当に商人さんなの?
お金を置いていく商人ってのも変だしー……」
ルーが怪しいといわんばかりの視線をむける。
「………そりゃそうか」
俺は唸った。
しかしあまり名をあげると王家がめんどくさそうだからなあ……。
いや、保護されるのもありかもしれないが……。
よくよく考えてみたらゲームより面白い世界だしなぁ……。
「なにか隠し事があるって顔してるね」
「商人だからなぁ。隠し事なんて沢山あるだろ」
「でも隠し事があったらまず焦らない?
あまり焦っている印象がないのよね。
不思議な商人さん」
まさに言われ放題だ。
「つか、俺の事情に興味があるのか?
危ない奴かも知れないのに?」
「あら? レディーは何時だって興味とスリムを求めてるわ?
そんな事も知らない?」
「そんなのはしらん!
あとスリムじゃなくてスリルな!」
「それよ、それスリル!」
そこで俺はクツクツと笑った。
****
それから、他愛もない会話がが続いた。
いわゆるどうでもいい話だ。
俺が、冗談気取りで話せば、ルーはそれを突っ込み。
ルーがちゃかしてみれば、俺は聞き流す。
そうやって、会話のキャッチボールをしててよくよく考えてみてわかった。
今の俺には相談、ないし会話相手がいる!
それなら、ルーはちょうどいいかもしれないな!
ただの町娘みたいなものだし。
若干、不思議ちゃんでもあるが!
家も港の外れだし、変な奴らとの交友関係も少ないだろ!
多分だけど……な!
俺は船室にあった適当な木箱に座る。
ルーもそれに続いた。
「ここからの俺の話しはちょっとイカれてるぞ?
それでも構わないか?」
俺の突然の爆弾発言にルーは待ってましたといわんばかりに笑顔になった。
これはあれか?
こいつも親父の特質を継いでるのかもしれないな。
「やっとね! 承りましょう?」
ルーの視線が俺を真っ直ぐ見据える。
つか こんなオッサンに興味だけで突っ込むお嬢さんがいるなんてな。
この世界もなかなかどうして面白そうだ。
頭の中で何か良いスキルを探す。
何か静かに出来るスキルスキルーっと。
お? 静寂のスキルがあったなこれにしよう。
俺がスキルを発動。
『スキル<静寂>を使用シマス』
周囲が無音になって静けさが支配したところでルーが何事と首をかしげた。
「周りに聞かれるとめんどうだからな音を消しておいた」
「ここの話が外に漏れないって事?」
「そんなもんだ」
「それって凄い……。
ヴァルガスは魔法使いさんだったの?」
「違うわ!
俺は交易商人だ!
後、話してやるのは良いが。
変に話を広めるなよ?」
「どうして?」
俺はルーの純粋な質問にため息をついて答えた。
「めんどくさいからだ」
ホント、ソレね。




