10話-調合-
挨拶もそこそこに、バロッサの家にズカズカと上がり込む。
勿論クラーケンの肝を手に持って。
「クラーケンの神経毒に何故クラーケンの胆がいるのかは簡単だ。
おい、何でも良い。コップをよこせ」
「あ、ああ!
ルー! その辺にコップが合ったな!」
「はいお父さん!」
「これでいいか!」
娘から父へ渡されたコップを俺が受けとって、それにイカの肝を潰して注ぐ。
クラーケンの癖に肝は小さいとか、色々と突っ込みたい。
「貴様らにも分かりやすく教えてやる。
クラーケンの神経毒は目に見えないクラーケンが大量にいると思え。
そして親玉でもある死んだクラーケンの胆には目に見えない位小さな死んだクラーケン達がいる。
こいつらが重要だ。
小さなクラーケン達は死んだ仲間を見ると連鎖反応で死ぬ。
この作用を利用して、貴様の妻は助かるわけだ」
大きいクラーケンも、この連鎖反応で死んでくれればいいんだけどな……。
まあ、世の中そううまくはいかない。
コップに注いだ胆の汁を軽く刺された腕にかける。
傷口からでも、連鎖反応はできるからな。便利だ。
むしろ、どんだけ死に安い奴らなんだろうな。
数分して効果がでてきたのか、ルーの母親の顔に安堵の表情が戻っていった。
呼吸も安定し始める。
安全を考慮して、手首から脈拍をはかり状態を確認。
一定の速度で安定している。もう、大丈夫そうだ。
「これで拙僧の仕事は終わりだ。
残ったイカの汁は医者どもにでもくれてやれ。
軽い毒程度なら緩和につかえるからな。
いや また貴様らがクラーケンにやられるとも限らないか………。
面倒だが、解毒用ポーションを三つ………いや四つ作っておこう」
家を出て、その辺の石を掴む。
『スキル<錬金>を使用シマス』
そして、行動力を込める。すると石が透明な水晶に変化した。
さらに力をこめる。
『スキル<錬金>を使用シマス』
すると今度は水晶が変形して瓶にかわる。
ファンタジー世界お得意の錬金術だ。
このスキル<錬金>だが、ゲームでは何故か生産系職業では覚えなかった。
多分、宝石とかを見つけたり採掘するのに冒険系職業として使いたかったんだろうな。
例えばだが、ゲーム中で遺跡とか鉱脈とかを探しにいく冒険系シナリオがある。
そういうのは大抵見つかるアイテムが『赤い石の塊』だったり「青い石の塊」だったりした。
これらを宝石の原石にするのがスキル<錬金>だったのだ。
あとは、錬金っぽい素材の精製ができるようになっていた。
薬の調合とかもこちらでお手の物だ。
なので、ス・ムークは医者としての知識も備わっていたりする。
つっても、薬を調合して飲ませる程度だから、調剤師に近いのか?
まあ、手術系スキルは軽い低レベルのしかもってないしな……。
ああ、でも回復系スキルがあるか。
スキル<応急処置>やスキル<蘇生>は実用性レベルでもってるはずだ。
瓶に残った肝エキスと海水を一対一で入れる。
そして。
『スキル<調合>を使用シマス』
調合を使用して、なおかつ。
『スキル<錬金>を使用シマス』
錬金で、瓶の蓋を完全にくっつけて密閉する。
使うときは蓋の部分を割って使う。
もったいないが、完全密閉しておかないと効力が弱まるからな。
「ついでにポーションも作っておくか」
瓶を作って、海水を入れて調合のスキルを使うだけであら不思議。
回復ポーションの出来がありである。
これで行動力も回復できれば素晴らしいのだが、流石にそこまでの物は海水では作れない。
海水は命の水とか言われてるのにな。残念だ。
家に戻ってポーションをバロッサに渡した。
バロッサが驚いた顔で受け取る。
「こ、これは?」
「こっちが解毒ポーションだ。
そしてこっちが回復ポーションだ。
どちらもこの地域でどれだけの価値があるかは拙僧にはわからない。
だが、決して売るな。
それは貴様らが金銭で渡して良いものではない。
貴様が使いたいと思った奴に使えば良いが、拙僧のシリス教において金銭での取引は禁忌でな」
めんどくさい事はシリス教の所為にしておこう。
こうすれば、出所もシリス教がかぶってくれるだろ。
「な、何から何まで……本当にありがたい。
だが、ス・ムークさん。俺は貴方に何を渡せば良い?
