第4話 偉い人だって仕事中に猫動画を見たい
「キトラ様初めまして。内閣総理大臣の鬼住 和守と申します」
「女神■■■■■■様の遣いとしてこの地に参った神獣のキトラだニャ。会談の場所を設けてくださり感謝するニャ」
まずは首相と異世界の代表としてキトラが挨拶を交わす。
キトラとしてはさっさと本題に入って帰りたいが勇者のためと言い聞かせながら、彼が各国の王と会っていた時にやっていたことを思い出して真似して挨拶をする。
実際に話す猫を見た周りにいる人間やオンラインで視聴している人達がザワつく。
嘘のような事前情報がなければ大変な騒ぎになっていたであろう。
だがそんな周りを気にせずに2人は話を進める。
「ギルドから上がってきた話ですと、ある人物の救出が本来の目的で、そのついでにこちらの質疑応答にも答えてくれると言うことでお間違いないでしょうか?」
「その通りニャ。こちらの目的は我らが世界を救ってくれた勇者ヨシモリ・カナンの救出。要求はその家族と救出したヨシモリの一定期間と保護および護衛だニャ。その見返りとして問題の無い範囲でダンジョンについて質問を受け付けるニャ」
「かしこまりました。我が国の威信にかけて必ず安全の確保をしましょう。不躾ながら1つよろしいでしょうか?」
「ニャ?」
「その勇者たるカナン様ですが何故救出が必要なのでしょうか?お力になれるかもしれませんのでお教え願いたい」
「う~んこの話は他言無用ニャ。漏れたら漏らした本人だけじゃなくて一族に族罰が下る話になるニャ」
お前は何聞いてくれてるんだ!?と周囲に緊張が走る。
総理もやぶ蛇をつつくことになるとは思わなかっただろうが少し考えればわざわざ異世界から神に限りなく近い神獣が送られてくる時点で厄介事でしかないのだ。
「簡単に言うと世界を救った勇者の魂を返す際に死にかけだった邪神が干渉して、こちらの世界に入り込んでるニャ。使われたら術式的に勇者の近くにいるはずだからまずは居場所の分かる勇者を救出して、その後迅速に邪神を討ち果たすつもりニャ。邪神の正体は女神様は教えてくれなかったけどにゃーなら勝てるらしいからそこは安心してほしいニャ」
これは女神の大失態であり、創世神がそのような失態を犯して他の世界に問題を起こしたとなると、その権威に影響があるので内密での解決を女神は望んでいる。
ちなみに邪神が入り込んだ経緯はもう少し複雑なのだが言う必要のないことなのでキトラには意図的に省かれて伝えられている。
勇者が世界を救ってくれた。邪神がこっちに来てしまった。
これ以上の事実はキトラにも、こちらの世界の人間にも必要がない。と女神とこちらの神々と話はついていた。
だからキトラも邪神の正体のことは勢力争いに負けて堕ちた神としか聞いておらず、キトラ自身も創世神たる女神様が勝てると断じて、倒せば勇者を救えるならそれ以外は興味がなかった。
「なるほど。話が大きすぎて理解が追いつきませんが貴方様のお言葉を信じましょう。我々に出来ることがあればなんなりとお申し付けください」
首相の鬼住はよく分からないなりに分かるように務めた。
ダンジョンが出現して世界の常識は変わってしまった。
なら分からないが受け入れてその上でどうするかということに舵を切ることにしたのだ。
「いい心構えニャ。今のところ要請はないけど勇者がいるダンジョンは完全攻略するからそのつもりでいるニャ。そこの最下層である50階に飛ばされたことが分かっているので拒否は許さないニャ」
完全攻略。
ダンジョンのコアを破壊することである。
破壊されたダンジョン内にいるモンスターは全て消滅し、ダンジョンが再生するまでの1週間近くは立ち入ることが出来なくなる。
ダンジョンが出現して30年ほど経つが、大型ダンジョンの完全攻略は未だ世界でも成し遂げられていない偉業である。
そして他国に先んじて深い階層のデータを得られるというのは大きなアドバンテージとなる。
「完全攻略はこちらとしても望むところです。是非ともお願い申し上げます」
鬼住総理がそう言うと、私からもよろしいでしょうかと平野が発言を求めた。
キトラはニャとだけ返事をする。
「先にお渡しした古竜の鱗ですがキトラ様が自身で討伐したものであり実力は疑いがありません。しかしキトラ様のお姿はどう見ても猫であり、このままですと、間違いなくトラブルになります」
それはそうだろうとみなが思う。
猫がこのような武力を持ってダンジョンに潜っているとなると必ず何かトラブルになるのは火を見るより明らかだ。
そもそも強力な力を持つ猫はもうモンスターの部類なのだから。
「そんなの絡んできた奴らを全員ぶっ飛ばせば誰も手を出せなくなるから別にいいニャ」
実に野生らしい回答であった。
神獣相手にどうか出来る人間などいないだろうが、何をしても世論が面倒なことになる。
そして平野は我に秘策ありとニヤリと笑う。
「キトラ様はそれで良いと思いますが、万が一でもキトラ様とカナン様とそのご家族の関係を知られるとカナン様達に非常にご迷惑がかかります」
「それは困るニャ。それじゃ何をすればいいニャ?」
「要するに危険は無い。人類側の味方だと知らしめればいいのです!」
「つまりどうするニャ?」
「キトラ様が配信者!いや配信猫としてその愛くるしくも雄々しいお姿を下々に見せつけてやりましょう!」
「・・・・・・・・・・・・にゃぁ」
熱くなる平野にキトラがかなり引きながら返事をする。
平野は己の野望のために必ずキトラを説き伏せる。そんな強い意志で熱弁を振るう。
「キトラ様が配信することにより、我々はダンジョンの未踏部分を知る事が出来ます。これによる情報を周知すればダンジョン攻略は進み、多くの冒険者の力となり我々の利益となります!」
周りがドン引きするほどの熱量で彼は拳を握りしめて演説を続ける。
「さらにキトラ様は人類の味方、いや超越者と知らしめることにより自然と勇者様や神様にも畏怖の念が集まります!そして何より配信による収益とキトラ様が倒した敵のドロップ品をお売り下されば勇者様とそのご家族様をキトラ様が金銭的にも助けてそのお方達の力になれるのです!!」
「よく分からにゃいがその配信と言うのをしたら勇者達に恩を返せるでいいのかニャ?」
「えぇ!!その通りです!!この日本ではお金は武力であり権力であり信用です。つまりキトラ様が配信することによって全て上手く行きます!」
「分かったニャ。それじゃやってやるけどニャーが受けとるお金はカナン家に渡すものと寄付するものに分けて欲しいニャ」
「寄付ですか?」
「そうだニャ。勇者も報酬で得たお金は3人と1匹パーティなのに5等分してそのうちの1つを戦争遺族や教会が運営する孤児院に寄付してたニャ」
「承知致しました。キトラ様の望むままに」
平野は頭を下げてニヤリと笑った。
全て彼の思惑通りに事が進むことになった。
自分の近くで暴れられたり、同じ部屋にいるのは正直めちゃくちゃ嫌だが配信ならどうだ?