これだけしてもらってすまないが……うちには何も無い。
もし、俺の命で代価になるなら、何にでも使ってほしいっ!」
「お父さん!?」
バロッサがとんでもない事をいいはじめる。
流石にルーもこれには黙ってはいない。
「お前と母さんなら大丈夫だ。
俺がいなくてもどうにかなる。
だが、ここまでしてもらうのは不味い。
お前と母さんだけでも守れれば俺は本望だっ!」
「そんな……」
いやいや、オッサンいなくなったら困るだろうよ!
もうちょっと考えてくれよ!
俺はバロッサに近づいて、奴の胸倉を掴んだ。
「勘違いするなよニンゲンッ!
……拙僧は請け負った仕事を果たしたまでだ。
それ以上、それ以下でもない。
しかし、拙僧も悪魔ではない……。
そこまでいうなら、一仕事してもらおう」
「い、いったい何をするんだ?」
バロッサの胸倉を離して、俺は浜辺に転がっているクラーケンを担いだ。
そして思いっきりグルグルとまわして、海へと投げ込む。
遠くの海へと飛ばされたクラーケンの亡骸が、遠くの海で大きな水しぶきを起し、そして消えていく。
俺は何事も無かったかのように、砂浜に座り座禅を組む。
「海に感謝の祈りを捧げる。
貴様らも付き合え。それだけで良い。
口を閉じ、目を閉じ、手を合わせ、呼吸を整えろ。
その間に拙僧が海に感謝を捧げる。
これもまた、シリス教の教えなり」
『スキル<シリスの祈り>を使用シマス』
唐突にしゃがれた声が海に響く。
スキル<シリスの祈り>はとある遺跡で使うと道が開くスキルで、むしろ歌に近い。
基本的に何処でも使えるが、効果は特に無い。
無いが、シリス教ではこれが、いたるところで使われていた。
ちなみにスキルを覚える条件も、シリス教に入らないと駄目だったりする。
ただ、俺自身は気に入ってはいる。
なにせ、何処で使っても、このスキルでどのシーンでもBGMの変更が可能なので、怖いシナリオでもバッチリだ。
特に不協和音と叫び声があがる『とある場所』でのBGMをかき消せるのが素晴らしい。
つか、場所によってガラスを切り裂く音とか、黒板をアレする音などあるのはどうなんだと問い詰めたい。数少ないプレイヤーをいじめるな!
このゲーム、無駄に怖い要素や酷い音が多すぎるんだな。
特に冒険系……。
例えば……そう、このシリス教とかな。
大昔の正式名称は『シー・リリース教』だったらしい。
つまり『sea release』単純に『海+解放』みたいなかんじなんだが……。
シリス教関係の後半シナリオで手に入る『シリスの聖書』の最後のページには血文字でこう記されている。
『我々ヲ海カラ解放セヨ、我々ヲ海カラ解放セヨ、我々ヲ海カラ解放セヨ』
これ、絶対触っちゃいけない様な話なんだろうな……。
考えるだけで怖くなってくる。
何が悲しくて航海を楽しむゲームで、サイコでホラー路線を進まないといけないのかと。
まあ、今は祈りの最中だ。変な事を考えるのはやめよう。
俺は、祈りに集中した。
海風が俺の声を攫っていった。
ブックマーク、ありがとうございます。
暇つぶし程度に読んでもらえれば幸いです。