可愛い猫が大暴れでモンスターを倒す配信。
見たい。お金を払ってでも見たい。
それも業務と称して猫の動画を見れる。
辛い仕事の中に癒しがないなら癒しを作ってしまおう。
嫌な仕事中に猫ちゃんが大暴れする動画を業務として見て仕事をサボれる。
しかもその時間も給料が発生する。
彼はキトラと冒険者とのトラブルの際にあったコメントの多さと切り抜き等の再生回数からこのコンテンツは伸びると確信していた。
仕事もサボれて、国益になり、しかも手柄となる。
完璧の一手だった。
その思惑通り話は進み、キトラはダンジョン庁お抱えの配信猫として配信を開始することが決まった。
――――――――――――――――――――――――――
キトラとリモート参加の方には先に退出して頂き、部屋には首相とダンジョン庁の役員、ギルドの代表として平野、その他の大臣クラスが残っていた。
「薄々そうでないかとは思ってはいたが、改めて異世界から出現したと説明されるとやはり驚きますな」
「それもまさか神の意思とは。神がいたとしても、既に神の手を離れていると思いましたが、比喩ではない神の見えざる手によって介入されていたとは・・・・・・」
「確かに資源の枯渇や人口の増加は問題ですが、他にも何か問題があったからダンジョンなどを作った気がしますけどね」
キトラが語ったダンジョンが出現した理由は簡潔だった。
「利害の一致ニャ。人口が増えて資源が枯渇しそうでしかも神秘を手放したこの世界への救済と、ニャーの世界で増えすぎたダンジョンを何とかしたい利害が一致したニャ。資源にはなるけど、世界の発展を妨げているダンジョンを地球に送る。そうすれば地球は世界はダンジョンとドロップ品が資源となり、ニャーの世界はダンジョンが減ってモンスターが減るから文明が発達するニャ。その利害の一致で両世界の代表2柱で合意したニャ」
「ちなみにダンジョンを作り出したのは女神様で、どこに設置するか決めたのはこちらの神様ニャ。あと言うまでもニャいけど神の奇跡によって作られてるものだから当然ダンジョン最深部から世界を渡るなんてことは神じゃないと不可能ニャ」
そう説明を受けた時は鬼住は安堵した。
もし渡れるとなれば異世界からの侵攻や病原菌に備える必要があった。
そしてこちらから異世界を侵略して恐らく文明の遅れている世界で覇権を握ろうとする国家も現れるはずだった。
そのようなことにならず済んで安心したあとの質疑応答も有意義なものであった。
回復魔法やポーションの危険性、魔力について、スキルとなんなのか、モンスターが何故馴染み深い姿なのかなどの質問にキトラの見解も混じえてだが少なくとも最低限のことは教えてもらい後は自分たちで解明しろとの事だった。
キトラとしても知らないことも多く、また神に連なる者が不必要に知識をばらまくのは悪影響を及ぼすので話せないことも多いと彼が言っていたこともあり混乱はなく終わった。
「さて、言うまでもないが日本政府としてキトラ様を全面的に支持して奉るつもりだ。幸いにもある程度、人間社会に理解をしてくださっているので、要求は基本的に受け入れながら本当にまずいところだけは勘弁願うことにしよう」
鬼住がそう言うと誰も反対はしない。
キトラが部屋に案内された時に纏っていた雰囲気は人や動物のそれではなく言いようのない神々しいとしか表現出来ない雰囲気を纏っており本能から慄いた。
挨拶が終わるとすぐに普通の猫にしか見えなく、そして感じなくなったために意図的に自分は正しく上位存在だと誰にでも分かるようにしたのであろう。
自然災害のようにもしもに備えながら最後は頭を下げながら終わるのを待つしかないのと同じであった。
鬼住は彼の要求通り、カナン ヨシモリの家族を保護するための調査とキトラをどのように公表して活動してもらうか検討することにした。
余談ではあるが鬼住は猫派であり、彼もまたキトラの配信を公務と言い張って堂々と視聴しようと考えていた。




